【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

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 王弟カリストスは、侍女長サラリスへのを続けた。


「おそらく、次の布告では、ペトラとファイナの輿入れを報せてこよう」

「輿入れ……?」

「リーヤボルクの将か王族、あるいはリーヤボルク王に嫁がせるかもしれんな」

「……執政の権を握りにくるということですか?」

「そうだ。当面の狙いが、王国全土の制圧ではなく、王都の利権にあることは明白。ならば、リーヤボルク兵の駐屯に正統性を持たせる手を打って来よう」

「……おいたわしいことです」


 カリストスは既に、ルカスの軽率さに疑いがない。リーヤボルク兵を帰国させないということは、完全に籠絡されているのであろう。

 ルカスは、王国統治のため、リーヤボルクに隣接するブローサ候から正妃を迎えた。

 おそらくは、そのルートでリーヤボルクからの調略が進んでいたのであろう。平時であれば、有効な外交ルートになり得たが、王太子謀叛という特大の変事に乗じて逆用された形であった。

 優美な姪たちが謀略の犠牲になるのは忍びないが、今のカリストスには助ける手立てがない。


 ◇


 カリストスのもとにルカスの布告が届く少し前――、

 そのペトラ姉内親王は、大神殿で喪に服している父ルカスから、上機嫌に迎えられたことに眉を顰めていた。


「わっはっはっはっはっ! どうだ、父は強かろう? バシリオス兄上といえども一捻りであったわ」

「……戦勝……おめでとう…………ございます」


 ペトラは、かろうじて礼容をとった。

 神聖であるべき大神殿の尖塔で、娼婦とおぼしき女たちを侍らせ、酒宴を張っている。見たところ、大神殿に入って以来、ずっとそのように過ごしていた気配が漂う。


「うむうむ。やっと、お前たちに父の強いところを見せられたな」


 そう無邪気に笑う父に――、呆れた。


「……お、王国は……いまだ、混乱しております」

「うむ! それよ!」

「お考えがおありなのですね?」

「心配するな! 父に叛くような者がおれば、たちどころに討ち果たしてみせよう。そうだ。次はペトラとファイナも戦陣に連れて行ってやろう。豪壮な父の姿をその目に焼き付けてくれい」


 それでしたら私もお連れ下さいませと、女たちが媚びた嬌声を上げると、おうおうと笑顔で応えるルカスに、ペトラはそれ以上、なにかを話す気が失せた。

 隣を見れば、ファイナは自分以上に険しく軽蔑の眼差しを向けている。

 総候参朝前、父ルカスに、側妃サフィナの脅威を必死に訴えていたことが虚しくなった。まともに取り合ってもらえず、結局、ファウロスから王都追放の憂き目に遭い、叔父である王太子バシリオスの謀叛を招いた。


「……それでは、父上もお楽しみのご様子……。私たちは、これにて……」

「おお、そうだ。サミュエル公には、もう会ったか?」

「リーヤボルクの……」

「そうだそうだ。儂に大軍を預けてくれた御仁よ」


 ルカスの理解では、リーヤボルク兵は自身の指揮下にあった。

 だが、ペトラとファイナの目に映るルカスは、リーヤボルク兵によって、ていよく軟禁されている。ここに来るまでも、多数の兵士から下卑た視線を浴びせかけられた。


「いや。たいしたお方よ」

「……そうでございますか」

「ペトラ。お前を正妃に迎えたいと言うてくれておるそうだ」

「はあ!?」

「内々にマエルから打診があったのだが、もちろん喜んで応じると答えておいたぞ。リーヤボルク王家に連なるお方であれば、我が婿にも相応しい。戦場では馬を並べたが、なかなかの将帥ぶりであった。なにより、行き遅れておったペトラを貰ってくれるというのだからな。願ってもない話よ」


 ははっ、と、ペトラは力なく笑った。


「ファイナの輿入れ先も世話してくれると言うておった。これで、儂も安心できるわ。はっはっはっはっ」


 と、心地よさそうに笑うルカスを背に、ペトラとファイナは大神殿を後にした。

 憤りを隠せないファイナとは対照的に、姉のペトラの表情は、聖山王スタヴロスに連なる王家の誇りと責任で引き締まっていた。


 ――我が身を挺して、王国を守るほかない。


 ペトラ姉内親王もまた、孤独な戦いを始めようとしていた――。
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