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第六章 蹂躙公女
148.つながる夜空
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座を開く最後に、笑顔を取り戻したロマナが口を開いた。
「リーヤボルクの使者に随行していたテノリア王国の文官が、ペトラ殿下からの密書をもたらしました」
「まあ……」
お喋りなソフィアも、思わずロマナの言葉の続きを待った。
「バシリオス殿下もベスニクお祖父様も、所在は分からないが、殺させたりはしないよう意を尽くすと……」
リーヤボルクから進駐し摂政を僭称するサミュエルの妃となったペトラの立場を、痛ましく思わない者はこの場にいなかった。かといって、全幅の信頼を置くこともできない。
ペトラが父ルカスの不利益になるような働きまではしないだろうというのが、その場にいた3人の王族と1人の公女の一致した考えであった。
「そして、王都に潜伏してるアーロンとリアンドラが極めて細い糸ながら、お祖父様につながる手がかりをつかもうとしています」
「まあ!」
ウラニアが大きな声で、喜びと驚きをあらわした。
「武器商人に扮した2人が、お祖父様の幽閉を担当している者と友人であるというリーヤボルク兵に喰い込んだようです」
「……武器商人」
筋肉ムキムキの2人なら、剣でも槍でもよく売れるだろうとガラの想像をたくましくさせた。
「ただし、この情報はこの場限り内密にお願いいたします。残念ながらヴールにもリーヤボルクの間諜が潜んでいるとも限りません。漏れればアーロンとリアンドラの身を危険に晒しかねませんし、お祖父様への糸が途切れてしまいます」
ソフィアが真面目な顔をして両手の人差し指で口の前にバッテンをつくって頷くと、皆も苦笑い気味に頷いた。
「ダビドに密かに決死隊の編成を命じてあります。ヴール公宮で不思議に思われる動きが目に入るかもしれませんが、見て見ぬふりをしてやってください」
と、ロマナはガラに目をやった。
「お前の義父は、ああ見えて細やかな作業もソツなくこなす。とはいえ、隠密の作業がガラの視界をよぎることもあるかもしれない」
養女ということにしてもらった猛将ダビドは「娘は娘ですからな!」と、こまめにガラのもとに顔を見せている。
ガラの倍はあろうかという巨体に似合わず、甘い菓子など持って来ては無駄話をして帰る。
子供は自分に似てむさくるしい息子ばかりで、ロマナに命じられた形式的なものとはいえ、かわいらしい娘が出来たことが嬉しくてしかたない様子だった。
「分かりました」
ガラは表情を引き締めて応えた。
「あんなに子煩悩になるとは、思ってもみなかった」
「いえ、大切にしていただき、ガラは嬉しく思っております」
「んもう! ほんと、ガラちゃんもカワイイわねぇ!」
と、ソフィアが腰をフリフリと振った。
「おばちゃんの娘にもなるぅ?」
「え……? え………?」
「大叔母様。ガラが困っているではないですか」
「だって、カワイイしぃ!」
「ヴール家臣の養女と、テノリア王族の養女では意味が違いすぎます。あと、今ご自身でおっしゃいましたよね?」
「ん? なにを?」
「皆さまもハッキリお聞きになりましたよね? ……ソフィア様がご自身のことを『おばちゃん』と言うのを」
「あ」
「これからは、余計な気を遣わず『大叔母様』と呼ばせていただきますね」
と、にっこり微笑むロマナに、ソフィアは「もう意地悪なんだからぁ……」と口を尖らせた。
◇
皆を送り出し、執務室にはロマナとガラが残った。
「見苦しいところを見せたな」
と、ロマナが恥ずかしそうに笑った。
「いいえ。ロマナ様はご立派でございます」
「ふふっ。……ガラも私の侍女らしくなってきたな」
「ロマナ様のお陰でございます」
