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第四章 王都騒乱
95.王都脱出!(2)
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――わ、私ですか……?
アイカは、祖霊を降ろしたニーナに指差されて、戸惑った。
つい先ほどまで、再び目にすることが出来た、踊り巫女たちの官能的なダンスに目を奪われ、ポオッと見惚れていただけであったのに、突然の指名に息を呑んだ。
トランス状態のニーナの声は、低く重い。
『将来、我が子ら、草原の民を救う者である』
アイカは後ろを振り返ったが誰もいない。
ニーナの美しく伸びた指は、明らかに自分を指している。
ニーナをトランス状態に導くために両脇で踊っていたラウラとイエヴァが、荒い息のままアイカを見詰めた。
『そなたらは、この者を救けよ』
と言ったニーナが、膝から崩れ落ちた。
ラウラとイエヴァが駆け寄り、介抱する。
「決まりだな」
と言ったイエヴァに、意識を取り戻したニーナも頷いた。
日の高いうちに踊り巫女の装束がリティア宮殿に届けられた。その晩、祖霊の託宣を伝え聞いた多数の踊り巫女たちが、ニーナと共に、王都を離れる挨拶に訪れた。
宮殿入口のホールに立つヴィアナ騎士団の見張りの騎士たちに、愛嬌を振りまきながら薄絹をまとった踊り巫女たちが次々に訪れる。
「リティア殿下には『無頼の束ね』として、私たちを保護していただきましたから」
「仲間の許可証を盗んだ悪漢も捕えていただきました」
多くの来訪に驚いた見張りの騎士に、踊り巫女たちは口々に答えた。
来訪の意図を尋ねながらも、胸元や細い腰に目線を泳がせる騎士に、踊り巫女たちもにこやかに振る舞って見せる。
やがて、応接室からは皆が披露する踊りへの歓声が響き始めた。
その頃、奥殿では、ようやくすべての工作を終えたカリュが、踊り巫女の装束を試着して、アイカを唸らせていた。
――で、でけぇ。
踊り巫女たちの“急な来訪”をもてなすために、侍女や女官たちが料理や酒を運んで、宮殿内を慌ただしく行き来している。
アイカとカリュが席を外していても、入口ホールより内に入らない見張りの騎士が、不審に思うことはなかった。
「変ではないかな……?」
「変ではないですね」
大きすぎる乳房に対して覆い切れない布地はマイクロビキニのようであったが、アイカは親指を立てて見せた。
リティア宮殿からは、数人が姿を消している。
間諜であった。
「殿下が斬りたくないようでしたら、分かっているぞと、それとなく知らせれば、勝手に出て行きます」
というカリュの助言で、穏便に退出させた。
自分が思うよりも多くの間諜が紛れていたことに、リティアは苦笑いしたが、魑魅魍魎の跋扈する王宮の実相に触れ、改めて気を引き締められた。
宴もたけなわというところで、西街区で大きな騒ぎが起きていると報せが入った。
「『無頼の束ね』のお役目である」
として、見張りの騎士を押し切って、ジリコたちの一団が宮殿から出動した。
初老の旗衛騎士ジリコが率いる一団は、すべて男性で、リティアやペトラたちの動向を見張る騎士も、押し止めることができなかった。
にわかに『束ね』としての政務の慌ただしさに包まれたリティア宮殿に憚って、踊り巫女たちがその場を辞する。
「また、来年会うことを楽しみにしているぞ」
入口ホールまで見送りに出たリティアは、微笑みを浮かべて踊り巫女たちに別れを告げた。
「なにやら騒ぎが起きているらしい。“陛下の狼”たちを護衛に付けよう。アイカ。見事な舞いを披露してくれた踊り巫女たちを、宿までお送りせよ」
と、リティアから命じられたアイカも、タロウとジロウを伴ってリティア宮殿を出た。
アイカの胸がドキドキと高鳴るのは、美しい踊り巫女たちに囲まれているからだけではない。この後の段取りを、心の中で何度も確認していた。
