【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

103.遭遇戦(4)

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 白狼タロウに跨るリティアと、黒狼ジロウに跨るアイカを先頭に、腹背を突かれた形のミトクリア兵は算を乱した。


「タロウを借りたばかりに、アイカにも先頭を切らせてしまったな」


 と、リティアは目を細めた。その視線の先では、ネビの隊に押されたミトクリア兵が、逃げ腰で応戦している。

 へへっ、と、反応に困ったときの笑いを返したアイカも、数人の太ももを射抜いた。


「父上も兄上たちも、ここぞというときは先頭に立って突撃したのだそうだ」

「へえ……」

「指揮官として褒められたものではないが、血の気の多い我が家の伝統だな」


 その一員に加わった高揚を隠さないリティアを見詰めながら、アイカはファウロスやバシリオス、ステファノス、ルカスなどの姿を思い起こしていた。

 あの格闘家のような体躯をした男子が突撃する様は、容易に想像できたし、さぞ勇壮であった事だろうとアイカは軽く頷いた。そして、語り聞かされて育ったリティアが、そのような父や兄に憧れていたことも理解できる。

 しかし、アイカ自身が、戦場――命の獲り合いの場に慣れたという訳ではない。

 リティアがいなければ、そっと身を隠してしまいたい。


「第3王女がいるぞ!」


 ミトクリア兵の隊長らしき者の怒鳴り声に、アイカはサッと顔色を変えた。

 しかし、リティアは悠然と悪戯っぽい笑みを浮かべて応えた。


「ここだー! 第3王女リティアは、ここにいるぞー!」

「い、生け捕れー!」

「ははっ。なかなか骨があるではないか」


 という、リティアの賛辞を隊長が聞くことはなかった。チーナの矢が眉間を射抜き、どうと馬から落ちたのだ。

 しかし、その声を合図に増援が押し寄せたミトクリア兵は、体勢を立て直し始める。木々の合間から見える前線が膠着してきたのが、アイカにも見て取れた。

 ジリコがリティアに馬を寄せた。


「殿下。そろそろ頃合いかと」

「うむ。母上を頼んだぞ」

「しかと」

「ミトクリアで会おう」


 リティアの紋章をあしらった幟を掲げたジリコの一団が、左方向に突撃すると、ミトクリアの兵全体がそちらに流れた。


「第3王女を捕えろ!」

「王女一人捕えれば、我らの勝ちだ!」

「攻撃は受け流せ!」

「王女を追うのだ!」


 ミトクリア兵の怒号を追撃するかのように、右方向に兵を向けたリティアは、そのまま戦線を離脱した。


「アイカ、走るぞ」

「はいっ!」


 リティア率いる90名の軍勢は、深い森の中を全速力で駆け始める。


「しかし、タロウは賢いな。なにも言わずとも私の行きたい方に駆けてくれる」

「ジ……ジロウも賢いです……」

「ははっ。その通りだ。陛下より賜った、最後の贈り物だな」


 少し寂しげに笑ったリティアの視界が開けた。

 森を抜け、日没間近の荒れ地を駆ける。

 微笑みを絶やさないリティアの横を駆けるアイカは、一団の右手から追ってくる騎馬を見付けた。


「殿下! カリュさんです!」

「お。この位置で合流してくるとは、さすがカリュだな」


 別行動していたカリュが、的確に合流してくることは、間諜としての優れた情報収集能力を示している。


 ――サヴィアス兄に渡さなくて良かった。


 と、リティアの片眉が皮肉めいた笑みを描くと同時に、カリュの声が響いた。


「リティア殿下侍女、カリュ。復命いたします!」

「許す!」


 カリュの駆る騎馬が、リティアの側を並走する。


「西方に『リティア殿下は旧都に向かった』と、流言を撒きました」

「うむ。ご苦労」

「ミトクリアの兵が動いたとの情報を得て、急ぎ復命した次第」

「さすが、耳が速いな」

「遭遇前に復命できず、申し訳ございません」

「気にするな。我らはこれよりミトクリア本領を討つが、なにかあるか?」

「はっ。隊商より得た情報では、ミトクリア候本人は出陣せず、公宮に籠っている模様です」

「そうか。それでは、ご挨拶せねばなるまいな」

「はっ」 

「喜んでもらえるかな?」

「それはもう」


 と、笑ったカリュは、実質的に初陣でありながら、狼の背に跨り、騎士たちを悠然と率いる新しい主に心を奪われていた。


 ――これは、退屈しなさそうね。


 カリュが主と同じ方向に目を向けると、ちょうど日が落ち切った。

 暗闇の中を、リティアたちの一団が駆けて行く。
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