145 / 307
第六章 蹂躙公女
135.斬首の報せ
しおりを挟む「それはリティアにしてやられた。あいつ、いいことをしているではないか」
ガラから教えられた孤児たちの館の話に、ロマナは膝を打った。
「ヴールでも是非、同じことを始めよう」
「もともと、アイカちゃんが言い出してくれたことで……」
「そうか。無頼姫の狼少女も、ただ者ではなかったか。よし、分かった。ガラよ、弟のレオンは必ず私が引き取ろう」
「え……?」
「それに、7日で王都からたどり着くとは、騎士顔負けのスピードだ。心身ともに疲れておろう。いずれにしても、私の側に仕え、とりあえず身体を休めよ。このまま帰ろうとすれば長い旅路の道端で、体力が尽きて倒れてしまいかねん。そうなれば、二度と弟に会えなくなるぞ」
ロマナはガラに優しく微笑みかけた。
そして、自ら自分の寝室に案内し、戸惑うガラを追い立てるように茶化して寝台で横にさせると、たちまち眠りに落ちた。
まずは、誰も近寄れない自分の寝室に、ガラを匿った。
リティアとアイカから、大切な宝物を預かったような心持ちであった。
◇
ロマナは、側近の近衛兵、アーロンとリアンドラを呼び、ヴール周辺の警戒を強めさせた。
西南伯幽閉の報が届けば、異心を抱く者が出ないとも限らない。ヴール本領より先に情報をつかむ列侯領があってもおかしくはない。
加えて、ただちに王都に向けて斥候を放つようにも命じた。
そして、表向きは平静を装いつつも、焦れるような時間が過ぎていく。すぐにでも自ら王都に出兵したい気持ちを抑え、詳報が届くのを待った。
ガラはよほど疲れていたとみえ、2日ほど目を覚さなかった。
自分のベッドを明け渡していたため、起こそうとするメイドたちを止め、ロマナは客間のベッドで眠った。
起きたガラをメイド長のマヌエラに任せつつ、昼間は自らの執務室に置き、夜は一緒に食事をとって、湯に浸かり、機密を守った。
――また、キラキラのピカピカのお風呂に入れてもらえるなんて……。
リティアが王都を脱出する直前。ガラは宮殿に呼ばれて、皆んなと一緒に大浴場に入れてもらった。
リティアもアイカもクレイアもいた。
一生に一度の思い出だと感激していたガラだったが、今度は王国ナンバー2の家柄ともいえる西南伯家のお姫様と一緒に湯に浸かっている。
その上、玉のような肌をしたロマナの背中を流させてもらっている。
側に仕える者の仕事だとは理解していたが、まるで夢の中にいるようで現実感が湧かない。
起きたら、あの薄暗くてジメジメした地下水路にいるのではないかと思いながら、毎晩、眠りにつく。だが、毎朝、ピカピカのキラキラな宮殿で目が覚める。
そして、一生縁のない場所と思っていた、ロマナの執務室に連れて行かれるのだ。
「暇にしていたら、気を揉むばかりであろう。私の側近としての仕事も覚えていってくれ」
「そっき……」
「側で仕えるのだから、側近ではないか?」
と、笑うロマナに戸惑いながら、執務机に高く積まれた書類の整理を手伝う。
「なんだ、ガラ。そなた、文字が読めるのか」
「はい…………。リティア殿下につくっていただいた館で、教えていただいてました」
「やるなあ、リティア」
「それも、もともとはアイカちゃんが、殿下にお願いしてくれたことで……」
「狼少女。……弓矢の腕前だけではなかったか」
ヴールのみならず、西南伯領各地から上がってくる書類を内容ごとに分類するのが、ガラの仕事になった。
ガラには当然、ヴールに何のしがらみもない。西南伯領の列候に忖度するような事もなく、ロマナの指示に忠実に作業していく。大量の事務を捌かなくてはいけないロマナは、すぐにガラを重宝するようになった。
さらに、メイド長のマヌエラから化粧を習ったガラは、より美しさを増している。
神経をすり減らしていたロマナにとって、可憐で美しいガラと一緒の部屋で過ごすことは、一服の清涼剤のようにも働いた。
「ガラ……。そなた、計算も出来るのか……?」
「は、はい……あの…………」
「それも、狼少女か?」
「はい…………」
ロマナは唸った。
そして、検算が必要な案件はガラに任せるようになった。複雑な計算が必要なものも、教えればすぐに覚える。
――王国に名高い『侍女』とは、こうした者たちであろう……。
リティアに仕えるクレイアという侍女も、貧民街から取り立てたと聞く。
王国に比べれば、列候領の方が伝統に保守的で身分や出自にうるさい。だが、ガラの美しさと明敏さは、ロマナの認識に大きな変革をもたらすのに充分であった。
そうして5日ほどが経った昼下がり、ついに王都からの凶報が、ロマナのもとに届いた。
父レオノラ――――、斬首。
44
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる