【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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最終章 聖山桃契

280.時を刻んでもらうがため

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 ペトラは北離宮の奥の部屋へと、リティアたちを招き入れた。

 近侍の者たちにも部屋に近付くことを禁じて人払いをし、扉を堅く閉めた。

 かつて部屋にはルーファ産の豪華な調度品がならんでいたが、リーヤボルクの蛮兵たちに盗み出されてしまったのであろう、

 簡素な丸テーブルと椅子だけが無造作に置かれていた。

 リティアにとっては母エメーウとの思い出ぶかい一室でもあったが、いまは忘れることにしてペトラを見詰める。

 そして、ペトラの勧めるまま、踊り巫女姿の三姫とファイナが椅子に腰をおろし、ともにテーブルを囲んだ。

 静けさが5人の女性王族に、ぬらりと絡みつくような重たさを感じさせる。

 しかし、ペトラは内心の動揺を押さえ込んだ微笑をたたえ、妹ファイナに声をかけた。


「……久しいの、ファイナ。今はどうしておるのじゃ?」

「ロマナ様に保護していただいております」


 ファイナは、今にも叫びながら姉ペトラにしがみ付き「一緒に王都を出ましょう!」と訴えたいのをグッとこらえた。

 まずは、ペトラとゆっくり話をしようと、三姫から言い含められている。


 ――ペトラの覚悟は、情理を超えたところに置かれている。


 と言われては、その通りだとしか、ファイナにも思えなかった。

 ペトラはぎこちない笑みを、ロマナに向けた。

 大軍を率いるとはいえ、いまだペトラにとってロマナは〈列候の娘〉である。


「……公女殿。ファイナが世話になっておるようで、私からも礼を申したい」

「いえ……、ペトラ殿下のご苦難を思えば、この程度のこと誇れるようなことではございません」


 と、踊り巫女姿のロマナが恭しく頭を下げると、ペトラの眉がピクリと動いた。

 その表情を見て、ロマナは静かに話を続けた。


「リーヤボルクめに祖父ベスニクを囚われ、王都に偵人を潜ませておりました」

「……当然のことにございましょう」

「偵人から届く断片的な報告からだけでも、ペトラ殿下の気高きお振る舞いに、ふかい感銘を受けておりました」

「……それは、過分なお言葉。痛み入ります」

「ペトラ殿下のご苦難、身を挺して王国を守られた誇り高き行いは、遠くヴールの地まで鳴り響いております」

「そのような、ではございません……」


 と、ペトラの声に自嘲が帯びようとしたとき、アイカが口をひらいた。


「旧都のカタリナ陛下もっ! ……ペトラ殿下のお祖母さまであるアナスタシア陛下も……、ずっと、ずぅ――っと、ペトラ殿下のことを案じていらっしゃいます」


 内親王たる妹ファイナが、公女ロマナの庇護下にあって恥じるところを見せないこと以上に、

 アイカの存在は理解に苦しむ。

 報告は受けている。


 ――リティアが義姉妹しまいの契りを与えた。

 ――ザノクリフの新女王イエリナ=アイカと同一人物であった。

 ――バシリオスが草原に建国したコノクリア王国を援けた。


 しかし、ペトラの記憶の中では、まだまだリティアの可愛がる内気な少女、《無頼姫の狼少女》としての印象の方が強い。

 審神みわけを受けたカタリナはともかく、祖母アナスタシアの名にも親しみがこもる理由が理解できない。

 ただ、


 ――王都の外で、時を刻んでもらうがための、わが苦難の道であった。


 と思えば、状況に取り残されているように感じることには、むしろ心が満たされた。

 自分が実感することは出来ないが、この桃色髪の少女は、王国の要人となり、みなから愛されているのであろう。

 きっと、自分とはまったく違う苦難の道を歩んだ末に、ひかり輝く御座に就いたのだ。


「いや……、玉座か」


 と、ペトラはクスリと笑った。


「アイカ殿どの……、いえ、アイカ陛下。ザノクリフ女王におなりあそばされたとか。まことに、おめでとうございます」

「あ、いえ、そんな……、ありがとうございます」

「カタリナ陛下を通じ、われらとも血縁があったとは、不思議なご縁です」

「……そうですね」

「ザノクリフ王国は、わがテノリア王国の建国に賛意を与えてくださった要国。どうぞ末永い友好関係を、わたしからもお願い申し上げます」


 アイカに対してふかく頭をさげたペトラに、


「お姉様! いますぐ、このまま北に走り王都を出ましょう!」


 と、ファイナが悲鳴を上げるように訴えた。

 穏やかに語るペトラの、アイカへの申し様に「自分のいなくなったテノリア王国を託す」という響きを感じとり、耐えることが出来なくなったのだ。

 瞳にいっぱいの涙をためたファイナに、ペトラは優しく微笑みかけた。


「わたしは行かぬ。……行ってはならんのだ」


 穏やかな響きのする声、やわらかな拒絶。

 ファイナはそれ以上に言葉を継ぐことが出来なかった――。
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