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空がまた夕焼けに染まり始める頃、宮城の東に張り出してる『司徒府』に足を運んだ。
農業と治政が担当の責任者である、司徒で小太りのウンランさんを訪ねた。食糧と資材を管理してるって聞いてたので、その内容を確認したかった。
さっき、俺のことを『腰抜け純情野郎』と褒めてくれたユーフォンさんと、ツイファさんに連れて来てもらった。言うこと言えてスッキリしたのか、ニコニコしてる。
ウンランさんは人の良さそうな笑顔で俺達を迎えてくれて、資材管理が担当だというスイランという女子を呼んだ。
赤縁の眼鏡をかけたスイランさんの、空色の髪と凛々しい眉毛、それに控え目な膨らみに見覚えがあった。うん。眼鏡は外してましたけど、いました。お風呂場で既に会ってますね。
ほどよいサイズ感に高校の同級生にいそうだなぁ、なんて思っちゃってました。真面目そうな雰囲気に赤縁眼鏡がお似合いですね。
「倉庫に収まっている食料や資材の管理は、すべてスイランが取り仕切っておりますでな」
と、会議のときと同じ柔和な口調のウンランさんが紹介すると、小柄なスイランさんがペコッと頭を下げた。
スイランさんの案内で、倉庫をいくつも見て回った。食糧は充分に蓄えられてるように見えたけど、実際、これがどのくらいもつものなのかは分からない。その他にも、木材や布地、鉄や金属なんかも、たっぷり蓄えられてるように思えた。
「北の蛮族から侵攻された場合に、王都の剣士団が派遣されてくるまでの間、籠城して持ちこたえることを想定されています」
と、スイランさんが事務的なテキパキとした口調で説明してくれる横を、短い木材を抱えた男の人たちが通り過ぎた。俺は視線でスイランさんに説明を求めた。
「篝火に使う薪です」
「そうか。大量に要りますよね」
「はい。ですが、今のところ心配するほどではありません。ウンラン様の指示で充分に蓄えられておりましたから」
「食糧はどうです? あと何日もちますか?」
俺は一番聞きたかったことをスイランさんに尋ねた。毎晩、その夜をしのぎ切れるかどうか分からない状況ではあったけど、活路を見出すにしても、それは長期戦になるとしか思えなかったからだ。
「剣士たちが戦闘を継続できるだけの体力を維持できる配給量だと、あと80日というところです」
「確かに、激しい運動量ですからね」
「もし仮に、守りを固めて戦闘を避けられる方法が見付かって、救援を待つだけと仮定したら約110日」
「救援が期待できるんですか?」
「……私見ですが」
「はい」
「正直、望みは薄いと思っています」
「なるほど。良ければ理由を教えてくれませんか?」
「……ひとつは、救援を求める使者を出しましたが、未だ何の報せも届きません。昼間、活動の低下した人獣の間を掻い潜って行ったものですが、残念ながら、無事にたどり着けているとは、とても……」
なるほど。手出ししなければ攻撃してこないといっても、すごい数がいれば、避けながら進むのは簡単じゃない。というか、無理がある。
「……もうひとつは、皆、考えないようにしていることではありますが……」
と、スイランさんは凛々しい空色の眉をグッと寄せて目を伏せた。
「人獣たちは南から現われました。……王都は南にあります」
そうか。なんで気付かなかったんだろう。ジーウォ城は王国の北の端っこに位置するって聞いてたのに。
救けに来てくれるはずの王都も人獣たちに襲われてるとしたら……。
「もちろん……」
と、スイランさんは顔を上げた。
「王都にも人獣たちが現われているとしても、王都剣士団が撃退し、救援に来てくれることを信じていない訳ではありません。ですが、それには時間が必要でしょうし、それまでの間は、ジーウォの剣士団に持ちこたえてもらうしかありません」
そうだな。今は出来ることをするしかない。
「あと、食糧の備蓄のことを補足してもよろしいでしょうか?」
「ぜひ」
「最終城壁内に避難させることが出来た牛馬を潰せば、あと20日は食糧が尽きるのを延ばすことができます。ただ、戦後の復興を考えると大きな支障になるので最終手段です」
なるほど。絶望的な状況でも、先のことを考える人も要る。今晩生き残れるかどうかだけじゃなくて、生き残れた後のことも考えないといけない。たくさんの人の上に立つっていうのは、そういうことなんだな。
「さらに言えば、今は夏です」
夏なのか。過ごしやすいと思ってたけど、北の端っこってことか。
「ジーウォの農地はすべて第3城壁と外城壁の間にあります。うまく撃退できたとして、育ちの速い食物を植えて収穫することを考えると、50日で撃退できれば皆を餓えさせることなく過ごすことが出来ます」
スラスラ数字が出てくるスイランさんは、城の備蓄を完璧に把握してるんだろうな。頼もしい。
それにしても、残り時間50日。ただし、毎晩の戦闘が、あの激しさで50日。途方もない長さに思える。
ポンッと、あの女子たちとの混浴も50回って浮かんでしまって、自分の頭をポカポカ叩いた。俺を囲んでる女子3人が、不思議そうな目で見てる。
