188 / 307
第八章 旧都邂逅
176.ヒメ様温泉
しおりを挟む
「提案?」と、ルクシアが興味ありげな表情でアイカを見た。
アイカが率いるパーティに誘うのかと、皆が思った。が、アイカの口から出た言葉は意外で、かつ納得のいくものだった。
いつものアイカだと。
「リティア義姉様が、ルーファで新しい国を作ろうとしてるんです。……砂漠で賊をやってる皆さんを集めて」
「賊を集めて?」
「はいっ! さすが《天衣無縫の無頼姫》だと思いません!? 荒くれ者の皆さんや、無法者の皆さんを自分の民にするだなんてっ! あっ! さっきいた髭モジャのジョルジュさんも元は賊の大親分だったんですよーっ!」
「へぇ~、面白そうだな」
「ルクシアさんなら、きっとリティア義姉様の力になれると思うんですっ!」
「ははっ! 私にプシャン砂漠を渡れってか?」
「大丈夫ですよ! この私でさえ渡れたんです。しかも、行きと帰りと2回も! ルクシアさんだったら余裕です!」
「……お母さん」
と、アイラが小さな声で、口を挟んだ。
「ん? なんだ?」
「……ルーファの元賊たちの集落は、私がつくったんだ。もちろん、私だけでつくったって訳じゃないけど……、その……」
ルクシアはにんまりと、しかし初めて親らしい表情を浮かべた。母親らしいかどうかは、ともかくとして。
「よし、分かった! アイラの仕事を見に、いっちょプシャン砂漠を渡ってみますか。47歳年下の従姉妹、無頼姫殿下の顔も久しぶりに拝みたいしな!」
カハッと笑ったルクシアは、湯で顔をバシャバシャと洗い、もう一度、気持ちよさそうに笑った。
そんなルクシアを、アイラは照れくさそうに見詰めていた。
*
『そろそろ帰ろうかの。泉は元の冷水に戻る故、はやく上がれ』
と、ヒメ様の言葉で、皆、泉から出た。
光り輝きつづけてはいたが、あまりに自然に微笑んで話を聞いていたので、神様であることを、アイカ以外の皆が少し忘れかけていた。
『男子と湯をともにする気にはなれんので、本日の営業は終了じゃ』
「営業……」
『冗談じゃ。……異界でくらいハメを外させよ。しかし、この名湯は女子の間だけの秘密じゃぞ?』
皆が苦笑い気味に、首を縦に振った。
『……アイカよ。招魂転生者たるそなたには、まだまだ数奇な運命が待ち受けておるやもしれん。が、我に会いたくなれば、この泉にて、我を呼べ。アイカの求めには、必ずや応えようぞ』
そう言うと、ヒメ様は姿を消し、泉は元の冷水に戻った。
チーナが、
「アイカ殿下が招魂転生者とは……? 反魂の秘法とは……?」
と、聞いてきた。
が、「明日にしましょう」と応えるくらいには、アイカもヘトヘトであった。
ただ、異界の神様に遭ったという奇跡は女子たちに特別な連帯感も生む。62歳のルクシアから18歳のアイラまで、皆が全員《女子だけの秘密》として口外しないことを約束し合った。
その後、アイカたちは気力を振り絞って、ルクシアたちと装備の交換をした。つまり、水筒など砂漠を越える装備と、馬など大路を駆ける装備とをである。
どちらが得をしたか分からなかったが、豪気なルクシアは、
「手間が省けたぜ!」
と、笑いながら礼を言った。
アルナヴィスに帰還したいカリュの父は、途中までアイカのパーティに同行することになった。
あっさりとした別れ際、ルクシアがアイラに声をかけた。
「楽しめよ」
一瞬、目を見開いたアイラは、すぐにニヤリと笑った。
「お母さんもね!」
*
そもそも山越えで体力を使い果たしていたところに来た大渋滞で、パーティは1日休んだくらいでは体力が回復しなかった。
数日をアイカのサバイバル地で過ごした。
『……いや、こんなにスグとは』
「求めれば、必ず応えるって……」
『そうではあるのだが……、神様としての価値というか……』
女子たちは、男子には内緒で毎日、ヒメ様温泉を楽しんだ。
ヒメ様も結局、異世界女子トークに興味津々であった。
そうして、すっかり身体の疲れを癒した後、いよいよ旧都テノリクアに向けて出発する。
アイカはいつも通り、タロウとジロウの背に交互に乗って進む。そして、馬を得たパーティの旅程は快調に進んだ。
王太后カタリナ、第2王子ステファノス、そして王妃アナスタシアの待つ、王国発祥の都に向かって――。
