184 / 307
第八章 旧都邂逅
172.山奥で車座で
しおりを挟む
アイカはその場で、皆を車座に座らせた。
後ろに戻れば自家発光する女性が、泉を温泉にして寛いでる。これ以上、話をややこしくしたくない。
ムキムキで強面の男も多い中、状況に呆れていたアイカが仕切る。
「は――いっ! 最初から話を聞くと長そうなので、お尻から順番に紐解いていきま――すっ! では、クリストフさんのご事情からどうぞ」
「……アイカ。俺たちは、お前のことをずっと探して……」
「はい! ややこしそうなので後回し」
「はあ?」
「カリュさんのお父さん、どうぞ」
「カリュを探すよう、我が君アルナヴィス侯より命を受け……」
「はい、会えて良かったですね。あちらで、お二人でどうぞ」
「あ、はい……」
カリュとその父が車座から離れる。
「クリストフさん。これで、この人たちが賊じゃないって分かりましたね?」
「お……、おう……。しかし……」
「はい、次。チーナさんのお知り合いさん。えっと、アーロンさん」
「いや……、虜囚の憂き目にあわれている我が君ベスニク様の探索に、北の交易都市タルタミアを目指しておるところ……」
「ああ、それでバッタリ、同郷のチーナさんと?」
「そういうことです……」
「偶然ですねぇ! 神様のお導きかも? あちらで旧交を温めてください……。さっ、どうぞ」
アーロンとチーナが車座から離れる。
「で、えっと……ルクシアさん?」
「そうだよ」
「こちらでは何を?」
「何をって……。ブラブラしてたら、アーロンと知り合って……」
「端的にどうぞ」
「……道に迷ってた」
「なぜ、わざわざ大路を外れて我らの聖地を通り抜けようとするのだ?」
クリストフがルクシアを睨んだ。
飄々とした雰囲気のクリストフが敵意をむき出しにした様子に『聖地』というのは本当なのだろうとアイカは思ったが、今はどうでもいい。
ルクシアが面倒くさそうに頭をかいた。
「だから、アーロンが言ってたろ? 囚われの西南伯閣下を探してるんだ。大路なんか通れば目立つだろ。……裏を通ってるうちに、道に迷ったんだよ」
「説明にスジが通ってます」
アイカが大きく頷いた。
自分も大路を避けて王都に向かい、あらぬ方向に迷ってしまい熊に遭遇した経験があった。
そして、アイラに向き直った。
「突然、秘せられてた生い立ちを聞かされてショックだと思いますが……」
「あ、うん……なにがなんだか……」
「アイラさん。貴女、廃太子アレクセイ殿下の孫娘なんだそうです」
「……えっ?」
「私はアレクセイさん本人から聞いてました。ごめんなさい黙ってて。私とアイラさん、義理の親戚でした」
「ん? どういうこと?」
と、今度はルクシアが戸惑ったような顔をした。
アイカは肩当ての覆いを外して、紋章を見せた。リティアにもらった大切な紋章を汚したくなくて、普段は布をかけている。
「私、第3王女リティア殿下の義妹でして……」
「なっ!? どういうことだ!?」
と、大声を出したのはルクシアではなく、クリストフだった。思わず立ち上がって、驚きの表情を浮かべている。
「どういう……って言うか……、とても仲良しだったので義姉妹の契りを結んでいただきました。えへへっ」
「……なんてこった」
しばらく口をパクパクさせていた、クリストフがドスンと音を立てて腰を降ろした。
その不機嫌さは意味ありげだったが、アイカは後回しにした。
当然、アイラの気持ちの方が大切だったからだ。
「許してくれますか?」
「えっ? ……なにを?」
「私が黙ってたこと」
「あ……うん。今はそれどこじゃないっていうか……」
「親父のヤツ。アイラに言ってなかったのかよ」
ぼやくルクシアをアイラが睨んだ。
「そんなことより、お母さん、なんで家を出ていったのよ!?」
