【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第七章 姉妹契誓

156.ブローチの輝き(2)

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「こちらに来て、殿下にご挨拶しなさい」


 と、ヨルダナに促されたフェティは、トトトトッと、リティアに歩み寄り、


「フェティ……」


 とだけ言って、恥ずかしげにヨルダナの椅子の後ろに隠れてしまった。


 ――な、な、な、な、な、な、なんですか――っ! この可愛らしい生き物は――っ!


 と、アイカの「愛で心」を全開に刺激したフェティは8歳。

 年齢にしては幼い上に、15歳のリティアより、7歳も歳下の従姉弟いとこにあたる。

 あからさま過ぎるほどの政略結婚を、ヨルダナはリティアに提案している。


「……姉エメーウを政略結婚の犠牲とし、その心を大きく傷つけてしまったルーファ首長家の者として、このような申し出を、エメーウの娘であられる殿下にすることに、忸怩たる思いしかございません」


 ヨルダナは、静かに頭を下げた。


「しかし……、ルーファの財と権を思う存分にお使いいただくため、どうかご検討いただけませんでしょうか」


 そして、話は前話冒頭に戻る。

 ヨルダナの背もたれに隠れたフェティをのぞき込みながら、ふやけた顔のリティアが、こう言った。


「えぇ~~~? そんなぁ~~~、いいんですかぁ~~~~?」


 ――あっ……、そーいう感じなんだ――、


 その場にいた全員が、寸分たがわず同じことを思った。


 ――そーいや、リティアさん、弟君おとうとくんのことも大好きだったもんな~。ショタ? おねショタってヤツですか、これ? ……って、前も思ったな~。


 と、アイカも、お花畑顔をしたリティアを眺めていた。


 ――けど、美少女です! リティアさん!


 心の中で、軽くフォローもしてみる。

 リティアは立ち上がり、フェティに近寄って腰を落とした。

 優しく微笑みかけるリティアに、フェティは頬を赤く染めた。


「フェティ殿……。リティアをお嫁さんにもらってくれますか……?」


 柔らかな微笑みを浮かべたリティアに、モジモジするばかりでいたフェティであったが、やがて、ちょこんと小さく頷いた。

 そして、か細い声で応えた。


「いいよ…………」


 ――カワイイが過ぎますね! これは、むしろ、けしからん部類ですよ⁉


 アイカも興奮し始めていた。

 リティアは目を細め、もう一段、腰をかがめてフェティに目線を合わせた。


「旦那様は、リティアを大切にしてくださいますか?」

「うん…………」

「ふふっ」

「するよ………………」


 リティアの微笑みに柔らかさが増した。

 そして、自らの胸に輝いていたブローチを外した。

 しばらく眺めた後に、フェティの胸に付けてやった。


「婚約のお礼に、旦那様に差し上げます」

「うん……、綺麗なブローチだね」

「ふふっ……、でしょう?」


 アイカの瞳は、途端に涙であふれた。

 リティアは、穏やかな表情でフェティの胸で青く輝くブローチを撫で、そして優しく語りかけた。


「よく、お似合いです」

「……そう?」

「リティアが、大切に想っていた者から贈られた品なのです」

「いいの……? もらって?」

「ええ。リティアが旦那様を生涯大切にするという約束の証なのです。旦那様も大切にしてくださると、リティアはとても嬉しく思います」

「うん、分かった。大切にする」


 と、フェティが撫でた青いサファイアがあしらわれたブローチは、かつてリティアが弟エディンから贈られた品であった。

 旧都行きの餞別を手渡しするために、わざわざリティア宮殿にまで足を運んでくれた、弟エディン。

 すでに、この世にはいない。


「どうか、いつまでも健やかにお育ち下さい……」


 リティアは喉の奥に流れるものを飲み込み、慈愛に満ちた微笑みでフェティを見詰め続けた。

 かつての、


 ――泣いてもいいと思うよ……。悲しいね……。


 という、アイカの声が、リティアの耳に蘇る。

 戦場と化した王宮の、リティア宮殿の入口ホール――、

 アイカが、父王に贈られた重装鎧ごしにも分かる強い抱擁で、抱き締めてくれた。


 そういえば、

「後で一緒に泣いてくれ」

 という、アイカと交わした約束を、まだ果たしていなかったなと、

 リティアが小さく口の端を上げた。


 黄金色の瞳から、アイカはあのときと同じように、とめどなく涙を流してくれていた。


 *


 そして、リティアの次の行動に、またもや皆が、あっと言わされる。

 ただショタ趣味を炸裂させたり、フェティに亡き弟の面影を見たというだけではなかったのだ――。
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