【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第四章 王都騒乱

91.公女の葛藤(2)

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 西南伯ヴール候ベスニクに随伴して帰路に就いてたエズレア候は、ロマナに話を続けた。


「卒爾ながら、兄君のサルヴァ様はご病身、弟君のセリム様はご幼少。いずれ西南伯幕下の列候がまとまらねばならぬ時が来ましたら、ロマナ様抜きでは考えられませぬ」


 ロマナが「小父おじ様」と呼ぶこの中年の列候は、西南伯領統治においてはベスニクの側近と言ってもよい。

 幼少のころからよく知るエズレア候であったが、兄や弟を差し置いた物言いを、ロマナは素直に受け入れることが出来ない。

 目上の列候ではあったが、出過ぎた物言いは充分に不快であった。


「どうか、ご自重くださいませ」


 と、言うエズレア候に、ウラニアが応えた。


「エズレア候。申しにくいことを、よう申してくれた」

「失礼なことを申し上げました。どうか、お許しください」


 ロマナは悲痛な表情をつくり、顔を背けた。

 傍目には病身の兄を想うように見えたが、口さがないエズレア候の相手をすることが厭わしかった。

 そもそも、自分や兄の前に、父レオノラがいる。自分にお追従を言っているようで、多方面に礼を欠いている。浅薄な物言いに、心乱される自分も腹立たしい。

 場に、寒々しい空気が流れた。

 と、部屋の入り口に控える、眼帯をした水色髪の少女が口を開いた。アイカが心の中で「眼帯美少女」と呼んでいた、弓の名手、チーナであった。


「恐れながら……」

「なんだ?」


 と、応えたのはベスニクであった。


「ロマナ様に代わり、私を王都ヴィアナに行かせて下さいませ」

「ふむ……」

「兵が一人行ったところで、リティア殿下のお立場にも、西南伯閣下のお立場にも、微塵も影響はないでしょう。ですが、ロマナ様に代わって、必ずやリティア殿下をお守りいたします」

「チーナ……」


 と、ロマナは、チーナを見詰めた。


「どうか、お許しを」

「お祖父様……」


 チーナの申し出に、ロマナも一緒になってベスニクを見やったが、応えたのはウラニアであった。


「チーナ。貴女は優しい娘ね」

「もったいないお言葉……」

「その優しさに免じて、休暇を申し付けます」

「はっ」


 と、ウラニアの言葉に応えるチーナに、ロマナは政略の機微を感じ取った。

 チーナをリティアの下に行かせるにしても、西南伯ベスニクの命ではなく、ウラニアの配慮という形をとったことが瞬時に察せられた。

 ウラニアは微笑みを浮かべて立ち上がり、窓辺に立った。


「よい機会ですから、諸国を漫遊して知見を広めなさい。そして、ヴールに戻った暁にはロマナを支えてちょうだいね」


 ロマナはチーナの側に駆け寄り、その手を固く握った。

 そして、エズレア候には聞き取れないよう、小さな声でチーナに語りかけた。


「チーナ、すまん。リティアを頼んだ」

「しかと」


 ロマナの手を強く握り返し、チーナは頭を下げた。

 即座に立ち去ったチーナの背中を、ロマナは見えなくなるまで見送り、振り返ったときには為政者の顔付きをしていた――。
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