アイカが率いるパーティに誘うのかと、皆が思った。が、アイカの口から出た言葉は意外で、かつ納得のいくものだった。
いつものアイカだと。
「リティア義姉様が、ルーファで新しい国を作ろうとしてるんです。……砂漠で賊をやってる皆さんを集めて」
「賊を集めて?」
「はいっ! さすが《天衣無縫の無頼姫》だと思いません!? 荒くれ者の皆さんや、無法者の皆さんを自分の民にするだなんてっ! あっ! さっきいた髭モジャのジョルジュさんも元は賊の大親分だったんですよーっ!」
「へぇ~、面白そうだな」
「ルクシアさんなら、きっとリティア義姉様の力になれると思うんですっ!」
「ははっ! 私にプシャン砂漠を渡れってか?」
「大丈夫ですよ! この私でさえ渡れたんです。しかも、行きと帰りと2回も! ルクシアさんだったら余裕です!」
「……お母さん」
と、アイラが小さな声で、口を挟んだ。
「ん? なんだ?」
「……ルーファの元賊たちの集落は、私がつくったんだ。もちろん、私だけでつくったって訳じゃないけど……、その……」
ルクシアはにんまりと、しかし初めて親らしい表情を浮かべた。母親らしいかどうかは、ともかくとして。
「よし、分かった! アイラの仕事を見に、いっちょプシャン砂漠を渡ってみますか。47歳年下の従姉妹、無頼姫殿下の顔も久しぶりに拝みたいしな!」
カハッと笑ったルクシアは、湯で顔をバシャバシャと洗い、もう一度、気持ちよさそうに笑った。
そんなルクシアを、アイラは照れくさそうに見詰めていた。
*
『そろそろ帰ろうかの。泉は元の冷水に戻る故、はやく上がれ』
と、ヒメ様の言葉で、皆、泉から出た。
光り輝きつづけてはいたが、あまりに自然に微笑んで話を聞いていたので、神様であることを、アイカ以外の皆が少し忘れかけていた。
『男子と湯をともにする気にはなれんので、本日の営業は終了じゃ』
「営業……」
『冗談じゃ。……異界でくらいハメを外させよ。しかし、この名湯は女子の間だけの秘密じゃぞ?』
皆が苦笑い気味に、首を縦に振った。
『……アイカよ。招魂転生者たるそなたには、まだまだ数奇な運命が待ち受けておるやもしれん。が、我に会いたくなれば、この泉にて、我を呼べ。アイカの求めには、必ずや応えようぞ』
そう言うと、ヒメ様は姿を消し、泉は元の冷水に戻った。
チーナが、
「アイカ殿下が招魂転生者とは……? 反魂の秘法とは……?」
と、聞いてきた。
が、「明日にしましょう」と応えるくらいには、アイカもヘトヘトであった。
ただ、異界の神様に遭ったという奇跡は女子たちに特別な連帯感も生む。62歳のルクシアから18歳のアイラまで、皆が全員《女子だけの秘密》として口外しないことを約束し合った。
その後、アイカたちは気力を振り絞って、ルクシアたちと装備の交換をした。つまり、水筒など砂漠を越える装備と、馬など大路を駆ける装備とをである。
どちらが得をしたか分からなかったが、豪気なルクシアは、
「手間が省けたぜ!」
と、笑いながら礼を言った。
アルナヴィスに帰還したいカリュの父は、途中までアイカのパーティに同行することになった。
あっさりとした別れ際、ルクシアがアイラに声をかけた。
「楽しめよ」
一瞬、目を見開いたアイラは、すぐにニヤリと笑った。
「お母さんもね!」
*
そもそも山越えで体力を使い果たしていたところに来た大渋滞で、パーティは1日休んだくらいでは体力が回復しなかった。
数日をアイカのサバイバル地で過ごした。
『……いや、こんなにスグとは』
「求めれば、必ず応えるって……」
『そうではあるのだが……、神様としての価値というか……』
女子たちは、男子には内緒で毎日、ヒメ様温泉を楽しんだ。
ヒメ様も結局、異世界女子トークに興味津々であった。
そうして、すっかり身体の疲れを癒した後、いよいよ旧都テノリクアに向けて出発する。
アイカはいつも通り、タロウとジロウの背に交互に乗って進む。そして、馬を得たパーティの旅程は快調に進んだ。
王太后カタリナ、第2王子ステファノス、そして王妃アナスタシアの待つ、王国発祥の都に向かって――。
27
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる