【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
122 / 307
第五章 王国動乱

113.交錯(2)

しおりを挟む
 王弟カリストスは、侍女長サラリスへのを続けた。


「おそらく、次の布告では、ペトラとファイナの輿入れを報せてこよう」

「輿入れ……?」

「リーヤボルクの将か王族、あるいはリーヤボルク王に嫁がせるかもしれんな」

「……執政の権を握りにくるということですか?」

「そうだ。当面の狙いが、王国全土の制圧ではなく、王都の利権にあることは明白。ならば、リーヤボルク兵の駐屯に正統性を持たせる手を打って来よう」

「……おいたわしいことです」


 カリストスは既に、ルカスの軽率さに疑いがない。リーヤボルク兵を帰国させないということは、完全に籠絡されているのであろう。

 ルカスは、王国統治のため、リーヤボルクに隣接するブローサ候から正妃を迎えた。

 おそらくは、そのルートでリーヤボルクからの調略が進んでいたのであろう。平時であれば、有効な外交ルートになり得たが、王太子謀叛という特大の変事に乗じて逆用された形であった。

 優美な姪たちが謀略の犠牲になるのは忍びないが、今のカリストスには助ける手立てがない。


 ◇


 カリストスのもとにルカスの布告が届く少し前――、

 そのペトラ姉内親王は、大神殿で喪に服している父ルカスから、上機嫌に迎えられたことに眉を顰めていた。


「わっはっはっはっはっ! どうだ、父は強かろう? バシリオス兄上といえども一捻りであったわ」

「……戦勝……おめでとう…………ございます」


 ペトラは、かろうじて礼容をとった。

 神聖であるべき大神殿の尖塔で、娼婦とおぼしき女たちを侍らせ、酒宴を張っている。見たところ、大神殿に入って以来、ずっとそのように過ごしていた気配が漂う。


「うむうむ。やっと、お前たちに父の強いところを見せられたな」


 そう無邪気に笑う父に――、呆れた。


「……お、王国は……いまだ、混乱しております」

「うむ! それよ!」

「お考えがおありなのですね?」

「心配するな! 父に叛くような者がおれば、たちどころに討ち果たしてみせよう。そうだ。次はペトラとファイナも戦陣に連れて行ってやろう。豪壮な父の姿をその目に焼き付けてくれい」


 それでしたら私もお連れ下さいませと、女たちが媚びた嬌声を上げると、おうおうと笑顔で応えるルカスに、ペトラはそれ以上、なにかを話す気が失せた。

 隣を見れば、ファイナは自分以上に険しく軽蔑の眼差しを向けている。

 総候参朝前、父ルカスに、側妃サフィナの脅威を必死に訴えていたことが虚しくなった。まともに取り合ってもらえず、結局、ファウロスから王都追放の憂き目に遭い、叔父である王太子バシリオスの謀叛を招いた。


「……それでは、父上もお楽しみのご様子……。私たちは、これにて……」

「おお、そうだ。サミュエル公には、もう会ったか?」

「リーヤボルクの……」

「そうだそうだ。儂に大軍を預けてくれた御仁よ」


 ルカスの理解では、リーヤボルク兵は自身の指揮下にあった。

 だが、ペトラとファイナの目に映るルカスは、リーヤボルク兵によって、ていよく軟禁されている。ここに来るまでも、多数の兵士から下卑た視線を浴びせかけられた。


「いや。たいしたお方よ」

「……そうでございますか」

「ペトラ。お前を正妃に迎えたいと言うてくれておるそうだ」

「はあ!?」

「内々にマエルから打診があったのだが、もちろん喜んで応じると答えておいたぞ。リーヤボルク王家に連なるお方であれば、我が婿にも相応しい。戦場では馬を並べたが、なかなかの将帥ぶりであった。なにより、行き遅れておったペトラを貰ってくれるというのだからな。願ってもない話よ」


 ははっ、と、ペトラは力なく笑った。


「ファイナの輿入れ先も世話してくれると言うておった。これで、儂も安心できるわ。はっはっはっはっ」


 と、心地よさそうに笑うルカスを背に、ペトラとファイナは大神殿を後にした。

 憤りを隠せないファイナとは対照的に、姉のペトラの表情は、聖山王スタヴロスに連なる王家の誇りと責任で引き締まっていた。


 ――我が身を挺して、王国を守るほかない。


 ペトラ姉内親王もまた、孤独な戦いを始めようとしていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...