【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
201 / 307
第八章 旧都邂逅

189.幸運の女神

しおりを挟む
 微笑んだウラニアが、ガラの話に応えた。


「よく報せてくれました。情報へ感度と素早い行動。往年の国王侍女長ロザリーを彷彿とさせます」

「いや……そんな……。言い過ぎです……」

「ロザリーは自身も卓越した才覚を持っていましたが、なにより自分の手に余ることは素早く人を頼り、動かしました。王国の侍女のあるべき姿は、すべてロザリーがつくったのです」

「……心いたします」

「ふふっ。なにもなければ、それで良いのです。……ただ、なにかあればロマナを深く傷つけてしまう」


 ガラは真剣な表情で、深く頷いた。


「……ロマナは、母から顧みられぬことに、心を痛めて育ちました。ただでさえ母親の愛情に飢えたあの娘に、自ら母を処断させたくありません。……ロマナであれば、母であろうと分け隔てなく裁くでしょうからね」


 ウラニアは窓から見える離宮に目をやった。


「離宮には私が顔を出して確認いたします」

「ありがとうございます」

「……ガラ」

「はい」

「ロマナを、よろしく頼むわね」

「……はっ」


 ガラは胸騒ぎを覚えた。ウラニアにではない。なにか、とんでもない不幸が起こるのではないかという胸騒ぎ。

 この嗅覚があればこそ、地下水路での過酷な孤児生活を生き抜けたという自負もある。危険な場所に無鉄砲に飛び出して、命を落とした孤児仲間たちの顔も頭をよぎる。

 しかし、今の自分に出来ることは、ひとまずやり終えた。

 大恩あるロマナに災厄が降りかからないことを祈って、ウラニアの前から退出した。


「アイカちゃん……」


 こういう時、ガラは密かにアイカを想う。

 アイカに出会ってから自分の人生にはいいこと続きだ。ガラにとっては《聖山の神々》より、アイカの方がよっぽど幸運の女神である。

 公宮の高い壁から顔をのぞかせた朝陽に、目を細めた――。


  *


 ガラがアイカを想って見上げた朝陽が、夕闇の中に姿を隠す頃――、

 2人の女子が、背の高い草むらに隠れて、やはりアイカのことを想っていた。

 どこまでも続く夜の草原。

 あたり一帯が白い煙に薄く覆われ、2人の視線の先では炎があがっている。


「くそっ……、ニーナが拐われた」


 拳を地に打ちつけたのは、踊り巫女のイェヴァであった。

 リティアの王都脱出に協力したあと、ニーナ、ラウラと共に無事帰国していた。しかし、突然現れた軍隊に集落を焼き払われ、住民たちは囚われてしまった。

 ニーナが逃してくれなければ、自分たちも捕らえられていたはずだ。

 やはり取って返そうとしたイェヴァをラウラが押さえた。


「……行っても、捕まるだけ」

「だからって、このままじゃ……」


 軍隊の正体は分からない。

 ただ、戦を好まない《草原の民》は時折、奴隷にしようとする西域の兵や賊に襲われることがあった。

 恐らくは、その類の襲撃であろう。

 草むらから燃える集落を見詰めるラウラが、つぶやくように言った。


「アイカちゃん……」

「……アイカ? ……あの《無頼姫の狼少女》がどうした?」

「将来、草原の民を救うって、祖霊の託宣が降りた……」

「……たしかに」


 リティアの王都脱出に協力すべきかどうか、祖霊を降ろして伺いをたてた時のことだ。

 イェヴァも、その言葉をハッキリと聞いていた。

 ラウラがイェヴァに顔を向けた。


「アイカちゃんに、助けてもらいに行こう」

「いや、アイカは砂漠だろ? 呼びに行っても間に合わないって」


 遠く《草原の民》まで最新情報が届くのには時間がかかる。2人にとって、アイカはまだルーファにいる。

 しかし、ラウラは左右に首を振った。


「ううん。きっと、大丈夫」


 いつもと変わらぬおっとりと聞こえる口調。

 だが、確信めいたものも感じられる。


「今までニーナの降ろした祖霊の託宣に間違いはなかった。言う通りにしてれば、きっと降ろしたニーナも守ってくれる」

「……っ!」


 目の前で連れ去られていく同胞。

 大切な草原を焼く炎。

 イェヴァの心は焦燥感でいっぱいだったが、ラウラの言葉の正しさも認めていた。

 その気持ちも分かるラウラが、そっと身を寄せた。


「ニーナが助けてくれた」

「ああ……」

「今度は、私たちが助ける番」

「……そうだな」

「大丈夫。このまま奴隷にされるのと、着の身着のまま草原を渡ってテノリア王国を横断して、さらにプシャン砂漠を渡るのと、……どっちが苦難の道か分からない」

「ははっ。……妙な励ましだな」

「……夜が明けたら、アイカちゃんに会いに行こう」


 覚悟を定めたイェヴァは、黙って頷いた。焼け落ちる集落を見詰めながら。


  *


 アイカの重ねた出会いの煌めきが、旧都にとどまらず各地に広がりはじめた頃――、

 公子クリストフと待ち合わせた交易の中継都市タルタミアに、アイカたち一行が到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...