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第七章 姉妹契誓
153.掛け合い
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リティアは微笑みつつ、話を続けた。
「今度は、どの国にも収まり切らなかった者たちを、この《天衣無縫の無頼姫》リティアが引き受ける。我らの国を打ち立て、慮外者たちの楽園を築こうぞ」
リティアは窓の外から見える、ルーファ首長家の豪壮な屋敷に視線を移した。
「それは、プシャン砂漠、そしてルーファの治安にも資することになるはずだ。大お祖父様にも『出資』を頼んでみよう。だが、その前に、あの者らがどこにどのくらいいるのか。どのように生活しているのか、つぶさに調べ上げる必要がある」
「「ははっ」」
「アイシェ、ゼルフィア、カリュ。しばらく骨を休めたら、済まないが再び砂漠を回ってほしい。私たちが旅したルーファの北側だけでなく南側も状況を知りたい」
「かしこまりました」
「ネビ、ハルム。そなたらはルーファ育ちで砂漠に慣れておる。アイシェたちの護衛を選抜してほしい」
「ははっ」
「クレイアは首長家との渉外にあたれ」
「はっ」
「こちらは世話になる身だが、引け目を感じる必要はない。そのためには、余計なしがらみのない、そなたが相応しいだろう」
「仰せのままに」
「アイラは、クレイアを援けつつ、ドーラと賊の受け入れ準備を始めよ」
「……私ですか?」
「無頼の娘として育った、そなたが過ごしやすい環境を整えれば、自然と彼らが溶け込みやすい居場所をつくることができよう」
「分かりました、やってみます」
「よし。そして力を蓄え《聖山の大地》に皆で帰還する。プシャンの砂漠に埋もれている民を掘り起し、聖山の大地で花開かせるのだ」
「「はは――っ!」」
と、皆が頭を下げるなか、ぴょこんと頭を上げたままキョロキョロしていたのはアイカだ。
「あの……、私は?」
「ん? ……あっ! うん、そうだな」
「忘れてました?」
「忘れてない。忘れてないぞ」
「いや、忘れてましたよね?」
「アイカは我が側にあって離れず、《陛下の狼》たちとともに私を援けよ! 弓矢の守護聖霊と、道案内の守護聖霊が、きっと我が道を照らしてくれるだろう」
「……なんか、いい感じにまとめようとしてますけど、忘れてましたよね?」
「忘れてない、忘れてないぞ。私がアイカを忘れるはずないではないか」
「『あっ!』って、言ってましたよ?」
「言ってない」
と、漫才のような掛け合いが始まったのを見て、皆は微笑ましく苦笑いを浮かべ、三々五々、解散となった。
「あーあ。タロウ、ジロウ。殿下に忘れられちゃってたんだぁ、私」
「だから、忘れてないってば……。タロウとジロウも、そんな目で見るなぁ。第3王女だぞ? 私」
砂漠を旅する間にも、2人の距離は相当縮んでいた。周囲の者たちも、それが当然のことと受け入れるほどに――。
◇
アイシェたちが砂漠に割拠する賊の調査に出発した頃、リティアは大首長のセミールから宴に招かれた。
「砂漠に散在する賊を糾合しようとは、さすがは《ファウロスの娘》、といったところですな」
「恐れ入ります」
「賊はそれぞれ小さな一派を構えております。そのひとつひとつを懐柔し、時には制圧していく必要がありましょう」
「心得ております。一筋縄にはいかないでしょうが、時間をかけても必ずやり遂げる覚悟です」
「まこと、頼もしい限り」
「なにせ、私の中には、父ファウロスに加えて、大首長セミールの血も流れておるのです! 聖山の大地も、プシャンの砂漠も、私に味方してくれるに違いないのです!」
「ふふふ。たしかに……」
宴にはアイカをはじめ、ルーファに残るリティアの家臣たちも招かれている。
快活な笑顔で未来を語る主君リティアを、誇らしげに見詰めた。
「しかし、殿下……。私は殿下に償わなくてはならない……」