ロマナはソファから立ち上がり、窓辺から夜空を見上げた。
その夜空は、遠く離れたリティアにもつながっている――。
「リーヤボルクの使者に随行していたテノリア王国の文官が、ペトラ殿下からの密書をもたらしました」
「まあ……」
お喋りなソフィアも、思わずロマナの言葉の続きを待った。
「バシリオス殿下もベスニクお祖父様も、所在は分からないが、殺させたりはしないよう意を尽くすと……」
リーヤボルクから進駐し摂政を僭称するサミュエルの妃となったペトラの立場を、痛ましく思わない者はこの場にいなかった。かといって、全幅の信頼を置くこともできない。
ペトラが父ルカスの不利益になるような働きまではしないだろうというのが、その場にいた3人の王族と1人の公女の一致した考えであった。
「そして、王都に潜伏してるアーロンとリアンドラが極めて細い糸ながら、お祖父様につながる手がかりをつかもうとしています」
「まあ!」
ウラニアが大きな声で、喜びと驚きをあらわした。
「武器商人に扮した2人が、お祖父様の幽閉を担当している者と友人であるというリーヤボルク兵に喰い込んだようです」
「……武器商人」
筋肉ムキムキの2人なら、剣でも槍でもよく売れるだろうとガラの想像をたくましくさせた。
「ただし、この情報はこの場限り内密にお願いいたします。残念ながらヴールにもリーヤボルクの間諜が潜んでいるとも限りません。漏れればアーロンとリアンドラの身を危険に晒しかねませんし、お祖父様への糸が途切れてしまいます」
ソフィアが真面目な顔をして両手の人差し指で口の前にバッテンをつくって頷くと、皆も苦笑い気味に頷いた。
「ダビドに密かに決死隊の編成を命じてあります。ヴール公宮で不思議に思われる動きが目に入るかもしれませんが、見て見ぬふりをしてやってください」
と、ロマナはガラに目をやった。
「お前の義父は、ああ見えて細やかな作業もソツなくこなす。とはいえ、隠密の作業がガラの視界をよぎることもあるかもしれない」
養女ということにしてもらった猛将ダビドは「娘は娘ですからな!」と、こまめにガラのもとに顔を見せている。
ガラの倍はあろうかという巨体に似合わず、甘い菓子など持って来ては無駄話をして帰る。
子供は自分に似てむさくるしい息子ばかりで、ロマナに命じられた形式的なものとはいえ、かわいらしい娘が出来たことが嬉しくてしかたない様子だった。
「分かりました」
ガラは表情を引き締めて応えた。
「あんなに子煩悩になるとは、思ってもみなかった」
「いえ、大切にしていただき、ガラは嬉しく思っております」
「んもう! ほんと、ガラちゃんもカワイイわねぇ!」
と、ソフィアが腰をフリフリと振った。
「おばちゃんの娘にもなるぅ?」
「え……? え………?」
「大叔母様。ガラが困っているではないですか」
「だって、カワイイしぃ!」
「ヴール家臣の養女と、テノリア王族の養女では意味が違いすぎます。あと、今ご自身でおっしゃいましたよね?」
「ん? なにを?」
「皆さまもハッキリお聞きになりましたよね? ……ソフィア様がご自身のことを『おばちゃん』と言うのを」
「あ」
「これからは、余計な気を遣わず『大叔母様』と呼ばせていただきますね」
と、にっこり微笑むロマナに、ソフィアは「もう意地悪なんだからぁ……」と口を尖らせた。
◇
皆を送り出し、執務室にはロマナとガラが残った。
「見苦しいところを見せたな」
と、ロマナが恥ずかしそうに笑った。
「いいえ。ロマナ様はご立派でございます」
「ふふっ。……ガラも私の侍女らしくなってきたな」
「ロマナ様のお陰でございます」
ロマナはソファから立ち上がり、窓辺から夜空を見上げた。
その夜空は、遠く離れたリティアにもつながっている――。
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