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第四章 王都騒乱
96.王都脱出!(3)
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脱出ルートの検討は、カリュを中心に、貧民街育ちのクレイアと、道案内の神の守護があるタロウとジロウを率いるアイカの3人で行われた。
戒厳令同然の警戒態勢をとるヴィアナ騎士団の目を欺き、リティアの母、側妃エメーウの住まう北離宮まで逃れる。北離宮まで行き着けば、隣接する第六騎士団詰所で本隊と合流して、力押しに王都を脱出することが出来る。
が、ヴィアナ騎士団の目を欺くのは容易ではない。
「前宮を通ったら……」
と言ったのは、アイカであった。
王宮は中庭を囲むように、奥の本宮、右側の北宮、リティア宮殿のある南宮、そして地下水路から水を汲み上げる機関室の役割を果たす前宮からなっている。
自分が暮らすことになる異世界の技術レベルを目にしておきたかったアイカは、クレイアに前宮を案内してもらったことがあった。大きな歯車がギシギシと回る薄暗い前宮は、絢爛豪華な王宮に不釣り合いな、まさに機関室であった。普段は技師のほかに立ち入る者はなく、王族や騎士など身分ある者が通ることなどない。
前宮を使って逃がすという発想は、優れた間諜であるカリュにとっても盲点で、即座にそのアイデアを採用した。
「足下に気を付けて」
と、踊り巫女の装束に着替えたリティアが、小走りに駆ける後を、ペトラとファイナ、それに侍女と衛騎士たちが続く。
薄暗い前宮で、技師たちに会わずに通用口に出られるルートは、先頭を走るカリュが調べ上げている。
踊り巫女たちを見送った後、リティアたちは応接室に戻るふりをして、ゆったりと前宮に入った。
準備していた踊り巫女の装束に急いで着替える。
雑然とした機関室の一角で、一度、全裸同然にならないといけないことに、ペトラ姉内親王とファイナ妹内親王は躊躇したが、アイシェとゼルフィアに促されて意を決した。
「両内親王殿下が残れば、ルカス兄上の戦いの妨げともなりましょう」
というリティアの言葉だけが、ペトラとファイナの背を押している。
父ルカスが、なぜリーヤボルクの兵を引き入れたのか、いまだ計りかねている。が、既に事は起きており、バシリオスに人質として立てられる恐れがないわけではない。
いずれ父を問い詰めるつもりではいるが、今はリティアに従って王都を落ちるほかにない。
――にしても。
と、ファイナは頬を赤らめる。
面積の小さな布で覆っただけの胸元は、冷たい風が通り抜けてスースーする。
気品ある顔立ちに似合わず気丈なところのある姉ペトラと比べれば、躊躇いの気持ちが残っている。頭では、この選択しかないのだと分かっている。が、なんとも、はしたないことをしているような気持ちは拭えない。
薄暗い夜の前宮でなければ、腕で胸を覆ってしゃがみこんでしまいそうな、気恥ずかしさを押し殺して駆けている。
一行は、8階のリティア宮殿から、通用口のある1階まで、技師に出会わないように気を付けながら駆け降りて行く。
弟エディンが遺したキャンバスを、すっぽりと収めていたカリュの立派な膨らみが、上下にたゆんたゆん揺れているのを、リティアはニマニマと見詰めながら進んでる。後ろに見えている結び目を、引っ張ってほどきたい悪戯心を抑えて駆ける。
やがて、通用口に達した一行は、息を潜めて外からの合図を待つ。
ピンと張り詰めた空気が漂う静寂。
――帰って来るときは、正門から堂々と帰ってやろうぞ。
リティアは、暗闇の中で眉根に力を込めた。
戒厳令同然の警戒態勢をとるヴィアナ騎士団の目を欺き、リティアの母、側妃エメーウの住まう北離宮まで逃れる。北離宮まで行き着けば、隣接する第六騎士団詰所で本隊と合流して、力押しに王都を脱出することが出来る。
が、ヴィアナ騎士団の目を欺くのは容易ではない。
「前宮を通ったら……」
と言ったのは、アイカであった。
王宮は中庭を囲むように、奥の本宮、右側の北宮、リティア宮殿のある南宮、そして地下水路から水を汲み上げる機関室の役割を果たす前宮からなっている。
自分が暮らすことになる異世界の技術レベルを目にしておきたかったアイカは、クレイアに前宮を案内してもらったことがあった。大きな歯車がギシギシと回る薄暗い前宮は、絢爛豪華な王宮に不釣り合いな、まさに機関室であった。普段は技師のほかに立ち入る者はなく、王族や騎士など身分ある者が通ることなどない。
前宮を使って逃がすという発想は、優れた間諜であるカリュにとっても盲点で、即座にそのアイデアを採用した。
「足下に気を付けて」
と、踊り巫女の装束に着替えたリティアが、小走りに駆ける後を、ペトラとファイナ、それに侍女と衛騎士たちが続く。
薄暗い前宮で、技師たちに会わずに通用口に出られるルートは、先頭を走るカリュが調べ上げている。
踊り巫女たちを見送った後、リティアたちは応接室に戻るふりをして、ゆったりと前宮に入った。
準備していた踊り巫女の装束に急いで着替える。
雑然とした機関室の一角で、一度、全裸同然にならないといけないことに、ペトラ姉内親王とファイナ妹内親王は躊躇したが、アイシェとゼルフィアに促されて意を決した。
「両内親王殿下が残れば、ルカス兄上の戦いの妨げともなりましょう」
というリティアの言葉だけが、ペトラとファイナの背を押している。
父ルカスが、なぜリーヤボルクの兵を引き入れたのか、いまだ計りかねている。が、既に事は起きており、バシリオスに人質として立てられる恐れがないわけではない。
いずれ父を問い詰めるつもりではいるが、今はリティアに従って王都を落ちるほかにない。
――にしても。
と、ファイナは頬を赤らめる。
面積の小さな布で覆っただけの胸元は、冷たい風が通り抜けてスースーする。
気品ある顔立ちに似合わず気丈なところのある姉ペトラと比べれば、躊躇いの気持ちが残っている。頭では、この選択しかないのだと分かっている。が、なんとも、はしたないことをしているような気持ちは拭えない。
薄暗い夜の前宮でなければ、腕で胸を覆ってしゃがみこんでしまいそうな、気恥ずかしさを押し殺して駆けている。
一行は、8階のリティア宮殿から、通用口のある1階まで、技師に出会わないように気を付けながら駆け降りて行く。
弟エディンが遺したキャンバスを、すっぽりと収めていたカリュの立派な膨らみが、上下にたゆんたゆん揺れているのを、リティアはニマニマと見詰めながら進んでる。後ろに見えている結び目を、引っ張ってほどきたい悪戯心を抑えて駆ける。
やがて、通用口に達した一行は、息を潜めて外からの合図を待つ。
ピンと張り詰めた空気が漂う静寂。
――帰って来るときは、正門から堂々と帰ってやろうぞ。
リティアは、暗闇の中で眉根に力を込めた。
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