と、セミールは瞳に柔和な光を宿して、リティアをしっかりと見据えた――。
「今度は、どの国にも収まり切らなかった者たちを、この《天衣無縫の無頼姫》リティアが引き受ける。我らの国を打ち立て、慮外者たちの楽園を築こうぞ」
リティアは窓の外から見える、ルーファ首長家の豪壮な屋敷に視線を移した。
「それは、プシャン砂漠、そしてルーファの治安にも資することになるはずだ。大お祖父様にも『出資』を頼んでみよう。だが、その前に、あの者らがどこにどのくらいいるのか。どのように生活しているのか、つぶさに調べ上げる必要がある」
「「ははっ」」
「アイシェ、ゼルフィア、カリュ。しばらく骨を休めたら、済まないが再び砂漠を回ってほしい。私たちが旅したルーファの北側だけでなく南側も状況を知りたい」
「かしこまりました」
「ネビ、ハルム。そなたらはルーファ育ちで砂漠に慣れておる。アイシェたちの護衛を選抜してほしい」
「ははっ」
「クレイアは首長家との渉外にあたれ」
「はっ」
「こちらは世話になる身だが、引け目を感じる必要はない。そのためには、余計なしがらみのない、そなたが相応しいだろう」
「仰せのままに」
「アイラは、クレイアを援けつつ、ドーラと賊の受け入れ準備を始めよ」
「……私ですか?」
「無頼の娘として育った、そなたが過ごしやすい環境を整えれば、自然と彼らが溶け込みやすい居場所をつくることができよう」
「分かりました、やってみます」
「よし。そして力を蓄え《聖山の大地》に皆で帰還する。プシャンの砂漠に埋もれている民を掘り起し、聖山の大地で花開かせるのだ」
「「はは――っ!」」
と、皆が頭を下げるなか、ぴょこんと頭を上げたままキョロキョロしていたのはアイカだ。
「あの……、私は?」
「ん? ……あっ! うん、そうだな」
「忘れてました?」
「忘れてない。忘れてないぞ」
「いや、忘れてましたよね?」
「アイカは我が側にあって離れず、《陛下の狼》たちとともに私を援けよ! 弓矢の守護聖霊と、道案内の守護聖霊が、きっと我が道を照らしてくれるだろう」
「……なんか、いい感じにまとめようとしてますけど、忘れてましたよね?」
「忘れてない、忘れてないぞ。私がアイカを忘れるはずないではないか」
「『あっ!』って、言ってましたよ?」
「言ってない」
と、漫才のような掛け合いが始まったのを見て、皆は微笑ましく苦笑いを浮かべ、三々五々、解散となった。
「あーあ。タロウ、ジロウ。殿下に忘れられちゃってたんだぁ、私」
「だから、忘れてないってば……。タロウとジロウも、そんな目で見るなぁ。第3王女だぞ? 私」
砂漠を旅する間にも、2人の距離は相当縮んでいた。周囲の者たちも、それが当然のことと受け入れるほどに――。
◇
アイシェたちが砂漠に割拠する賊の調査に出発した頃、リティアは大首長のセミールから宴に招かれた。
「砂漠に散在する賊を糾合しようとは、さすがは《ファウロスの娘》、といったところですな」
「恐れ入ります」
「賊はそれぞれ小さな一派を構えております。そのひとつひとつを懐柔し、時には制圧していく必要がありましょう」
「心得ております。一筋縄にはいかないでしょうが、時間をかけても必ずやり遂げる覚悟です」
「まこと、頼もしい限り」
「なにせ、私の中には、父ファウロスに加えて、大首長セミールの血も流れておるのです! 聖山の大地も、プシャンの砂漠も、私に味方してくれるに違いないのです!」
「ふふふ。たしかに……」
宴にはアイカをはじめ、ルーファに残るリティアの家臣たちも招かれている。
快活な笑顔で未来を語る主君リティアを、誇らしげに見詰めた。
「しかし、殿下……。私は殿下に償わなくてはならない……」
と、セミールは瞳に柔和な光を宿して、リティアをしっかりと見据えた――。
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