【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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最終章 聖山桃契

264.灰になるぞ

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 ロマナの怪訝な視線に気付いたリティアはうすく笑い、もう一度おなじことを言った。


「総攻撃は出来ないんだ」

「だから、それどういうことよ? ここまで来て日和ってるわけ!? リティアらしくもない」


 リティアとロマナが直接顔を合わせるのは、昨年の総候参朝以来である。しかし、昨日も会っていたような気安さで、ろくに挨拶も交わしていない。

 そんなふたりを、アイカは微かな憧れの気持ちを抱いて眺める。

 リティアはロマナを見詰める瞳に力をこめた。


「リーヤボルク兵は王都を出ない」

「……それが、なによ?」

「王都を戦場にすれば、あいつらは火を放つぞ?」


 クレイアを王都に潜入させた際、リティアはリーヤボルク兵の備えを調べさせていた。

 城壁をもたない王都ヴィアナ。

 戦闘になれば、即市街戦を意味する。

 そこを、どう防衛するつもりなのか、クレイアを通じて無頼たちにも調べさせていた。

 ロマナが、憎々しげに顔をゆがめる。


「……戦争なんだから、仕方ないじゃない」

「ヴールの神殿も灰になるぞ?」

「んんっ……」


 ふたたび表情に険しさを戻したリティアに、ロマナは返す言葉をなくす。

 アイカは、ザノクリフ王国の主城ザノヴァル城が焼け落ちた姿を思い起こし、顔を青くしていた。

 自分の魂を容れてくれたイエリナ。

 その幼き日々の生きた痕跡は何ひとつ残っておらず、すべてが焼け落ちていた。

 火を放つ――、その恐ろしさと残酷さは、まざまざとアイカの目に焼き付いている。


「……それは、ダメね」


 ロマナは、かろうじて声を絞り出した。

 王都内に構えたヴールの神殿には、古来から伝わる主祭神〈狩猟神パイパル〉の神像が祀られている。

 これが焼け落ちたとなれば、ロマナの権威は損なわれ、ヴール統治の正統性がおおきく揺らぐ。

 もちろん、ロマナ自身の信仰としても許しがたい事態だ。


「ロマナだけではない。聖山三六〇列侯、みなの権威に傷が入り、王国は今以上の大混乱に陥る。……まして王都に神像を集めさせたテノリア王家の威光は地に落ちる」

「……たしかに、そうだけど」


 ロマナは唇を噛んだ。

 祖父ベスニクの仇ともいえるリーヤボルク兵を、3倍ちかい兵力で囲んでいる。

 いますぐにでも攻め込み、怨みを晴らしたい想いに駆られているロマナは、堅く拳を握りしめた。

 ロマナの気持ちも分かるリティアは、その拳に手を置いた。


「……サーバヌ騎士団を壊滅させても、ラヴナラを長く攻囲しても、リーヤボルク兵は王都からピクリとも動かなかった」

「リティア、そのためだったの……」

「ほかにも色々仕掛けていたが、誘い出す策のすべてに乗ってこなかった。……リーヤボルク兵を率いるサミュエルは、間違いなく王都の価値を分かっている」

「……狡猾なヤツ」

「そうだ。ここからは、我慢くらべの知恵くらべだ。華々しい一大決戦に気をはやらせる将兵を抑えろ」

「……分かったわ」


 眉間にシワを寄せ、奥歯を噛みしめるロマナ。

 パンッと手を打ったリティアは、満面の笑みを浮かべた。


「さあ、これからは毎日ここでお茶会だ!」

「はあ!?」

「わたしとロマナの秘めた仲を世に知らしめなくてはな!」

「ちょっと、やらしい言い方しないでよ」

「アイカもだ!」

「は、はいっ!?」

「われら3人が心をひとつにしている様を見せつけねば、いずれ兵に動揺をうむ」

「……それはそうね」


 堅い表情でロマナがうなずく。

 ロマナが従える軍勢5万も混成である。中核となるヴール軍は士気も旺盛で、忠誠にも篤い。しかし、もとは西方会盟として敵対していた者たちもいる。

 蹂躙姫ロマナの圧倒的な威名で押さえ込んでいるが、隙を見せれば裏切ることも充分に考えられた。

 クレイアの淹れてくれたお茶に、リティアが口をつける。


「われらが楽しそうに遊んでいれば、リーヤボルク兵も誘われて王都から出て来るかもしれん」

「……もう、アイカばっかり」

「ええっ!? わたしですか?」


 恨めしそうに口を尖らせるロマナ。


「草原でも、この前のでも、リーヤボルクと直接戦ったのはアイカだけじゃない」

「あ、それは、なんか、すみません」

「はははっ。本当だな」


 快活に笑うリティアと不満顔のロマナを、アイカはキョロキョロと見比べてしまう。


「われらが王国内をまとめるのに必死な間に、いいところは全部アイカに持っていかれてしまった」

「ちょ……、義姉ねえ様までやめてくださいよぉ~」

「でも、総候参朝までに決着をつけるって宣言したからには、リティアにも考えがあるんでしょ?」


 アイカの困り顔で溜飲をさげたのか、ロマナもすまし顔をしてティーカップを手に取った。

 リティアは、アイカの頭をなでながらほほ笑む。


「中から崩すしかないな」

「まあ、そうよね」

「われらの侍女様方の出番だ」


 ニマリと笑ったリティアに、恭しく頭をさげる侍女たち。

 リティアの侍女アイシェ、ゼルフィア、クレイア。

 ロマナの侍女ガラ。

 そして、アイカの侍女カリュ、サラナ、アイラ。

 隊商の出入りを許した王都のなかで、侍女たちの暗躍が始まる――。
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