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第四章 王都騒乱
84.更なる激震
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バシリオスの決起から6日が過ぎ、更なる激震が王国を襲った。
――第3王子ルカス、王太子討伐の兵を挙げる。
その報せは、情勢を見極めたい王族列候たちに激しい衝撃を与えた。
バシリオスは、まだ正式な即位も出来ていない。リティアが、即位への賛同をのらりくらりと躱しているためであった。
しかし、激震はそれで収まらなかった。
「正気か!?」
続報を受け取ったリティアは、思わず声を上げた。
――リーヤボルク王国軍8万5千、ルカスに加勢。
ルカスが、王国の西端ブローサに集結させつつあるザイチェミア騎士団1万に、西に国境を接するリーヤボルクの軍勢と合わせれば、おおかた10万の大軍になる。
テノリア王国総ての騎士団を合わせた総兵力を上回る。
「血迷ったか。ルカス兄上」
既にルカスの軍勢は王都ヴィアナに向けて進軍を開始している。大軍勢だけに速度は出ないにしても、遅くとも20日もすれば、王都は大軍に囲まれる。
否。城壁を持たない王都では、いきなり市街戦が展開されるだろう。
――リーヤボルクの兵を引き入れるとは。これでは誰も動くまい。
王都を脱出した王弟カリストスは、サーバヌ騎士団の兵を糾合しつつ、亡くなった妃の故地ラヴナラに入った。王都の南に位置するラヴナラは、『聖山戦争』での攻略に6年を要した要衝である。
ラヴナラ侯は、血縁がある親王達を含む王弟一家の亡命を歓迎した。
バシリオスの娘、アリダ内親王も同行している。
第4王子サヴィアスはアルティニア騎士団の兵を集結させ、ラヴナラの更に南西、母サフィナの故地アルナヴィスを目指しているという。
アルナヴィスの西、ヴールの西南伯は静観の構えで、王太子妃エカテリニは西南伯幕下にある故地チュケシエで息を潜めている。
旧都テノリクアとの通行はヴィアナ騎士団によって絶たれ、第2王子ステファノス、王妃アナスタシア、王太后カタリナの動向は伝わって来ない。
ルカスが一人で起つなら、ファウロスの仇打ちとして、あるいは味方する者もあったかもしれない。
しかし、リーヤボルクの加勢を受けるとなると話は異なる。
他国の蹂躙を招きかねない、ルカスの軍勢に付くことは躊躇われる。かと言って謀叛を起こしたバシリオスに付くこともどうか。
――王族列侯の全てが金縛りに合ったようになるはずだ。
と、リティアは見通した。
西域の大隊商マエルの顔が、リティアの脳裏によぎる。
リティアは侍女を全員呼び、王都脱出の準備を密かに始めるよう命じた。いずれにしても、第六騎士団の兵力は僅か1,000名。一度退いて、機を伺うより他にないと見定めた。
呼ばれた侍女の中には、アイカとカリュも含まれている。
ヴィアナ騎士団3万が堅める王都からの脱出は容易くはない。幼いとはいえ、ガラたち孤児の館を開く際に見せたアイカの機知にも期待したい。それに、狼たちに『道案内の神』が守護聖霊にあると審神けられたことも大きい。
聡明なリティアにも、この動乱がどこに行き着くのか、先のことを見通すのは困難だった――。
――第3王子ルカス、王太子討伐の兵を挙げる。
その報せは、情勢を見極めたい王族列候たちに激しい衝撃を与えた。
バシリオスは、まだ正式な即位も出来ていない。リティアが、即位への賛同をのらりくらりと躱しているためであった。
しかし、激震はそれで収まらなかった。
「正気か!?」
続報を受け取ったリティアは、思わず声を上げた。
――リーヤボルク王国軍8万5千、ルカスに加勢。
ルカスが、王国の西端ブローサに集結させつつあるザイチェミア騎士団1万に、西に国境を接するリーヤボルクの軍勢と合わせれば、おおかた10万の大軍になる。
テノリア王国総ての騎士団を合わせた総兵力を上回る。
「血迷ったか。ルカス兄上」
既にルカスの軍勢は王都ヴィアナに向けて進軍を開始している。大軍勢だけに速度は出ないにしても、遅くとも20日もすれば、王都は大軍に囲まれる。
否。城壁を持たない王都では、いきなり市街戦が展開されるだろう。
――リーヤボルクの兵を引き入れるとは。これでは誰も動くまい。
王都を脱出した王弟カリストスは、サーバヌ騎士団の兵を糾合しつつ、亡くなった妃の故地ラヴナラに入った。王都の南に位置するラヴナラは、『聖山戦争』での攻略に6年を要した要衝である。
ラヴナラ侯は、血縁がある親王達を含む王弟一家の亡命を歓迎した。
バシリオスの娘、アリダ内親王も同行している。
第4王子サヴィアスはアルティニア騎士団の兵を集結させ、ラヴナラの更に南西、母サフィナの故地アルナヴィスを目指しているという。
アルナヴィスの西、ヴールの西南伯は静観の構えで、王太子妃エカテリニは西南伯幕下にある故地チュケシエで息を潜めている。
旧都テノリクアとの通行はヴィアナ騎士団によって絶たれ、第2王子ステファノス、王妃アナスタシア、王太后カタリナの動向は伝わって来ない。
ルカスが一人で起つなら、ファウロスの仇打ちとして、あるいは味方する者もあったかもしれない。
しかし、リーヤボルクの加勢を受けるとなると話は異なる。
他国の蹂躙を招きかねない、ルカスの軍勢に付くことは躊躇われる。かと言って謀叛を起こしたバシリオスに付くこともどうか。
――王族列侯の全てが金縛りに合ったようになるはずだ。
と、リティアは見通した。
西域の大隊商マエルの顔が、リティアの脳裏によぎる。
リティアは侍女を全員呼び、王都脱出の準備を密かに始めるよう命じた。いずれにしても、第六騎士団の兵力は僅か1,000名。一度退いて、機を伺うより他にないと見定めた。
呼ばれた侍女の中には、アイカとカリュも含まれている。
ヴィアナ騎士団3万が堅める王都からの脱出は容易くはない。幼いとはいえ、ガラたち孤児の館を開く際に見せたアイカの機知にも期待したい。それに、狼たちに『道案内の神』が守護聖霊にあると審神けられたことも大きい。
聡明なリティアにも、この動乱がどこに行き着くのか、先のことを見通すのは困難だった――。
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