167 / 307
第七章 姉妹契誓
156.ブローチの輝き(2)
しおりを挟む
「こちらに来て、殿下にご挨拶しなさい」
と、ヨルダナに促されたフェティは、トトトトッと、リティアに歩み寄り、
「フェティ……」
とだけ言って、恥ずかしげにヨルダナの椅子の後ろに隠れてしまった。
――な、な、な、な、な、な、なんですか――っ! この可愛らしい生き物は――っ!
と、アイカの「愛で心」を全開に刺激したフェティは8歳。
年齢にしては幼い上に、15歳のリティアより、7歳も歳下の従姉弟にあたる。
あからさま過ぎるほどの政略結婚を、ヨルダナはリティアに提案している。
「……姉エメーウを政略結婚の犠牲とし、その心を大きく傷つけてしまったルーファ首長家の者として、このような申し出を、エメーウの娘であられる殿下にすることに、忸怩たる思いしかございません」
ヨルダナは、静かに頭を下げた。
「しかし……、ルーファの財と権を思う存分にお使いいただくため、どうかご検討いただけませんでしょうか」
そして、話は前話冒頭に戻る。
ヨルダナの背もたれに隠れたフェティをのぞき込みながら、ふやけた顔のリティアが、こう言った。
「えぇ~~~? そんなぁ~~~、いいんですかぁ~~~~?」
――あっ……、そーいう感じなんだ――、
その場にいた全員が、寸分たがわず同じことを思った。
――そーいや、リティアさん、弟君のことも大好きだったもんな~。ショタ? おねショタってヤツですか、これ? ……って、前も思ったな~。
と、アイカも、お花畑顔をしたリティアを眺めていた。
――けど、美少女です! リティアさん!
心の中で、軽くフォローもしてみる。
リティアは立ち上がり、フェティに近寄って腰を落とした。
優しく微笑みかけるリティアに、フェティは頬を赤く染めた。
「フェティ殿……。リティアをお嫁さんにもらってくれますか……?」
柔らかな微笑みを浮かべたリティアに、モジモジするばかりでいたフェティであったが、やがて、ちょこんと小さく頷いた。
そして、か細い声で応えた。
「いいよ…………」
――カワイイが過ぎますね! これは、むしろ、けしからん部類ですよ⁉
アイカも興奮し始めていた。
リティアは目を細め、もう一段、腰をかがめてフェティに目線を合わせた。
「旦那様は、リティアを大切にしてくださいますか?」
「うん…………」
「ふふっ」
「するよ………………」
リティアの微笑みに柔らかさが増した。
そして、自らの胸に輝いていたブローチを外した。
しばらく眺めた後に、フェティの胸に付けてやった。
「婚約のお礼に、旦那様に差し上げます」
「うん……、綺麗なブローチだね」
「ふふっ……、でしょう?」
アイカの瞳は、途端に涙であふれた。
リティアは、穏やかな表情でフェティの胸で青く輝くブローチを撫で、そして優しく語りかけた。
「よく、お似合いです」
「……そう?」
「リティアが、大切に想っていた者から贈られた品なのです」
「いいの……? もらって?」
「ええ。リティアが旦那様を生涯大切にするという約束の証なのです。旦那様も大切にしてくださると、リティアはとても嬉しく思います」
「うん、分かった。大切にする」
と、フェティが撫でた青いサファイアがあしらわれたブローチは、かつてリティアが弟エディンから贈られた品であった。
旧都行きの餞別を手渡しするために、わざわざリティア宮殿にまで足を運んでくれた、弟エディン。
すでに、この世にはいない。
「どうか、いつまでも健やかにお育ち下さい……」
リティアは喉の奥に流れるものを飲み込み、慈愛に満ちた微笑みでフェティを見詰め続けた。
かつての、
――泣いてもいいと思うよ……。悲しいね……。
という、アイカの声が、リティアの耳に蘇る。
戦場と化した王宮の、リティア宮殿の入口ホール――、
アイカが、父王に贈られた重装鎧ごしにも分かる強い抱擁で、抱き締めてくれた。
そういえば、
「後で一緒に泣いてくれ」
という、アイカと交わした約束を、まだ果たしていなかったなと、
リティアが小さく口の端を上げた。
黄金色の瞳から、アイカはあのときと同じように、とめどなく涙を流してくれていた。
*
そして、リティアの次の行動に、またもや皆が、あっと言わされる。
ただショタ趣味を炸裂させたり、フェティに亡き弟の面影を見たというだけではなかったのだ――。
と、ヨルダナに促されたフェティは、トトトトッと、リティアに歩み寄り、
「フェティ……」
とだけ言って、恥ずかしげにヨルダナの椅子の後ろに隠れてしまった。
――な、な、な、な、な、な、なんですか――っ! この可愛らしい生き物は――っ!
