【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
157 / 307
第六章 蹂躙公女

147.桃色髪の少女を従えて

しおりを挟む
 一座の笑いが途切れたとき、ソフィアの胸の中に顔をうずめるようにして、ロマナがつぶやいた。


「私だって……、本当は怖いのです……」

「ロマナちゃん……」

「お父様は無惨に殺され、私はエズレアに同じことをしてしまいました……。狩猟神パイパルは私をお許しになるでしょうか……? 哀しみを広げる私のことを……」


 ソフィアは黙ってロマナの頭をなでた。


「お祖父様が囚われたというのに、私自身は救けに行くこともせず、自分の権威を守るのに汲々としている。西南六〇列候の親と子を離れ離れにしている私は、同じ哀しみを味あわせているだけなのではないでしょうか……」


 ロマナを囲む大人たちはその背にのしかかる重責を思い遣り、側に控えるガラは思いがけないロマナの弱音に驚き、やがて小さな涙をこぼした。

 王都に潜伏するリアンドラからは、ガラに宛てた書状も届いていた。

 ベスニク虜囚の一報がヴールに漏れていたことを訝しんだリーヤボルク兵の目が、孤児の館を探り当てていた。ガラの存在まで暴かれていた訳ではなかったが、弟レオンは身の安全を図るために逃がされた。

 北の元締シモンの指図で、若頭ピュリサスが付き添いレオンは辺境のフェトクリシスに送られた。

 ガラに教えられていたアーロンとリアンドラが孤児の館に訪れる直前の出来事で、ちょうど入れ違いになってしまった。

 書状にはシモンがレオンの無事を保障していると書かれていたが、姉弟は聖山の大地の西南の果てと、北東の果てに別たれることになった。リティアへの恩に報いるためにした行動であったが、このような結果を招くことまでは、ガラには想像できていなかった。

 そして、ロマナが自分をヴールに引き止めていた理由も、ようやく理解することができた。

 そのロマナが胸中に秘めていた苦しさを、大人の胸に顔をうずめて吐き出している。


 ――私も、強くならなければ。私を助けてくれたロマナ様のお役に立てるように。私を助けてくれたリティア殿下のお役に立てるように。


 生きていればレオンとは、きっとまた会える。

 ピュリサスに守られているレオンと違い、ロマナの祖父は所在不明に囚われている。どのような扱いを受けているかも分からない。ロマナの不安の大きさを思えば、自分の不安など耐えられるレベルのものだ。

 その思いと決意とが、小さな滴になって目からこぼれた。


「リティアなら……」


 と、ロマナが言葉を継いだ。


「リティアが私なら、王都に飛んで行ったでしょうか? お祖父様を救けるために、自分が飛んで行ったでしょうか……? お祖父様はどこかに幽閉され、塗炭の苦しみを味あわされているかもしれないというのに、私はヴールの高い城壁に守られてぬくぬくと暮らしている……」

「ロマナちゃんは頑張ってるわよ……?」


 ソフィアは「えらい、えらい」と、ロマナの頭をなで続けた。


「……大叔母様の辞書に、静かに労わるという項があるとは、驚きです」

「え? ひどくない?」

「ふふっ」


 ロマナはソフィアの胸に顔をうずめたまま、笑い声をこぼした。


「ていうか、ロマナちゃんから見たらリティアだって『大叔母様』でしょ? リティアは私の妹なのよ? なのに、私だけオバサンって言わないでほしいなあ」

「リティアは年下ですし」

「リティア殿下……、でしょ?」


 と、ウラニアが悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「リティアはリティアです」

「はやく、会いたいわねぇ……」

「…………はい」

「あのは、いちばんお父様の血を色濃く受け継いでるから……。帰って来たら、リーヤボルクなんてあっと言う間に追い出しちゃうわよ」


 ソフィアが、ロマナを強く抱き締めた。

 その様に、ウラニアが浮かべる笑みも優しいものへと変わる。


「不思議なものね。砂漠の民との間に生まれたリティアが、いちばん強くお父様の気性を受け継ぐなんて」


 ソフィアに抱き締められたロマナ、そしてその場にいる皆が、砂漠を渡っているリティアの笑顔を思い浮かべた。

 きっと、初めて乗る駱駝の背でキャッキャとはしゃいでいるに違いない。

 傍らに二頭の狼と、桃色髪の少女を従えて――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...