な、なんでもないんで……。自分、腰抜けですから……。
農業と治政が担当の責任者である、司徒で小太りのウンランさんを訪ねた。食糧と資材を管理してるって聞いてたので、その内容を確認したかった。
さっき、俺のことを『腰抜け純情野郎』と褒めてくれたユーフォンさんと、ツイファさんに連れて来てもらった。言うこと言えてスッキリしたのか、ニコニコしてる。
ウンランさんは人の良さそうな笑顔で俺達を迎えてくれて、資材管理が担当だというスイランという女子を呼んだ。
赤縁の眼鏡をかけたスイランさんの、空色の髪と凛々しい眉毛、それに控え目な膨らみに見覚えがあった。うん。眼鏡は外してましたけど、いました。お風呂場で既に会ってますね。
ほどよいサイズ感に高校の同級生にいそうだなぁ、なんて思っちゃってました。真面目そうな雰囲気に赤縁眼鏡がお似合いですね。
「倉庫に収まっている食料や資材の管理は、すべてスイランが取り仕切っておりますでな」
と、会議のときと同じ柔和な口調のウンランさんが紹介すると、小柄なスイランさんがペコッと頭を下げた。
スイランさんの案内で、倉庫をいくつも見て回った。食糧は充分に蓄えられてるように見えたけど、実際、これがどのくらいもつものなのかは分からない。その他にも、木材や布地、鉄や金属なんかも、たっぷり蓄えられてるように思えた。
「北の蛮族から侵攻された場合に、王都の剣士団が派遣されてくるまでの間、籠城して持ちこたえることを想定されています」
と、スイランさんが事務的なテキパキとした口調で説明してくれる横を、短い木材を抱えた男の人たちが通り過ぎた。俺は視線でスイランさんに説明を求めた。
「篝火に使う薪です」
「そうか。大量に要りますよね」
「はい。ですが、今のところ心配するほどではありません。ウンラン様の指示で充分に蓄えられておりましたから」
「食糧はどうです? あと何日もちますか?」
俺は一番聞きたかったことをスイランさんに尋ねた。毎晩、その夜をしのぎ切れるかどうか分からない状況ではあったけど、活路を見出すにしても、それは長期戦になるとしか思えなかったからだ。
「剣士たちが戦闘を継続できるだけの体力を維持できる配給量だと、あと80日というところです」
「確かに、激しい運動量ですからね」
「もし仮に、守りを固めて戦闘を避けられる方法が見付かって、救援を待つだけと仮定したら約110日」
「救援が期待できるんですか?」
「……私見ですが」
「はい」
「正直、望みは薄いと思っています」
「なるほど。良ければ理由を教えてくれませんか?」
「……ひとつは、救援を求める使者を出しましたが、未だ何の報せも届きません。昼間、活動の低下した人獣の間を掻い潜って行ったものですが、残念ながら、無事にたどり着けているとは、とても……」
なるほど。手出ししなければ攻撃してこないといっても、すごい数がいれば、避けながら進むのは簡単じゃない。というか、無理がある。
「……もうひとつは、皆、考えないようにしていることではありますが……」
と、スイランさんは凛々しい空色の眉をグッと寄せて目を伏せた。
「人獣たちは南から現われました。……王都は南にあります」
そうか。なんで気付かなかったんだろう。ジーウォ城は王国の北の端っこに位置するって聞いてたのに。
救けに来てくれるはずの王都も人獣たちに襲われてるとしたら……。
「もちろん……」
と、スイランさんは顔を上げた。
「王都にも人獣たちが現われているとしても、王都剣士団が撃退し、救援に来てくれることを信じていない訳ではありません。ですが、それには時間が必要でしょうし、それまでの間は、ジーウォの剣士団に持ちこたえてもらうしかありません」
そうだな。今は出来ることをするしかない。
「あと、食糧の備蓄のことを補足してもよろしいでしょうか?」
「ぜひ」
「最終城壁内に避難させることが出来た牛馬を潰せば、あと20日は食糧が尽きるのを延ばすことができます。ただ、戦後の復興を考えると大きな支障になるので最終手段です」
なるほど。絶望的な状況でも、先のことを考える人も要る。今晩生き残れるかどうかだけじゃなくて、生き残れた後のことも考えないといけない。たくさんの人の上に立つっていうのは、そういうことなんだな。
「さらに言えば、今は夏です」
夏なのか。過ごしやすいと思ってたけど、北の端っこってことか。
「ジーウォの農地はすべて第3城壁と外城壁の間にあります。うまく撃退できたとして、育ちの速い食物を植えて収穫することを考えると、50日で撃退できれば皆を餓えさせることなく過ごすことが出来ます」
スラスラ数字が出てくるスイランさんは、城の備蓄を完璧に把握してるんだろうな。頼もしい。
それにしても、残り時間50日。ただし、毎晩の戦闘が、あの激しさで50日。途方もない長さに思える。
ポンッと、あの女子たちとの混浴も50回って浮かんでしまって、自分の頭をポカポカ叩いた。俺を囲んでる女子3人が、不思議そうな目で見てる。
な、なんでもないんで……。自分、腰抜けですから……。
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