と、アイカの「愛で心」を全開に刺激したフェティは8歳。
年齢にしては幼い上に、15歳のリティアより、7歳も歳下の従姉弟にあたる。
あからさま過ぎるほどの政略結婚を、ヨルダナはリティアに提案している。
「……姉エメーウを政略結婚の犠牲とし、その心を大きく傷つけてしまったルーファ首長家の者として、このような申し出を、エメーウの娘であられる殿下にすることに、忸怩たる思いしかございません」
ヨルダナは、静かに頭を下げた。
「しかし……、ルーファの財と権を思う存分にお使いいただくため、どうかご検討いただけませんでしょうか」
そして、話は前話冒頭に戻る。
ヨルダナの背もたれに隠れたフェティをのぞき込みながら、ふやけた顔のリティアが、こう言った。
「えぇ~~~? そんなぁ~~~、いいんですかぁ~~~~?」
――あっ……、そーいう感じなんだ――、
その場にいた全員が、寸分たがわず同じことを思った。
――そーいや、リティアさん、弟君のことも大好きだったもんな~。ショタ? おねショタってヤツですか、これ? ……って、前も思ったな~。
と、アイカも、お花畑顔をしたリティアを眺めていた。
――けど、美少女です! リティアさん!
心の中で、軽くフォローもしてみる。
リティアは立ち上がり、フェティに近寄って腰を落とした。
優しく微笑みかけるリティアに、フェティは頬を赤く染めた。
「フェティ殿……。リティアをお嫁さんにもらってくれますか……?」
柔らかな微笑みを浮かべたリティアに、モジモジするばかりでいたフェティであったが、やがて、ちょこんと小さく頷いた。
そして、か細い声で応えた。
「いいよ…………」
――カワイイが過ぎますね! これは、むしろ、けしからん部類ですよ⁉
アイカも興奮し始めていた。
リティアは目を細め、もう一段、腰をかがめてフェティに目線を合わせた。
「旦那様は、リティアを大切にしてくださいますか?」
「うん…………」
「ふふっ」
「するよ………………」
リティアの微笑みに柔らかさが増した。
そして、自らの胸に輝いていたブローチを外した。
しばらく眺めた後に、フェティの胸に付けてやった。
「婚約のお礼に、旦那様に差し上げます」
「うん……、綺麗なブローチだね」
「ふふっ……、でしょう?」
アイカの瞳は、途端に涙であふれた。
リティアは、穏やかな表情でフェティの胸で青く輝くブローチを撫で、そして優しく語りかけた。
「よく、お似合いです」
「……そう?」
「リティアが、大切に想っていた者から贈られた品なのです」
「いいの……? もらって?」
「ええ。リティアが旦那様を生涯大切にするという約束の証なのです。旦那様も大切にしてくださると、リティアはとても嬉しく思います」
「うん、分かった。大切にする」
と、フェティが撫でた青いサファイアがあしらわれたブローチは、かつてリティアが弟エディンから贈られた品であった。
旧都行きの餞別を手渡しするために、わざわざリティア宮殿にまで足を運んでくれた、弟エディン。
すでに、この世にはいない。
「どうか、いつまでも健やかにお育ち下さい……」
リティアは喉の奥に流れるものを飲み込み、慈愛に満ちた微笑みでフェティを見詰め続けた。
かつての、
――泣いてもいいと思うよ……。悲しいね……。
という、アイカの声が、リティアの耳に蘇る。
戦場と化した王宮の、リティア宮殿の入口ホール――、
アイカが、父王に贈られた重装鎧ごしにも分かる強い抱擁で、抱き締めてくれた。
そういえば、
「後で一緒に泣いてくれ」
という、アイカと交わした約束を、まだ果たしていなかったなと、
リティアが小さく口の端を上げた。
黄金色の瞳から、アイカはあのときと同じように、とめどなく涙を流してくれていた。
*
そして、リティアの次の行動に、またもや皆が、あっと言わされる。
ただショタ趣味を炸裂させたり、フェティに亡き弟の面影を見たというだけではなかったのだ――。
35
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる