【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第七章 姉妹契誓

152.国をつくる

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 北離宮に去るエメーウの背中を見送るリティアの傍に、ヨルダナが立った。

 エメーウの妹、リティアの叔母にあたるヨルダナは、いつもの人形のように美しい無表情ながら、発する声には哀切な響きが乗っていた。


「時を見て、とはいかなかったのです……」

「ヨルダナ叔母様……」

「ズルズルと時を重ねては、余計に離れがたくさせてしまう。ルーファに入ったこのタイミングが、お姉様のお心に最も負担が少なくて済むと、皆で考えたのです」

「お心遣い、ありがとうございます。母上と砂漠を旅し、とても楽しかったのです!」

「殿下……」

「駱駝の乗り方を教えてもらい、一緒に乗って笑い合いました。鉄砲水から我が第六騎士団を救ってもくださいました。とてもとても、良き思い出をいただきました! リティアは、生涯忘れません」

「……ただ、リティア殿下」

「はい!」

「もしも、殿下が《砂漠の民》として生きることをお選びになるのであれば、お止めいたしませんし、むしろ歓迎いたします。我らは殿下の生き方を、強制するつもりは毛頭ございません」

「分かりました、ヨルダナ叔母上!」

「申し遅れましたが……」


 と、ヨルダナをはじめ、その場にいるルーファの者全員がリティアに深く頭を下げた。


「御父君、ファウロス陛下のご崩御を、謹んでお悔やみ申し上げます」


 リティアの目に、急激に涙が浮かびあがった。

 異国の貴人から示された弔意は、父の死に改めて実感を抱かされるに充分な荘厳さを具えていた。

 思わず目でアイカを探すと、アイカも目に涙を浮かべてくれている。

 リティアは小さく頷き、ヨルダナ、そして大首長セミールたちに頭を下げて謝意を伝えた。


 ◇


 ――完全に、リティア宮殿だ……。


 足を踏み入れたアイカは、驚きと感心と興奮を覚えながら自分の部屋まで進んだ。

 リティアは苦笑いが止まらなかった。


 ――恐るべき、ルーファの諜報力。


 近侍の者以外立ち入ることのなかった奥殿でさえ、精巧に再現されている。


「おっ! ここは再現が甘いな!」


 と、多少の差異を見つけては笑いが起きるほど、全体としては完璧に再現されている。

 帰って来た――、と、錯覚せんばかりであった。

 しかし、もちろん窓からの景色は異なる。

 いつも見下ろしていた神殿街も、王都の喧騒もない。

 執務室に侍女や主だった家臣を集めたリティアは、王都への帰還を宣言した。


「すぐにと言う訳ではない。ルーファで力を養う必要がある」


 皆が、頷いた。


「プシャン砂漠を渡って気が付いたことがある。ことのほか、賊が多い」

「たしかに『謁見』の列が途絶えることがありませんでしたからな」


 と、ジリコの叩いた軽口に、皆が苦笑いを浮かべた。


「王都に育った私では、想像することもなかったことだ。なにもない砂漠で、あの者たちはいかに生活しているのか」

「言われてみれば……」


 ルーファ育ちのアイシェとゼルフィアも首をひねった。


「あの者らを、丸ごと第六騎士団に編入したい」

「「おおっ……」」


 無頼と交わることさえ厭わないリティアらしい発想に、皆が唸った。


「ふふっ。王国にありながら主祭神を定めず『六番目の騎士団』とだけ名乗ったことが、ここで活きてくるとはな」

「たしかに……」


 と、儀典官のイリアスがいつもの仏頂面で頷いた。


「我らに『挨拶』に来てくれた者たちを見ると、《砂漠の民》もいれば《山々の民》もいた。なかには《草原の民》もいないことはなかった。この分だと南に回れば《密林国》の者たちがいても驚かない。彼らに聖山の神々への信仰を強いれば、騎士団への編入は難航するだろう」


 思案顔をしたクレイアが声をあげた。


「あの髭面の首領ジョルジの話しぶりでは、賊にも家族がある風情でしたが」

「もちろん、丸ごと引き受ける」

「丸ごと……、ですか?」

「そうだ。ゆえに、騎士団の増員を図るという感覚でことに当たればしくじる。私たちの国をつくるのだ」

「国を……」

「もともと、第六騎士団は他の正統派騎士団には収まり切らなかった、はみ出し者、荒くれ者、慮外者をかき集めて作った騎士団ではないか」


 リティアは、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「慮外者たちの、楽園を築こうぞ!」


 楽園――っ! アイカはリティアの言葉に目を輝かせ、続く言葉に耳を澄ました。

 一言も聞き漏らしたくはなかった――。
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