王家の血筋を「そんなこと」で片付けたアイラを、ネビもジョルジュも、豪気な女子だと生温い目で見守った。
話が終わったらしいカリュとチーナも、そっと車座に戻る。
「親父と喧嘩したんだよ……」
「お父さんは!? お父さんはどうでも良かったの!?」
「お父さん……? ああ、シモンか」
「そうよ! お父さんの名前まで忘れてたの!?」
「……あいつは親父の子分で、アイラの父親じゃねぇよ」
「…………は?」
「親父のヤツ……、ホントになんにも説明してねぇのかよ……」
「お母さんのお父さんなんか、会ったことも見たこともないわよ!!」
――渋滞が解消しない。
と、アイカは遠い目をした。
が、アイラも自分の額を手で押さえた。
「まって……。もう、無理……。熱が」
かいたあぐらに立て肘をしたクリストフがボヤいた。
「じゃあ、そろそろこっちの話をしてもいいかな?」
大切な愛で友アイラの様子が心配なアイカは、ぞんざいに応えた。
「あ、はい。とりあえず、どうぞ」
「……俺たちは、アイカを探してた」
「はい、それは聞きました」
「もう、ずっとな……。聖地の結界が晴れるのをずっと待ってた」
「…………」
アイカは初めて、クリストフの方をマトモに見た。
「…………えっ?」
元々、この口の悪い公子のことは苦手にしていた。言葉を交わしたのも一度だけであるし、もちろん、結界のことなど話したことはない。
そもそも結界のことや転生のことは、リティアにさえ話したことがなかった。
「だけど、結界が晴れたと報せを受けて駆け付けた時には、もう誰もいなかった」
クリストフは遠い目をして、小さくため息を吐いた。
――態度、わるっ!
と、アイカは思ったが、歯を食いしばってクリストフを見詰めていた。
この人は、この身体、愛華の魂が宿る《アイカの身体》の元々の持ち主のことを知っている――。
後ろに戻れば自家発光する女性が、泉を温泉にして寛いでる。これ以上、話をややこしくしたくない。
ムキムキで強面の男も多い中、状況に呆れていたアイカが仕切る。
「は――いっ! 最初から話を聞くと長そうなので、お尻から順番に紐解いていきま――すっ! では、クリストフさんのご事情からどうぞ」
「……アイカ。俺たちは、お前のことをずっと探して……」
「はい! ややこしそうなので後回し」
「はあ?」
「カリュさんのお父さん、どうぞ」
「カリュを探すよう、我が君アルナヴィス侯より命を受け……」
「はい、会えて良かったですね。あちらで、お二人でどうぞ」
「あ、はい……」
カリュとその父が車座から離れる。
「クリストフさん。これで、この人たちが賊じゃないって分かりましたね?」
「お……、おう……。しかし……」
「はい、次。チーナさんのお知り合いさん。えっと、アーロンさん」
「いや……、虜囚の憂き目にあわれている我が君ベスニク様の探索に、北の交易都市タルタミアを目指しておるところ……」
「ああ、それでバッタリ、同郷のチーナさんと?」
「そういうことです……」
「偶然ですねぇ! 神様のお導きかも? あちらで旧交を温めてください……。さっ、どうぞ」
アーロンとチーナが車座から離れる。
「で、えっと……ルクシアさん?」
「そうだよ」
「こちらでは何を?」
「何をって……。ブラブラしてたら、アーロンと知り合って……」
「端的にどうぞ」
「……道に迷ってた」
「なぜ、わざわざ大路を外れて我らの聖地を通り抜けようとするのだ?」
クリストフがルクシアを睨んだ。
飄々とした雰囲気のクリストフが敵意をむき出しにした様子に『聖地』というのは本当なのだろうとアイカは思ったが、今はどうでもいい。
ルクシアが面倒くさそうに頭をかいた。
