【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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最終章 聖山桃契

281.呑み込まれる

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 踊り巫女姿の4人の女性王族は、黙ってペトラを見詰めている。


 ――このまま北に走り、王都を出ましょう!


 という妹ファイナの悲痛な訴えを、ペトラはやわらかく退けた。

 5人がいる北離宮は、王都の北の端に建っている。

 目と鼻の先に、アイカ率いる救国姫軍の陣が布かれており、駆け込めばすぐに脱出することができた。

 そしてアイカは、


 ――これ……、最初から密会場所が北離宮って分かってたら、みんなで踊り巫女のしなくても、わたしの陣からヒョイっと来れたんじゃないですかね?


 と、思っていたが、黙ってスンとした顔で座っていた。


 ――いいもの見れましたし!! いや、いまも見れてますし!!


 続く言葉を待たれていることに気付いたペトラが、薄く笑みを浮かべて口をひらいた。


「わたしは、討たれねばならぬ」

「そ、そんなことありません! お姉様はもう充分なお働きを為されました」

「……ファイナよ」

「われら姉妹、天空神ラトゥパヌに誓ったではありませんか! ……この命尽きる日まで、姉妹仲良く、共に助け合い、慈しみ合い、喜びも楽しみも、……苦しみも、分け合って生きていこうと」

「……そうであったな」

「お姉様は、わたしと交わした契誓をお破りになるのですか!?」

「ファイナ、そなたが私を慈しんでくれる気持ち、しっかりと受け取った。わたしも、おなじだけ、そなたを慈しんでおる」

「それでしたら!」

「……われらは《聖山の大地》に、ファウロス陛下の血を流した。ふたたび王国を統一するためには、そのあがないが要ろう」

「そんなもの……、リーヤボルクの血で良いではありませぬか」

「……王の血は重い。あのような痴れ者どもの血では到底、あがないとはなるまい。いや、そうしてはならんのだ」


 寂しげな笑みを浮かべ視線を落すペトラ。

 ふいに、リティアが快活な笑い声をあげた。

 みなの視線がリティアにあつまる。


「そんなもの、要りませぬ!」

「……わたしの血では、あがないにはならぬとでも?」

「われら三姫……、わたし、ロマナ、アイカの3人は、父王ファウロスと同様に、武力をもって《聖山の大地》の平定を成し遂げました!」

「……それは」

「《聖山の大地》には、既にたくさんの血を吸わせてしまいました! いまさら、あがないの血など、必要としてはおりません!」


 おおきく目を見開いたペトラは、リティアの《天衣無縫》に呑み込まれそうな自分に気が付き、

 キュッと目を堅くほそめた。

 リティアは、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべ、そのペトラの顔をのぞき込んだ。


を用意します」

「家……?」

「ペトラ殿下がこの先ずっと、心穏やかに過ごしていただけるです。であろうとも、ペトラ殿下の望まれる形で、迎え入れます。この《天衣無縫の無頼姫》リティアの名に懸けて、誰からも文句は言わせません」

「……いかなる形でも」

「そうです! こちらに座る《清楚可憐の蹂躙姫》と《奇想天外の救国姫》が証人です! ペトラ殿下とファイナ殿下にお約束いたします!! ……神に誓うより、女同士の約束の方が、破ると怖いでしょう?」

「……ふふっ」


 片目をほそめたリティアの笑みに、ペトラもおもわず笑い声をこぼした。

 リティアはもう一段、身を乗り出して、ペトラにささやく。


「……ペトラ殿下は、最後にを残しているとお考えなのでしょう?」

「それは……」

「果たして下さいませ」


 真剣な色を帯びたリティアの夕暮れ色をした瞳に、ペトラが息を呑む。


「邪魔はいたしませんし、我らもペトラ殿下がを為される時まで、静かにお待ちいたします。ただし……、為された後は、必ずわれらの陣中にお運びください」


 ペトラは、サミュエルをはじめリーヤボルク歴戦の将や蛮兵たちを相手に、いちども怯まず、一歩も退いたことはない。

 だが今は、リティアの放つ《ファウロスの娘》の気迫に、完全に呑まれていた。

 まるで心を操られてしまったかのように、自然と首を縦に振った。

 リティアはニコリと笑って席を立つ。


「ペトラ殿下はお約束くださった! ロマナ、アイカ、行こう。陣に戻り、ペトラ殿下のお越しをお待ちしよう!」

「あの……」


 と、見あげたファイナに、リティアがささやく。


「外でお待ちしております。わずかな時間で申し訳ないが、姉君とおふたりでお過ごしください」


 ハッと顔を見るファイナに、リティアはニコリと笑みを返し、扉に向けて歩きはじめた。

 ロマナとアイカも、ファイナに笑みを向け、ペトラにかるく会釈してから席を立った。


「……こ、この恰好で、なにもせずに待ってるのは、気恥ずかしいわね」


 と、廊下でほほを赤く染め、胸元を隠したロマナの肩を、リティアが抱いた。


「な、なによ?」

「ロマナが恥ずかしいのを我慢してくれてるおかげで、部屋の中では姉妹が抱きあって過ごせるのだ」

「そんなの、分かってるわよ。……ちょっと言ってみただけじゃない」

「ふふっ。意外と似合ってるぞ? 今度、一緒に踊るか?」

「バ、バカ言わないでよ! 絶対イヤだからね……って、アイカも期待した目でこっち見ないで! もう! なんなのよ、こっちの義姉妹しまいはっ!!」


 しばらくして、目元を赤くしたファイナが部屋から出て来て、三姫にふかく頭をさげた。


「よしっ! 逃げるぞっ!」


 と、リティアの合図で、4人の女性王族はそのまま北に、アイカの陣中まで駆けた。


   *


「この姿を、絶対、部下には見られたくない!!」


 というロマナの強い意向で、みながアイカの天幕で着替えた。


 ――きっと、ペトラは王都を脱出してくれる。


 その想いで満たされた天幕の中には、穏やかな空気がながれる。

 さきに着替えを終えたロマナは、木箱の上に腰を降ろし、


「あー、恥ずかしかった。ほんと、二度とやらないからね!? 今回はペトラ殿下のために特別なんだからね!」


 と、まだ赤いほほを、指で持ちあげたり伸ばしたりしている。

 ファイナは上品な困り顔に笑みを浮かべて頷き、リティアは悪戯っぽい笑みでロマナを見ていたが、

 アイカは気付かれないうちに、ロマナの背後に立っていた。


「ふふふふふふふふふふふふふ」

「わぁ、……なによ?」

「私は知っています」

「……なにをよ?」

「今日のことも、いつの間にか言い触らされているのです」

「言い触らす? 誰が?」

「リュシアンさんです」

「は?」

「聖山神話に奇跡の一節が加わった! とかなんとか、なことを言って、みんなに言い触らされるのです。私は知っています」

「いや……」

「だいたい私の《奇想天外》は、いつのまに漏れて、いつのまに広まったのでしょう?」

「そ、それは……」

「リティア義姉ねえ様がポロッと漏らされた一言が、なぜかリュシアンさんの耳にまで届いていたのです」

「ちょ、ちょっと……、怖いこと言わないでよ」

「ほどよい大きさのおっぱいを白いビキニに包んだ蹂躙姫とか、ペタンコで揺れない救国姫とか言い触らされてしまうのです!!」

「え? ……イヤなんだけど」

「……総候参朝、もうすぐですね」

「あ……」

「……王都の角々に吟遊詩人さんたちが立ちますね。……最後は、列候さんたちのまえで披露されるんですよね?」

「イ、イヤァァ――――――っ!!」

「なにをふたりして遊んでるんだ? ファイナ殿下が戸惑われてるじゃないか」


 と、笑い飛ばしたリティアであったが、当然のようにこの密会は聖山神話にのこり、後世まで詠い継がれた。

 ただし、三姫の胸の大きさがどうとか詠われることはなかったが――。
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