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第四章 王都騒乱
93.隊商の見立て(2)
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「最後に勝利された方です」
メルヴェは事もなげに応えた。
「敗者は王にはなれませぬ」
リティアは、はっと短い笑いを漏らした。
「それはそうだな」
「はい」
「だが、私は“誰が勝つのか?”と問うたのだ」
「私の見立てでは……」
「うむ」
「リティア殿下です」
「はあ?」
「おかしいですか?」
「私が率いる兵は、わずか1,000だぞ? それで、誰にどうやって勝つと言うんだ?」
「兵なら、私どもがいくらでもご用立ていたしましょう」
「すごいことを言うな」
「ヴィアナ騎士団も一枚岩ではありません」
「ふむ」
全軍でもって王を討ったヴィアナ騎士団の中にも軋轢が生じていることは、カリュの報告でリティアも掴んでいた。
「問題は、殿下ご自身が勝ちたいのかどうか……」
メルヴェは、優しげな微笑みだが射抜くような眼光を発した。
「私は、女だ」
「テノリア王国には、女王オリガ様の先例もございます」
「私に即位せよと?」
「それを選ぶことも出来ます」
「随分なことを唆して、私の心を乱すではないか?」
「殿下には無限の未来が広がっております。王太子様が反旗を翻された晩、王都に踏み止まられたことが、殿下の選択肢を広げました。即座に王都を逃れた王弟殿下とサヴィアス殿下は、武を尊ぶ王都の民に見下されております」
「亀のように自分の宮殿に籠っておっただけだがな」
父王を救うことが出来なかったという思いが、瞬時に駆け抜け、リティアの心に穴を開ける。
「……バシリオス兄上は、ルカス兄上とリーヤボルクの兵に勝てるだろうか?」
バシリオスの敗北は、王都がリーヤボルクの兵に蹂躙されることを意味する。
今、王都を落ちることは、自分を評価してくれているという王都の民を見捨てて行くことになる。
「五分五分かと」
「敵は3倍以上だぞ?」
「ヴィアナ騎士団が本来の力を発揮できれば、負けることはない。それが、我らの見立てにございます」
それは、リティアも同意見であった。
「ただ、リーヤボルクの狙いはテノリア王国を滅ぼすことではないでしょう」
「と言うと?」
「ルカス殿下のザイチェミア騎士団も、侵入してきたリーヤボルク兵8万5千に比べれば、僅かに1万。わざわざ旗印に掲げたということは、狙いはテノリア王国の乗っ取り。ひいては、交易のもたらすテノリアの“富”でございましょう」
「乗っ取りか……」
「交易に障りがなければ、我ら隊商が王都を去ることもございません。申し訳ないことですが、我ら隊商が王都に集うのは、王家に忠誠を誓うからではございません故」
「リーヤボルクが交易を潰すことはあり得ぬか」
「左様でございます。多少はマエルら西域の隊商に有利な取引を強いられるかもしれませんが、やり過ぎれば、交易自体が【海の道】に流れるだけです」
「なるほどな」
「ヴィアナ騎士団がリーヤボルクを退ければ、それはそれで良し。王太子殿下の父殺しの罪を問えばよろしいかと。また、リーヤボルクの兵が王都に入ったとしても、王都の民を虐げるようなことはありますまい。一時の間、王都を貸し出しておけばよろしいのです」
「貸し出す、か……」
「ええ。取り返すときは、たっぷりと利子を取り立てなされませ」
メルヴェは事もなげに応えた。
「敗者は王にはなれませぬ」
リティアは、はっと短い笑いを漏らした。
「それはそうだな」
「はい」
「だが、私は“誰が勝つのか?”と問うたのだ」
「私の見立てでは……」
「うむ」
「リティア殿下です」
「はあ?」
「おかしいですか?」
「私が率いる兵は、わずか1,000だぞ? それで、誰にどうやって勝つと言うんだ?」
「兵なら、私どもがいくらでもご用立ていたしましょう」
「すごいことを言うな」
「ヴィアナ騎士団も一枚岩ではありません」
「ふむ」
全軍でもって王を討ったヴィアナ騎士団の中にも軋轢が生じていることは、カリュの報告でリティアも掴んでいた。
「問題は、殿下ご自身が勝ちたいのかどうか……」
メルヴェは、優しげな微笑みだが射抜くような眼光を発した。
「私は、女だ」
「テノリア王国には、女王オリガ様の先例もございます」
「私に即位せよと?」
「それを選ぶことも出来ます」
「随分なことを唆して、私の心を乱すではないか?」
「殿下には無限の未来が広がっております。王太子様が反旗を翻された晩、王都に踏み止まられたことが、殿下の選択肢を広げました。即座に王都を逃れた王弟殿下とサヴィアス殿下は、武を尊ぶ王都の民に見下されております」
「亀のように自分の宮殿に籠っておっただけだがな」
父王を救うことが出来なかったという思いが、瞬時に駆け抜け、リティアの心に穴を開ける。
「……バシリオス兄上は、ルカス兄上とリーヤボルクの兵に勝てるだろうか?」
バシリオスの敗北は、王都がリーヤボルクの兵に蹂躙されることを意味する。
今、王都を落ちることは、自分を評価してくれているという王都の民を見捨てて行くことになる。
「五分五分かと」
「敵は3倍以上だぞ?」
「ヴィアナ騎士団が本来の力を発揮できれば、負けることはない。それが、我らの見立てにございます」
それは、リティアも同意見であった。
「ただ、リーヤボルクの狙いはテノリア王国を滅ぼすことではないでしょう」
「と言うと?」
「ルカス殿下のザイチェミア騎士団も、侵入してきたリーヤボルク兵8万5千に比べれば、僅かに1万。わざわざ旗印に掲げたということは、狙いはテノリア王国の乗っ取り。ひいては、交易のもたらすテノリアの“富”でございましょう」
「乗っ取りか……」
「交易に障りがなければ、我ら隊商が王都を去ることもございません。申し訳ないことですが、我ら隊商が王都に集うのは、王家に忠誠を誓うからではございません故」
「リーヤボルクが交易を潰すことはあり得ぬか」
「左様でございます。多少はマエルら西域の隊商に有利な取引を強いられるかもしれませんが、やり過ぎれば、交易自体が【海の道】に流れるだけです」
「なるほどな」
「ヴィアナ騎士団がリーヤボルクを退ければ、それはそれで良し。王太子殿下の父殺しの罪を問えばよろしいかと。また、リーヤボルクの兵が王都に入ったとしても、王都の民を虐げるようなことはありますまい。一時の間、王都を貸し出しておけばよろしいのです」
「貸し出す、か……」
「ええ。取り返すときは、たっぷりと利子を取り立てなされませ」
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