【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第七章 姉妹契誓

157.お別れの時

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 微笑むリティアは、はにかむフェティを抱き上げた。


「リティアは旦那様と仲良しになりたいのですが、旦那様はどうですかぁ?」

「……うん。……いいよ」

「旦那様も、リティアと仲良しになりたいと思ってくださいますか?」

「……うん」


 リティアの美しい顔がすぐ側にあることが、照れくさくてたまらないといった様子のフェティは、まともにその夕暮れ色の瞳を見ることができずにいた。

 そんなフェティに、にっこり微笑んだリティアは、


「それでは皆さま、私たちは仲良しになりに行ってまいります!」


 と、快活な笑顔を見せ、そのまま、フェティを新リティア宮殿に連れ帰ってしまった。

 呆気に取られたルーファ首長家の者たちも、止めることが出来なかった。

 リティアは新宮殿にフェティの部屋を設け、一緒に暮らし始めた。要するに、首長家正嫡の若君を人質にとったのである。

 当然、フェティの母親からクレームがついた。

 だがリティアは、


「それは素晴らしい! お義母かあ様も一緒に暮らしましょう! リティアは幼い頃から母と離れて育ったので嬉しいです!」


 と、フェティの母の部屋も設けてしまった。

 しかし、そう言われてしまっては、新北離宮に隔離されている義姉あねエメーウに憚って、移り住む訳にもいかない。

 母の方が時折、新リティア宮殿を訪問する形に落ち着いた。


「さすが、したたかよの」


 と、大首長セミールは苦笑いして黙認した。

 リティアは毎日フェティと遊ぶ時間をとった。時には一緒になってルーファの歴史を学んだりもする。


「政略結婚だからといって、幸せになっていかんという法はあるまい」


 と言うリティアの顔は、ふにゃふにゃである。


 ――ああ、幸せになるんだろうな……、っていうか、今、幸せそうだなぁ……。


 そう思っていたのはアイカだけではない。

 政略結婚の生臭さも、幼年を人質とした苛烈さも、リティアの《天衣無縫》の笑顔が、すべてを許容させた。


「旦那様、旦那様! お待ちください、旦那様ぁ~!」

「やだーっ! リティアには、つかまらないよぉ!」

「負けませんよぉ!」

「うわぁ! つかまっちゃったぁ!」

「もう、放しませんよぉ! 旦那様ぁ!」

「えぇ~、それでもいいけど……」

 と、抱きかかえられた腕の中で、はにかむフェティ。

 賑やかになった新リティア宮殿だったが、リティアは続々と届き始めた情報の分析にも余念がない。


「カリストス叔父上は、威光を損ったな」

「はい。祖父ベスニク様を囚われ、孤塁を守るロマナ様の覚悟に追い払われた形ですから」


 クレイアが、そのクールビューティな顔立ちで無表情に応える。

 その傍で腰を降ろしているアイカに、リティアが悪戯っぽい笑みを向けた。


「ロマナが侍女を任じたらしいが、ガラというらしいぞ?」

「ええっ⁉ ……あの、ガラちゃんですか⁉」

「そこまでは分からん。が、そうだったら面白いな」

「……ヴールって王都から遠いんですよね?」

「そうだな。王国の西南の果てだからな。……まあ、また王都に残したシルヴァから報せが届くだろう」


 砂漠を渡って届く王国の情報には、タイムラグがある。

 主にルーファの女大隊商メルヴェの手で届られるが、知りたい情報のすべてが報せに含まれる訳ではない。

 クレイアが、腕組みをしてあごに手をあてた。


「しかし、ベスニク様を捕えた狙いが読めませんね……」

「そうだな。西南伯軍をおびき寄せたいのなら、ベスニク殿を追い返して怒らせた方が話が速かっただろうし、操ろうとするなら、レオノラ殿の首を刎ねた理由が分からん」

「……ペトラ殿下も、おツラい立場ですね」


 王都をともに脱出したペトラ姉内親王であったが、フェトクリシスに到着する前に道を違えた。

 アイカは、踊り巫女姿のペトラ姉内親王とファイナ妹内親王を思い返して、


 ――あれは、いいものを見せていただきました。


 と、静かに手を合わせた。

 すべての報せに目を通したリティアは、持っていた書状を机に置いた。


「やはり、ステファノス兄上とは通じておきたいな」


 旧都テノリクアで沈黙を守る第2王子ステファノスの動向は伝わらない。

 その腹の内は、リティアとしても探っておきたいところであった。

 そして、アイカは、リティアの思案顔を見て『お別れの時』が近いと、ひとり寂しげに微笑んだ――。
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