【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
177 / 307
第七章 姉妹契誓

166.新王の異変

しおりを挟む
 肩を抱いても頭を上げようとしないシモンに、アーロンが訴える。


「おやめくだされ、シモン殿。貴殿のお計らいには、ヴールで吉報を待つ公女ロマナ様も篤く感謝されております。このようなことをされては、却って私どもの面目が潰れまする。どうか、どうか、頭を上げてくだされ!」

 シモンは、アーロンの必死の訴えに、ようやく頭を上げた。

 そして、目を閉じて悔しそうな表情を浮かべながら、現状を報告していく。

「……リーヤボルクや西域の隊商とつながりの深い西の元締ノクシアスにも、それとなくあたっておりますが、やはり、なにも知らされてないようです。……ひょっとすると、既に王都の外に出されておるやもしれぬ」

「王都の外……」

「さすがに、リーヤボルク本国まで送られているとは思えぬが、こちらで探索の範囲を広げてみましょう」

「……お骨折り、かたじけない限り。ヴールの全臣民になりかわって礼を申し上げる」


 といったやり取りをした後、アーロンとリアンドラは、ルカス即位という重大ニュースの報に触れる。

 王都は虚飾に満ちた賑わいをみせた。

 心の底から、即位を祝っている者は誰一人いないように見える。

 アーロンとリアンドラも、苦虫を噛み潰したような顔でのパレードを見に大路に並んだ。

 しかし、


 ――これは……。


 ルカスの目は、あきらかに焦点が合っていない。

 周囲の装飾で華々しさを演出されているが、あの猛将ルカスの体躯が醜く太っていて動くのも容易ではなさそうである。

 ただ、武人であるアーロンとリアンドラを除き、周囲の民衆はルカスの異変に気付いていないようであった。


 ――薬を盛られたか、自ら享楽に溺れたか……。


 いずれにしても、新王は間違いなく傀儡であった。

 そして、ヨハンが北離宮に移ったことを知り、贈物を持って訪ねると、そこにサラナの姿があった。

 窓の向こう側ではあったし、やつれ果ててはいたが、間違いなく王太子侍女長のサラナであった。

 ロマナに随行した総候参朝の折、二人はサラナを直に目にしたことがあった。


 ――ここに、バシリオス殿下がいる!


 ようやくひとつの機密にたどり着いたアーロンとリアンドラは、内心の喜びを押し隠して、ヨハンに贈物を届け続けた。


「え、栄養の、あるものが、いい」


 というヨハンの求めにも応じた。

 頭は弱いが、心根の優しいヨハンが、サラナとバシリオスに与えようとしていることは、すぐに察することが出来た。

 娼館通いもピタッとやめて、北離宮に常駐している。

 疑われないよう、商人の身分で用意できる範囲で、出来る限り滋養のあるものを届けることにした。

 バシリオスは、ベスニクの義弟でもある。

 ファウロスに叛き、現在の混乱を引き起こした張本人であったが、衰えているのならば見過ごすことも出来なかった。

 その武張った身体に似合わず、ペコペコとお辞儀をしている夫婦に、怪訝な顔をした2人組の女性がいた。

 北離宮の様子を窺うため、定期的にそれとなく前を通る2人の目に、武人が無理矢理商人を装ったような胡散臭い夫婦は、不審に映る。

 が、それとは見せず、一人は和やかにお喋りをつづけ、一人は憂い顔でうなずいている。

 北離宮を通り過ぎて、北街区に入ると、


「もう何回もあの夫婦を見かけました。念のため、リティア殿下にもお報せしておきましょう」


 と言ったのは、アイカ専属の女官だったケレシアであった。

 隣を歩く、リティアの女官長シルヴァは無言で頷く。

 王都で目にする異変は、細大漏らさず伝えるのが2人の役目であった。

 すぐに、ルーファの大隊商メルヴェの館を訪れ、リティアにあてた書状をしたためた。

 シルヴァとケレシアが、メルヴェの商館に入る際には周囲に充分に気を遣っていたが、リティアの元女官たちの動きを、ヴィアナ騎士団はつかんでいた。

 しかし、配下の騎士から報告を受けたスピロ万騎兵長は、


「……捨て置け」


 とだけ言って、監視の目を解かせた。

 スピロは王宮から見える、北離宮を眺め、かすかに眉を寄せた。

 すべては元の主君、バシリオスの決起から始まった。もとを正せば王ファウロス、そして側妃サフィナの振る舞いではあったが、スピロの立場からすればバシリオスの命令がすべてであった。

 しかし、今、スピロは王族の末席にも名を連ねる。

 バシリオスが逼塞させられている北離宮を見るにつけ、自分が運命の奔流に呑まれ漂う小舟にしがみついている心境になる――。


  *


 スピロはバシリオスに従い王ファウロスに叛いた。主君バシリオスに対する国王の仕打ちには、スピロにも腹に据えかねるものがあった。

 しかし、父である国王の命まで取るのは道に反すると激情にかられたスピロは、スパラ平原での決戦で、今度はバシリオスに叛き、ルカスについた。

 配下だった千騎兵長カリトンは、そんな自分に愛想を尽かし、戦線を離脱していった。

 ルカスに従い王都に凱旋しても、スピロの気分が晴れることはなかった。

 自分を見る周囲の目にも険しいものがある。なかには、あからさまに侮蔑の表情を向けてくる者さえいる。栄光のヴィアナ騎士団万騎兵長のプライドはズタズタであった。


 ――すべてはバシリオスと、唆した筆頭万騎兵長ピオンのせいである!


 と、強く訴えたかったが、そんなことをすれば余計に自分が惨めになるだけであることも分かっていた。

 鬱々と過ごすスピロを拾ったのは、摂政正妃となったペトラ姉内親王であった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...