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22.真っ赤に染まる(1)
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マルティン様の《子づくり宣言》から、4日が過ぎた――。
相変わらず寝室は、別。
朝起きて、お喋りしながら砂浜を散策して、剣術の稽古をして、夕陽を眺めながらディナー。就寝。
鏡の中の私とにらめっこして、つい、つぶやいてしまう。
「ど……、どっちも……、リードできねぇ……」
どっちも――と言っても、私の方は初心で照れ臭いというだけで、マルティン様ほど深刻な事情がある訳ではない。
マルティン様は、私に想いを打ち明けてくれるだけで疲弊しているのかもしれない。無理強いするつもりはない。
意識してしまうと期待もしてしまうのだけど、私の方が待つべきだ。
分かってはいるのだけど、
――だ! 抱かれたってこと!!
と、大っぴらに叫んでたシャルロッテさんに、手ほどきを受けておけばよかった。
思えば、あの時点で私は既に、かなり初心だった。
しかし、上半身裸のお姿を見ただけで、赤面してフリーズするほど免疫がないとは、思いもよらなかった。
やはり、生の体験はすごい。
迫力が違う。
マルティン様のお美しくて逞しい半裸のお姿を思い返すだけで、少し赤面してしまう……。
そして、想像してしまうのだ――、
夕陽を眺める崖の下には岩場があって、そこに温泉が湧いている。
この集落の重要な観光資源だ。私たちのために集落を空けられたのはオフシーズンが近いせいもある。
いつか、この露天の温泉に2人で浸かって、美しい夕焼けを眺められたら――なんて思い描いてしまうのだけど、私は私で言い出せずにいる。初心だから。
マルティン様の裸もそうだけど、私の裸を見られるなんて……、見られるなんて!
美しいけど。
結局、崖の上からチラチラ見て「温泉に興味あるんだけどなぁ――」なんて素振りをしてみせるのが関の山で、そんなことで気持ちが伝わるなら誰も苦労なんかしない。
温泉自体にも興味津々だけど、こうなったら1人で入るのもなぁ……。
◇
午後のお茶の時間はソファで向き合って、静かに過ごす。
2人とも黙っているけど、何もしてないという訳ではない。
マルティン様が《鑑定》や《探知》の魔法を使われて、私の擬態魔法を解けないか調べてくださる時間だ。
魔力を持たない私には、マルティン様がされていることは分からない。
けど、私のために王国の至宝ともいえる魔力を使ってくださっているのだ。おとなしくお茶をいただきながら、窓の外を眺める。
ふっと、マルティン様が顔を背けた。
頬も赤くしている。
「どうかされました……? もしや、なにか分かったのですか!?」
「いえ……、失礼しました」
「……なにがあったのです?」
「その……」
「はい」
「《鑑定》でも《探知》でも埒があかず……」
「ええ……」
「よもやと思い……、《透視》を用いてしまい……」
私は思わず、バッと腕で身体を隠した。
「み……、見たのですね? ……私の……裸を」
「すみません……」
「い、いえ……、ふ、夫婦ですもの。見られて困るものではありませんし」
「失礼を……」
「……ど、どうでした?」
「は?」
「へ、変ではありませんでしたか……?」
「……」
「……変でしたか?」
「き、綺麗……でした…………」
私はまだ赤面していたけど、マルティン様の反応は複雑だった。
性的といえば、これ以上に性的なものはないだろう。私の乏しい知識では。
私を愛おしんでくださる気持ちと、身体の奥底から湧き上がる拒否反応とがせめぎ合ってる。
そんな表情をされていた。
「魔力の受け渡しも試みているのですが……」
「魔力の受け渡し?」
「ええ。前にも申し上げた通り、アリエラには魔力がない訳ではなく、すべてが擬態に費やされています」
動揺を抑えつけようとされているのか、マルティン様は少し早口だ。
それはちょっと、可愛い。
「私の魔力を注ぐことで、その流れをご自身で制御できるようになるキッカケをつくれればと思ったのですが……」
「魔力は受け渡したりも出来るのですね」
「ええ、一時的なものですが」
マルティン様は、最初にお会いしたときからこうだ。
私の困りごとを親身になって解決しようとしてくださる。持てる力を惜しみなく使ってくださる。
――ほ、惚れて……惚れて……ます……。
見られちゃったし……。
相変わらず寝室は、別。
朝起きて、お喋りしながら砂浜を散策して、剣術の稽古をして、夕陽を眺めながらディナー。就寝。
鏡の中の私とにらめっこして、つい、つぶやいてしまう。
「ど……、どっちも……、リードできねぇ……」
どっちも――と言っても、私の方は初心で照れ臭いというだけで、マルティン様ほど深刻な事情がある訳ではない。
マルティン様は、私に想いを打ち明けてくれるだけで疲弊しているのかもしれない。無理強いするつもりはない。
意識してしまうと期待もしてしまうのだけど、私の方が待つべきだ。
分かってはいるのだけど、
――だ! 抱かれたってこと!!
と、大っぴらに叫んでたシャルロッテさんに、手ほどきを受けておけばよかった。
思えば、あの時点で私は既に、かなり初心だった。
しかし、上半身裸のお姿を見ただけで、赤面してフリーズするほど免疫がないとは、思いもよらなかった。
やはり、生の体験はすごい。
迫力が違う。
マルティン様のお美しくて逞しい半裸のお姿を思い返すだけで、少し赤面してしまう……。
そして、想像してしまうのだ――、
夕陽を眺める崖の下には岩場があって、そこに温泉が湧いている。
この集落の重要な観光資源だ。私たちのために集落を空けられたのはオフシーズンが近いせいもある。
いつか、この露天の温泉に2人で浸かって、美しい夕焼けを眺められたら――なんて思い描いてしまうのだけど、私は私で言い出せずにいる。初心だから。
マルティン様の裸もそうだけど、私の裸を見られるなんて……、見られるなんて!
美しいけど。
結局、崖の上からチラチラ見て「温泉に興味あるんだけどなぁ――」なんて素振りをしてみせるのが関の山で、そんなことで気持ちが伝わるなら誰も苦労なんかしない。
温泉自体にも興味津々だけど、こうなったら1人で入るのもなぁ……。
◇
午後のお茶の時間はソファで向き合って、静かに過ごす。
2人とも黙っているけど、何もしてないという訳ではない。
マルティン様が《鑑定》や《探知》の魔法を使われて、私の擬態魔法を解けないか調べてくださる時間だ。
魔力を持たない私には、マルティン様がされていることは分からない。
けど、私のために王国の至宝ともいえる魔力を使ってくださっているのだ。おとなしくお茶をいただきながら、窓の外を眺める。
ふっと、マルティン様が顔を背けた。
頬も赤くしている。
「どうかされました……? もしや、なにか分かったのですか!?」
「いえ……、失礼しました」
「……なにがあったのです?」
「その……」
「はい」
「《鑑定》でも《探知》でも埒があかず……」
「ええ……」
「よもやと思い……、《透視》を用いてしまい……」
私は思わず、バッと腕で身体を隠した。
「み……、見たのですね? ……私の……裸を」
「すみません……」
「い、いえ……、ふ、夫婦ですもの。見られて困るものではありませんし」
「失礼を……」
「……ど、どうでした?」
「は?」
「へ、変ではありませんでしたか……?」
「……」
「……変でしたか?」
「き、綺麗……でした…………」
私はまだ赤面していたけど、マルティン様の反応は複雑だった。
性的といえば、これ以上に性的なものはないだろう。私の乏しい知識では。
私を愛おしんでくださる気持ちと、身体の奥底から湧き上がる拒否反応とがせめぎ合ってる。
そんな表情をされていた。
「魔力の受け渡しも試みているのですが……」
「魔力の受け渡し?」
「ええ。前にも申し上げた通り、アリエラには魔力がない訳ではなく、すべてが擬態に費やされています」
動揺を抑えつけようとされているのか、マルティン様は少し早口だ。
それはちょっと、可愛い。
「私の魔力を注ぐことで、その流れをご自身で制御できるようになるキッカケをつくれればと思ったのですが……」
「魔力は受け渡したりも出来るのですね」
「ええ、一時的なものですが」
マルティン様は、最初にお会いしたときからこうだ。
私の困りごとを親身になって解決しようとしてくださる。持てる力を惜しみなく使ってくださる。
――ほ、惚れて……惚れて……ます……。
見られちゃったし……。
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