【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
176 / 307
第七章 姉妹契誓

165.足繁く

しおりを挟む
 アーロンとリアンドラも《聖山の民》であり、テノリア王国の臣民だ。


 ――王太子侍女長ともあろうお方が、おいたわしい限り。


 と、やつれ果てた姿のサラナを見て、心を痛めた。

 しかし、北離宮の見張りヨハンに贈物を届けるのは、サラナに同情しているからではない。

 要人とはいえサラナだけの幽閉に北離宮を使うはずがない。姿は確認できないが、必ずバシリオスもいるはずである。

 ならば、


 ――いずれ、バシリオス殿下の幽閉場所を移すはず。ひょっとするとベスニク様と同じ場所にまとめるかもしれぬ。


 その読みで、足繁く通った。

 もともとは、アーロンが気散じに足を運んだ娼館で、ヨハンと知り合った。

 頭が弱そうだと見込んだアーロンが、盛大にヨハンに飲ませ食わせた。その巨体を褒めちぎり、自分が娼館にいたことは嫁には内緒にしてくれと、秘密を共有するようにも持ちかけた。

 ヨハンを潜伏している家に招いた際には、嫁として振る舞うリアンドラも、にこやかに迎え入れた。

 その頃のヨハンは、まだバシリオスの地下牢の担当ではなかった。

 ただ、飲ませ酔わせ、関係を深めるに従って、ベスニクの幽閉を担当している兵と長い付き合いの幼馴染であることが分かった。

 一気に切り込めば、かえってベスニクを危険に晒してしまうかもしれない。

 アーロンとリアンドラは慎重に事を構え、まずはオリーブのピクルスを、ベスニクの元に届けられないか、ヨハンに頼み込んだ。

 近くまで救けの手が来ていることをベスニクに報せたかった。

 ヴール候には商売上で大変なピンチを救ってもらったことがあると、涙ながらに語るアーロンとリアンドラにほだされたヨハンは「ま、まかせて」と、胸を叩いた。

 幼馴染の兵は怪訝な顔をしたが、ヨハンには借りがあったので、何も聞かずに引き受けた。

 訳を聞いて、面倒ごとに巻き込まれるのも嫌だと思っていた幼馴染は、ベスニクの毎夕の食事に、オリーブのピクルスを一粒ずつ与えるようにと指示書を書き換えた。

 やがて、ヨハンはバシリオスの地下牢で見張りを務めるようになった。

 前任者が娼婦と駆け落ちしてしまったのだ。統制の弱いリーヤボルク兵では珍しい話ではなかった。

 すでに、なかば諦められ、存在を忘れられがちだったバシリオスの見張りなら、頭は弱いが篤実に仕事をこなすヨハンがいいだろうということで配置された。

 もちろん、その篤実さは斜め上に発揮された訳だが、アーロンとリアンドラは、ヨハンにあまり会えなくなった。


「アーロン。ほんとにヨハンに会ってるんだろうね?」


 と、リアンドラが苦笑いした。

 娼館で待ち伏せして一緒に入り、事後に語らっているというのが、アーロンの言い分であった。

 ただし、職務に篤実なヨハンから、バシリオスの見張りが今の仕事だとまでは聞き出せていない。

 また、ヨハンは今の仕事がよほど気に入っているのか、娼館を出ると酒の誘いも断って、ブツブツ言いながらスグに仕事に戻ってしまう。


「失礼な詮索をするなよ、リアンドラ」

「たまってるだけなら、私が相手をしてやってもいいんだよ?」

「バカ。なに言ってるんだ。……今のところ、しっかり喰い込めてるのは、頭の弱いヨハンだけだ。この糸を切る訳にはいかんだろうが?」

「そりゃそうだけど……、ロマナ様から預かった活動費で娼館通いっていうのもねぇ」

「むっ。私に恥じるところはないぞ?」

「でも、楽しんでるんだろう?」

「そっ、それはそうだな」

「外で待ち伏せするだけじゃ、いけないのかい?」

「そこはお前……、お互い終えたばかりの男同士で語り合うことで関係が深まるんじゃないか。それに、ヨハンもなにやら娼婦とのことを根掘り葉掘り聞いてくるしな。まるで、勉強してるみたいな勢いで聞いてくるんだ」

「いやらしいねぇ」

「……まあ、気持ちは分かるが、目をつむっておいてくれ。そのうち、ほかの兵士との関係を深める道も探ってみよう」


 ガラの紹介でつながりの出来た、無頼の元締シモンのもとにも足を運ぶが、ベスニクの所在について確たる情報が得られない。


「無頼の噂話にも乗らないとは……」


 と、シモンも一緒に憂いてくれる。


「いや、シモン殿。頂戴している情報だけでも、ありがたいものばかり。我らだけでは、こうはいかなかった、本当に感謝している」

「《聖山の無頼》として不甲斐ない限りだ。この通り、申し訳ない」


 深々と頭をさげるシモンに、アーロンが慌てて肩を抱く――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...