そして、いつ戻れるか分からないリティア宮殿をもう一度、目に焼き付けておこうと、振り返った。
――さようなら。私の楽園……。
アイカは、祖霊を降ろしたニーナに指差されて、戸惑った。
つい先ほどまで、再び目にすることが出来た、踊り巫女たちの官能的なダンスに目を奪われ、ポオッと見惚れていただけであったのに、突然の指名に息を呑んだ。
トランス状態のニーナの声は、低く重い。
『将来、我が子ら、草原の民を救う者である』
アイカは後ろを振り返ったが誰もいない。
ニーナの美しく伸びた指は、明らかに自分を指している。
ニーナをトランス状態に導くために両脇で踊っていたラウラとイエヴァが、荒い息のままアイカを見詰めた。
『そなたらは、この者を救けよ』
と言ったニーナが、膝から崩れ落ちた。
ラウラとイエヴァが駆け寄り、介抱する。
「決まりだな」
と言ったイエヴァに、意識を取り戻したニーナも頷いた。
日の高いうちに踊り巫女の装束がリティア宮殿に届けられた。その晩、祖霊の託宣を伝え聞いた多数の踊り巫女たちが、ニーナと共に、王都を離れる挨拶に訪れた。
宮殿入口のホールに立つヴィアナ騎士団の見張りの騎士たちに、愛嬌を振りまきながら薄絹をまとった踊り巫女たちが次々に訪れる。
「リティア殿下には『無頼の束ね』として、私たちを保護していただきましたから」
「仲間の許可証を盗んだ悪漢も捕えていただきました」
多くの来訪に驚いた見張りの騎士に、踊り巫女たちは口々に答えた。
来訪の意図を尋ねながらも、胸元や細い腰に目線を泳がせる騎士に、踊り巫女たちもにこやかに振る舞って見せる。
やがて、応接室からは皆が披露する踊りへの歓声が響き始めた。
その頃、奥殿では、ようやくすべての工作を終えたカリュが、踊り巫女の装束を試着して、アイカを唸らせていた。
――で、でけぇ。
踊り巫女たちの“急な来訪”をもてなすために、侍女や女官たちが料理や酒を運んで、宮殿内を慌ただしく行き来している。
アイカとカリュが席を外していても、入口ホールより内に入らない見張りの騎士が、不審に思うことはなかった。
「変ではないかな……?」
「変ではないですね」
大きすぎる乳房に対して覆い切れない布地はマイクロビキニのようであったが、アイカは親指を立てて見せた。
リティア宮殿からは、数人が姿を消している。
間諜であった。
「殿下が斬りたくないようでしたら、分かっているぞと、それとなく知らせれば、勝手に出て行きます」
というカリュの助言で、穏便に退出させた。
自分が思うよりも多くの間諜が紛れていたことに、リティアは苦笑いしたが、魑魅魍魎の跋扈する王宮の実相に触れ、改めて気を引き締められた。
宴もたけなわというところで、西街区で大きな騒ぎが起きていると報せが入った。
「『無頼の束ね』のお役目である」
として、見張りの騎士を押し切って、ジリコたちの一団が宮殿から出動した。
初老の旗衛騎士ジリコが率いる一団は、すべて男性で、リティアやペトラたちの動向を見張る騎士も、押し止めることができなかった。
にわかに『束ね』としての政務の慌ただしさに包まれたリティア宮殿に憚って、踊り巫女たちがその場を辞する。
「また、来年会うことを楽しみにしているぞ」
入口ホールまで見送りに出たリティアは、微笑みを浮かべて踊り巫女たちに別れを告げた。
「なにやら騒ぎが起きているらしい。“陛下の狼”たちを護衛に付けよう。アイカ。見事な舞いを披露してくれた踊り巫女たちを、宿までお送りせよ」
と、リティアから命じられたアイカも、タロウとジロウを伴ってリティア宮殿を出た。
アイカの胸がドキドキと高鳴るのは、美しい踊り巫女たちに囲まれているからだけではない。この後の段取りを、心の中で何度も確認していた。
そして、いつ戻れるか分からないリティア宮殿をもう一度、目に焼き付けておこうと、振り返った。
――さようなら。私の楽園……。
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