134 / 307
第五章 王国動乱
125.煩悶旧都
しおりを挟む「もどかしいな……」
第2王子ステファノスが呟いた。
吟遊詩人のリュシアンからの報告を聞き、王国内の地図を頭の中に描き終えた。事態は巧妙に膠着状態に持ち込まれた。リーヤボルク兵との武力衝突に身構えていた列候は、完全に肩透かしをくらった恰好であった。
「王都では、無頼がリーヤボルクの蛮兵を受け止めた形ですね」
「王都の平穏は、望ましいことだが……」
王国の中心を他国の兵に占拠されながら、ステファノスは出兵の機会を完全に失っていた。
リーヤボルク兵が王都で蛮行を働けば、それを討つ名目が立った。一部で混乱は見られるが、交易に障りがないとなれば、いちかばちかの戦いを挑むのも躊躇われる。
――バシリオスは、私が討つべきであったか。
と、考えなくもなかったが、あの時点では手持ちの兵力が足りていなかった。
ステファノスも、王弟カリストスと同様に、周辺列候の慰撫に務め勢力圏を築き始めてはいる。しかし、形式上とはいえルカスを戴くリーヤボルク兵を討つには、大義名分が足りてない。
「リーヤボルク本国からの増援は考えられそうか?」
「どうでしょう。伝え聞くところによれば、その余裕はなさそうですが……。それ以上に、ステファノス殿下や、カリストス殿下の出兵につながることは、しなそうに思えます」
「そうか……」
テノリア王国の統治は、列候の分断にある。強兵を養う王家が君臨するのは、列候が団結して歯向かってくるのを、未然に防いでいればこそであった。
そこを、つけ込まれている。
交易による富が保障されていれば、さしあたって列候は様子見を決め込むであろうし、それを打ち破って、聖山の民が団結するには“芯”となる存在を欠いていた。
王国内に割拠し始めた各勢力はいずれも、独力でリーヤボルク兵に対抗できるほどには至らない。が、王位を巡ってそれぞれ思惑を抱え、すぐさま協力し合うこともない。
「ルカスがリーヤボルク兵を追い返したなら、即位に賛同せぬでもないのだが……」
「実に大人しく喪に服されていますな。大神殿には毎日、大量の酒と肴が運びこまれているようですが」
「完全に籠絡されたか」
「実質的にはペトラ殿下が、執政の権を握られております」
「ペトラも、ファウロスの孫娘であったか……」
王国を壊したくないというペトラの想いは、遠く離れていてもステファノスにも理解できる。それがリーヤボルクの占拠を長引かせると解っていても、荒らさせるわけにはいかない。父親を人質にとられたも同然の中、孤軍、政治の戦いを挑んでいる。
「……リティアが王都に残れば、むごい方法をとってでも、ルカスの即位に賛同させられたであろうな」
「間一髪というところでしたな」
「リュシアン。そなたの目に、王位の行方はどう見える?」
「はて。一介の吟遊詩人には、なんとも分かりかねますが、聖山の大地が王を必要とするなら、いずれ収まるところに収まりましょう」
「……そうだな」
リュシアンの言葉は、このまま王位に就く者が出ない、つまり王国が崩壊する可能性を暗に示している。
それは、聖山戦争を戦い抜き、多くの血を流した末に王国をまとめあげた一人であるステファノスにとって、耐え難いことであった――。
22
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる