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39.肝が据わってますね(1)

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人獣じんじゅうどもにけるんじゃないかって言う、バカなヤツらがいてな。俺があずかったんだ。こいつも、せっかく逃げて来れたっていうのにな」

と、がつくる日影ひかげこしろしたフーチャオさんが、抱いてる白い子犬の頭をでた。

デマのひとつも流れておかしくない極限きょくげん状態じょうたい、ということなんだろう。しかも、「それは間違まちがい」と断言だんげんできる材料は何もない。

ついさっきまでおだやかに見えてた景色けしきが、急に不穏ふおんに見えてくる。みんな、おかしくなりそうにめてるのもまた、事実だろう。

メイファンは可愛かわいくて仕方しかたないといった笑顔で、子犬の背中を撫でている。ミンユーは黙って少し離れたところに座って横目よこめ警戒けいかいの色をかべてる。

ミンユーの腰が引けた仕草しぐさに、犬が苦手だった里佳りかの姿がチラついた。並んで建ってる俺達の家の、斜向はすむかいの家でわれてたポメラニアンもこわがってた。

リビングのガラスしによくえる日は、高校生になっても俺の影にかくれて登校してた。可愛かわいかった……。

と、顔に手をててうつむいた俺に、フーチャオさんが話しかける。

「女たちの服の件、ありがとうな。みな、喜んでる。女が明るくなれば、男は勝手に明るくなる。しょげ返ってても、いいことないからな」

「いえいえ。フーチャオさんが、すぐに色々、手配てはいしてくれたからですよ」

「私たちの服も、今、お母さんがってくれてるんだよ! すっごい楽しみ」

と、メイファンが声をはずませた。ミンユーも小さくうなずいている。うーん……、立派なれますね。直視しないように気を付けてても、つい、視界に入ってしまう。

……俺。元々はそんなキャラじゃないんだけどな。毎日毎日、なまでいっぱい見せられてるせいです。きっと、そうです。

「それで、今日はどうした?」

と、フーチャオさんが聞いてくれて、頭がわった。俺は、本題ほんだいを切り出した。

狩人かりうどさんたちに、人獣との闘いに加わってもらいたいと思って……」

と言うだけで、フーチャオさんの表情にけわしさが浮かんだ。言葉を挟まれる前に言い切る。

「……フェイロンさんに承諾しょうだくしていただきました」

途端にフーチャオさんの顔から険しさが消え、小さなおどろきの表情になった。メイファンとミンユーも、はと豆鉄砲まめでっぽうらったような顔をしている。

「ほう……。フェイロンは何て言ってた?」

「最初はシキタリに反するっておっしゃってたんですけど、最後は人獣のことを『弓矢で仕留しとめられたなら、けもの。剣で仕留しとめたなら、人』って、おっしゃってくれました」

今朝けさ、一緒に話してくれたシアユンさんから経緯いきさつを聞いているのか、ツイファさんはました顔で、微笑びしょうかべて目をせている。

メイユイは少し離れたところに立って周囲を警戒けいかいしてくれているので、たぶん、声は聞こえてない。

フーチャオさんは、ニヤリと笑った。

たいしたもんだな、マレビト様は。いや、さすが祖霊それいに選ばれたマレビト様だけある、ってところか。分かった。協力きょうりょくしよう」

と、フーチャオさんが差し出してくれた手を、俺は強く握り返した。
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