【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
262 / 307
第十一章 繚乱三姫

247.無頼姫、強し!!

しおりを挟む
 《西南伯のえつ》を預けられていたロマナの口から、太子レオノラ、その妃レスティーネ、そして長子サルヴァの死が、ベスニクに伝えられた。

 苦渋にみちた表情のロマナ。

 しかし、ベスニクの顔にはみるみるうちに赤みがさし、生気が満ち溢れてくる。

 自身はながく虜囚の辱めを受け、戻ってみれば太子は斬首されており、その妃は謀叛を企て嫡孫に討たれ、嫡孫も自刃に果てていた。

 ベスニクの痩せ衰えた体躯に湧き上がってくるのは、


 ――憤怒。


 いかにレスティーネが心を病み、母娘関係が拗れていたとしても、太子が健在であれば起きなかった悲劇だ。

 ロマナには、なんの非も責もない。

 激しい怒りが背骨となり、ベスニクを立ち上がらせる。


「お、お祖父さま。……無理はなさらず」

「ロマナ」

「はっ……」


 顔を紅潮させたベスニクの額には血管が浮かび、吊り上がった目は爛々とかがやく。ほそくなった身体は怒張し、ひと回り大きくなったかのようだ。

 しかし、ロマナの目に、ベスニクは笑っているようにも見えた。


「よくヴールを守った」

「……いえ。たいしたことも出来ず」

「ルカス、リーヤボルク……。この怨み。必ず晴らしてくれようぞ」


 なたのように鋭く重いベスニクの眼光は、とおく北東の王都ヴィアナを見据えた。

 ロマナの胸中は英邁な祖父の帰還による安堵に満たされ、しかし、そこには一抹の不安がまぎれた。

 祖父の激情が、衰えた体躯をかえりみず溢れだしたとき、

 自分には止められるだろうか――、と。


   *


 第六騎士団が敗走してゆく。

 昼のつよい日差しが降り注ぐ、丘陵地帯。

 王都ヴィアナの南東、ラヴナラとメテピュリアの中間にあたる起伏に富んだ一帯で、

 隊伍は完全に崩れ、万騎兵長パイドルが声を枯らして叱咤するが、無様すぎる潰走は止まらない。

 掃討にかかったサーバヌ騎士団の先頭では、興奮した親王アスミルが馬上で大はしゃぎであった。


「見よ! 見よ! なにが、第六騎士団だ!? なにが、無頼姫だ!? ひと当たりしただけで、あの様よ!! 追え! 追え――っ! ひとりも生きて帰すな――っ!」

「父上。あとは万騎兵長に任せ、おさがりください」


 という息子ロドスにむけたアスミルの眼は血走っている。


「馬鹿を言うな! リティアめを我が手で捕え、ルカス陛下に献上してくれるわ! 参朝のよい手土産じゃ! あの小生意気な王女に縄目をかければ、ルカス陛下も我らをお認めくださるに違いない!!」


 と、馬に鞭をいれ、先頭を駆ける勢いで駆け出していくアスミル。

 父の騎影が陣の中に消え、ロドスはため息を吐いた。

 圧倒的大勝利ではある。

 しかし、率いる王族がみずから敗兵狩りに駆けるようでは、かえって威信を損ねかねない。

 そんな息子の憂慮には気付かず、アスミルはサーバヌ騎士団の兵を煽り続ける。


「行け、行け! 残らず討ち取れ! 見よ! 我らを恐れて、峡谷の方へと逃げ込みおるわ!! あんな逃げ場のないところに駆け込むとは知恵のない。行け、行け――っ!!」


 自身も切り立った崖に囲まれた峡谷に馬を入れ、勢いよく駆けてゆく。

 しかし、アスミルが気が付かなかったのは息子の憂慮だけではない。

 見苦しい敗走を重ねる第六騎士団には、ただのひとりも死者がでていなかった――。


 ドォォォォ――ッン!! 


 という轟音が響き渡り、ロドスの視界から父アスミルの姿が消えた。

 いや、目のまえにあったはずのが消えている。

 音と振動に驚いた馬を押さえてなだめ、自分も激しく動揺しながらあたりを見回す。

 やがて、崖の上から無数の大岩が落とされ、峡谷の入口がふさがれたのだと知れた。

 そして、崖の上には逆光に照らされてかがやく赤茶色の髪――、


「はははっ! パイドル公の逃げっぷりは見応えがあったな!」

「はっ。大地の起伏を巧みに活かした戦術。さすがは《山々の民》ザノクリフ王国で培われた見事な献策にございました」


 快活に笑うリティアの横には、筆頭万騎兵長ドーラの姿。

 向かいの崖では万騎兵長ルクシアがパイドルの計略を讃えて、ちいさく口笛を吹いた。

 そして、両方の崖の上は第六騎士団の兵士たちで満ちてゆく。

 敗兵を追っていたはずのサーバヌ騎士団16,000は、大岩のむこうにアスミル率いる12,000と、手前のロドス4,000とに完全に分断されてしまった。

 父アスミルを助けようにも、大岩に阻まれ前に進みようのないロドスは狼狽して立ち往生し、

 大岩でできた袋小路に押し込められた形となったアスミルは、頭上に次々とあらわれる多数の兵士を見上げ、愕然としている。

 しかも、追っていたはずの敗兵は、整然と隊列を組み直し、こちらへ突撃する構えをみせる。

 おおきく息を吸い込んだリティアは、大空を斬り裂くような声を戦場にひびかせた。


「投降する者は剣を置き、鎧を脱げ! 王国騎士の誇りを求める者を止めはせぬ!! わが第六騎士団の矢の餌食となって、誇りをまっとうせよ!!」


 その声を合図に、崖の上からアスミルたちに降り注ぐ無数の矢。

 まえにはパイドル率いる1万、うしろには大岩、両横は切り立った崖。なす術もなく斃れてゆくサーバヌ騎士団の兵士たち。

 アスミルに飛びついた万騎兵長アレクが、そのまま地に伏せ覆いかぶさる。


「……わが失策。面目次第も……」


 とうめくアレクの背にも次々と矢が突き立つ。


 ――王国の騎士が投降などするはずあるまい。


 とでも言わんばかりの、無慈悲な攻撃。

 ロドスの目にも、大岩の向こうでなにが起きているかは解るのだが、手の出しようがない。

 もうひとりの万騎兵長バイロン――内紛ではカリストスとアメルの側に付いていた――に促され、やむなく撤兵をはじめる。

 弓音が間断なく鳴りひびく崖の上で、ドーラがリティアに馬を寄せた。


「追いますか?」

「いや、このまま逃げてもらおう。予定どおりラヴナラを攻囲したい」

「承知いたしました」


 崖の下で斃れてゆくサーバヌ騎士団の兵士たち。

 眉を寄せたリティアは、


 ――すまぬ。そなたらの屍が、王都を生かすぞ。


 と、すべてを最後まで見届けた。 


   *


 リティアが第六騎士団をラヴナラにすすめ、


 ――無頼姫、強し!!


 の報が、《聖山の大地》を震撼させた頃、

 アルナヴィス行きの準備を始めていたアイカのもとに、


「アイカ! 狩りに行こう!!」


 と、ロマナが晴れやかな笑顔であらわれた。

 その傍らには、すっかり大人しくなった第4王子サヴィアスの姿もあり、アイカの目を驚かせた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...