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第七章 姉妹契誓

158.手を挙げる

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 しばらくして、カリュに連れられた、賊の首領ジョルジュが降った。

 モシャモシャの髭を掻き毟りながら、日焼けの肌荒れが目立つ顔をクシャクシャにして喜んでいた。


「すでにリティア殿下への忠誠を誓っておった儂ですが、殿下の民にしてもらえるとは、長く生きた甲斐があったというものです」


 リティアがプシャン砂漠を渡る際に、7度捕えられ7度放たれた賊の首領は、感慨深そうに目を潤ませた。

 ジョルジュの後ろには、その一族や手下も、数多く平伏している。


「おお! ジョルジュ! よく来てくれた」


 と、リティアは歩み寄り、その手をとった。


「そなたが狙った、私が王都から持ち出した財宝より、もっと素晴らしい宝を獲りに行くぞ」

「なんと! 儂もお連れいただけるのですか⁉」

「もちろんだ! ジョルジュ。我が側に立ち、我を支えよ」

「なんと嬉しいお言葉。我らプシャンの砂漠を這いつくばって生きてきた賊のごときに、いかなる宝を頂戴できましょうや?」

「安寧だ!」

「安寧……」

「心穏やかに、皆が笑い合って暮らせる生活を贈ろう! 世に、これに勝る宝はないぞ!」

「……この賊のジョルジュ。孫を持つ身となり、殿下のそのお言葉、誠に身に沁みまする」

「若い時ではダメだったか⁉」

「くそ喰らえ……と、思っておりましたな」

「はっはっはっはっは! であろうな。このリティアも、いまだ若年にあるが、そちらの方がしっくりくる」


 と、リティアが悪戯っぽく笑うと、「これはこれは、殿下も正直すぎますな!」と、ジョルジュが大口を開けて笑った。

 リティアは目を細めて、ジョルジュに語りかけた。


「しかし、若き者が、跳ね返って生きられる程度には、安寧な世を、ともにつくろうぞ」

「はは――っ! 老残の身ながら、どこまでもお供させていただきます!」


 ルーファの南端に建つ新リティア宮殿の周囲には、アイラ監修のもと、集落の建設が始まっていた。

 ジョルジュたち一党は、その一角に腰を落ち着けた。

 プシャンオオカミを従えたアイカは、一党の中ではもとより注目の的であったため、皆が興味津々に眺めていた。

 その視線に気が付いたアイカは、すぐにタロウとジロウを連れて遊びに行った。


「プシャンの狼が、このように人に懐くとは……」


 タロウとジロウを撫でさせてもらいながら、ジョルジュは率直に尊敬する眼差しでアイカを見詰めた。


 ――いやぁ、そんな、照れちゃいます……。


 アイカは頬を赤くしながら、桃色の頭をかいた。


 *


 やがて、アイシェとゼルフィアも一旦、新リティア宮殿に帰参した。

 リティアの侍女がそろい、主だった家臣を集めて、収集してきた情報を皆で分析する。


「やはり、一朝一夕にはいかんな」


 リティアは、ルーファ周辺に割拠する賊たちの情報を聞いて、予想通りといった笑みを浮かべた。

 アイシェが淡々と応える。


「時間をかけて、警戒を解いていく必要がございましょう」

「まあ、ジョルジュにしても襲撃してくるところを、7度も捕えたのだ。焦らず進めていくしかないな」


 ジョルジュは率いて降った一党を、宥めながらルーファでの新生活に馴染ませようと骨を折ってくれている。

 ときには宮殿に姿を見せ、フェティの遊び相手もつとめた。

 賊であったジョルジュと、首長家正嫡の若君を触れ合せることに、眉をひそめる者もあったが、


「フェティ殿自ら、賊を宣撫してくださっているのだ。私の旦那様は、なんと器の大きな方なのだ! これはきっと名君になられるに違いないぞ!」


 と、リティアは快活に笑って、取り合わなかった。

 侍女たちの間の議論は、誰を王太后カタリナと第2王子ステファノスへの使者に立てるかという話題に移る。

 宴席でリティアが宣した言葉も、王太后に届けなくてはならない。

 王族が一度口にした命を果たさないままでおくことは、リティアの威光を損なう。必ず成し遂げなければならない。また、ステファノスの意向も探っておきたい。

 しかし、砂漠の賊をあまねく帰順させるという大仕事に取り掛かっていた新リティア宮殿の面々は、皆、忙しい。


「私が……、行きます……」


 静かに手を挙げたのは、アイカであった――。
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