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第四章 王都騒乱
82.侍女長
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朝日が完全に姿を見せる頃。ヴィアナ騎士団の歩兵が続々と王都に到着し始めた。
そのまま街の警戒にあたり、王都は戒厳令が敷かれたと同様の緊張感に包まれていく。
――手際がいいな。
執務室の窓から王都を見下ろすリティアの読みでは、最初の歩兵が王都に到着するのに、もう1日は要するはずだった。
女官長のシルヴァが淹れる紅茶の薫りが部屋に漂う。
事実上の軟禁下に置かれたリティア宮殿だが、夜明けと共にヴィアナ騎士団と交渉し、希望する女官や従者、文官、技師たちは退出させた。
シルヴァは「私は」と、言っただけで宮殿に残った。
リティアもそれ以上、シルヴァに何か言うことはなかった。ただ、少なくない者から寄せられる忠誠に、深く感謝し、王族としての責務に思いを馳せた。
まもなく、王太子バシリオスの布告が届けられた。
曰く――、
『毒婦サフィナによる王位簒奪の企みが明らかとなり、これを討った。王は不明を恥じ、王位を私に託され、制止も間に合わずご自害なされた。痛恨の極みである。『聖山の民』は先王の喪に服し、新王の次の指示を待て』
――父は、死んだか。
リティアは、布告の書かれた羊皮紙を机に置いた。
父は自害などしない。誇り高い戦士として闘い、死んだ。リティアはそう思い、窓の外を見上げた。
今朝も空は、秋晴れに晴れ渡っている。
小賢しい人間の営みなど、聖山の大地には何の影響も与えないと言わんばかりの快晴に、リティアは眉を寄せて目を細めた。
――聖山の大地に染み込んだ、多くの血に申し訳が立ちません。
と、リティアに声を震わせたロザリーも、恐らくは既に冥府に旅立っているだろう。
執務室の傍らで剣を抱いて座るクロエが、ピクっと動いた。
扉をノックする音が響き、侍従長のハルムが入ってきた。奥殿に立ち入れないこともあって、侍女に比べると存在感が薄いが、リティア宮殿には侍従も仕えている。
「国王宮殿から落ち延びたという侍女が、裏手から現れ、殿下に面会を求めております」
「そうか……」
「監視の騎士を付けて、応接室に入れております。いかがなさいますか?」
「まずは、食事をとらせてやれ」
「はっ。かしこまりました」
「温かいスープでも振る舞ってやってくれ。修羅場から逃げ延びたのなら、心まで冷え切っておろう」
食事を終えたら執務室に通すよう命じ、ルーファから派遣された屈強な体躯の侍従長を下がらせた。
リティアの喉は食事を通さない。
2杯目の紅茶を飲み干す頃、執務室に案内されてきたのは、側妃サフィナの侍女長カリュだった――。
そのまま街の警戒にあたり、王都は戒厳令が敷かれたと同様の緊張感に包まれていく。
――手際がいいな。
執務室の窓から王都を見下ろすリティアの読みでは、最初の歩兵が王都に到着するのに、もう1日は要するはずだった。
女官長のシルヴァが淹れる紅茶の薫りが部屋に漂う。
事実上の軟禁下に置かれたリティア宮殿だが、夜明けと共にヴィアナ騎士団と交渉し、希望する女官や従者、文官、技師たちは退出させた。
シルヴァは「私は」と、言っただけで宮殿に残った。
リティアもそれ以上、シルヴァに何か言うことはなかった。ただ、少なくない者から寄せられる忠誠に、深く感謝し、王族としての責務に思いを馳せた。
まもなく、王太子バシリオスの布告が届けられた。
曰く――、
『毒婦サフィナによる王位簒奪の企みが明らかとなり、これを討った。王は不明を恥じ、王位を私に託され、制止も間に合わずご自害なされた。痛恨の極みである。『聖山の民』は先王の喪に服し、新王の次の指示を待て』
――父は、死んだか。
リティアは、布告の書かれた羊皮紙を机に置いた。
父は自害などしない。誇り高い戦士として闘い、死んだ。リティアはそう思い、窓の外を見上げた。
今朝も空は、秋晴れに晴れ渡っている。
小賢しい人間の営みなど、聖山の大地には何の影響も与えないと言わんばかりの快晴に、リティアは眉を寄せて目を細めた。
――聖山の大地に染み込んだ、多くの血に申し訳が立ちません。
と、リティアに声を震わせたロザリーも、恐らくは既に冥府に旅立っているだろう。
執務室の傍らで剣を抱いて座るクロエが、ピクっと動いた。
扉をノックする音が響き、侍従長のハルムが入ってきた。奥殿に立ち入れないこともあって、侍女に比べると存在感が薄いが、リティア宮殿には侍従も仕えている。
「国王宮殿から落ち延びたという侍女が、裏手から現れ、殿下に面会を求めております」
「そうか……」
「監視の騎士を付けて、応接室に入れております。いかがなさいますか?」
「まずは、食事をとらせてやれ」
「はっ。かしこまりました」
「温かいスープでも振る舞ってやってくれ。修羅場から逃げ延びたのなら、心まで冷え切っておろう」
食事を終えたら執務室に通すよう命じ、ルーファから派遣された屈強な体躯の侍従長を下がらせた。
リティアの喉は食事を通さない。
2杯目の紅茶を飲み干す頃、執務室に案内されてきたのは、側妃サフィナの侍女長カリュだった――。
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