「だから、アーロンが言ってたろ? 囚われの西南伯閣下を探してるんだ。大路なんか通れば目立つだろ。……裏を通ってるうちに、道に迷ったんだよ」
「説明にスジが通ってます」
アイカが大きく頷いた。
自分も大路を避けて王都に向かい、あらぬ方向に迷ってしまい熊に遭遇した経験があった。
そして、アイラに向き直った。
「突然、秘せられてた生い立ちを聞かされてショックだと思いますが……」
「あ、うん……なにがなんだか……」
「アイラさん。貴女、廃太子アレクセイ殿下の孫娘なんだそうです」
「……えっ?」
「私はアレクセイさん本人から聞いてました。ごめんなさい黙ってて。私とアイラさん、義理の親戚でした」
「ん? どういうこと?」
と、今度はルクシアが戸惑ったような顔をした。
アイカは肩当ての覆いを外して、紋章を見せた。リティアにもらった大切な紋章を汚したくなくて、普段は布をかけている。
「私、第3王女リティア殿下の義妹でして……」
「なっ!? どういうことだ!?」
と、大声を出したのはルクシアではなく、クリストフだった。思わず立ち上がって、驚きの表情を浮かべている。
「どういう……って言うか……、とても仲良しだったので義姉妹の契りを結んでいただきました。えへへっ」
「……なんてこった」
しばらく口をパクパクさせていた、クリストフがドスンと音を立てて腰を降ろした。
その不機嫌さは意味ありげだったが、アイカは後回しにした。
当然、アイラの気持ちの方が大切だったからだ。
「許してくれますか?」
「えっ? ……なにを?」
「私が黙ってたこと」
「あ……うん。今はそれどこじゃないっていうか……」
「親父のヤツ。アイラに言ってなかったのかよ」
ぼやくルクシアをアイラが睨んだ。
「そんなことより、お母さん、なんで家を出ていったのよ!?」
王家の血筋を「そんなこと」で片付けたアイラを、ネビもジョルジュも、豪気な女子だと生温い目で見守った。
話が終わったらしいカリュとチーナも、そっと車座に戻る。
「親父と喧嘩したんだよ……」
「お父さんは!? お父さんはどうでも良かったの!?」
「お父さん……? ああ、シモンか」
「そうよ! お父さんの名前まで忘れてたの!?」
「……あいつは親父の子分で、アイラの父親じゃねぇよ」
「…………は?」
「親父のヤツ……、ホントになんにも説明してねぇのかよ……」
「お母さんのお父さんなんか、会ったことも見たこともないわよ!!」
――渋滞が解消しない。
と、アイカは遠い目をした。
が、アイラも自分の額を手で押さえた。
「まって……。もう、無理……。熱が」
かいたあぐらに立て肘をしたクリストフがボヤいた。
「じゃあ、そろそろこっちの話をしてもいいかな?」
大切な愛で友アイラの様子が心配なアイカは、ぞんざいに応えた。
「あ、はい。とりあえず、どうぞ」
「……俺たちは、アイカを探してた」
「はい、それは聞きました」
「もう、ずっとな……。聖地の結界が晴れるのをずっと待ってた」
「…………」
アイカは初めて、クリストフの方をマトモに見た。
「…………えっ?」
元々、この口の悪い公子のことは苦手にしていた。言葉を交わしたのも一度だけであるし、もちろん、結界のことなど話したことはない。
そもそも結界のことや転生のことは、リティアにさえ話したことがなかった。
「だけど、結界が晴れたと報せを受けて駆け付けた時には、もう誰もいなかった」
クリストフは遠い目をして、小さくため息を吐いた。
――態度、わるっ!
と、アイカは思ったが、歯を食いしばってクリストフを見詰めていた。
この人は、この身体、愛華の魂が宿る《アイカの身体》の元々の持ち主のことを知っている――。
38
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる