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第三章 総候参朝
77.指名手配
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旧都からの報告が終わった舞台上では、王族一人ひとりが選んだ詩の披露が始まる。
王宮住まいの王族の中では、第3王女リティアの選定詩が最初に披露される。同い年のアメル親王より序列では上だが、1ヶ月ほど後に生まれた。12歳で準成人扱いとなり選定詩を披露する責務を負ったとき、披露順でアメルがゴネた。
もちろん、リティアはサッサと譲った。この頃から『天衣無縫』と呼ばれるようになっていく。
――あれ? リュシアンさんだぁ。
旧都テノリクア以来となる吟遊詩人リュシアンが、舞台の中央に進み琵琶のような楽器を奏で始めた。
それはアイカがサバイバル生活を終え、山奥を出て王都に向かう途上で出会った、リュシアンが聞かせてくれた響きだった。王都に来てから、まだひと月ほどだったが、様々な出来事がアイカの身の上に起きた。
リュシアンの奏でる調べに、感傷めいたものも湧き上がってくる。
――ん?
前奏が終わり、リュシアンは詩を詠い始めた。
『狼連れたる少女、深き山奥より降り立ちぬ。神より賜る神弓持ちて、凶悪なる熊を討ち取り、民を護る……』
などと、聴こえてくる。
――わ、わ、わ、私のことじゃん。
会場中の目という目が自分に向けられていることが、今度はハッキリ分かった。
顔を真っ赤にしてリティアの方を見ると、ニヤニヤとこっちを見ている。
――は、は、は、謀ったなー!
助けを求める思いでクレイアの方を向くと、うっとりと夢見る少女の顔になっている。
アイシェとゼルフィアも、若干の温度差はあれども大差はない。
熟れた林檎より赤くなったアイカは、せめて楽しもうとリュシアンに目を向けると、ウインクなどしてくる。
――そういうのじゃないです! マジこういうの慣れないですから!
『王都詩宴』で披露されたということは、この後、王国中で歌われるということだ。アイカはそう聞かされている。
桃色の髪に黄金の瞳、小柄で華奢など身体的特徴も全部、詩の中に含まれている。
アイカが知らない人からも知られるようになるのは間違いない。
目が泳いで行き着いた先に、ザノクリフの聘問使クリストフのニヤついた顔があった。
――な、なにが、面白いんスかー!?
感情のハケ口が見付かって、少し落ち着いたアイカは、改めてリュシアンの方に視線を向けた。
その口から紡がれる詩が、自分のことを描いていることを除けば、やはり魅了される歌い手であった。
アドリブなのか何なのか、先日の大捕物も詩の中に入っている。
――無頼姫の無二の忠臣とか言われてるし。
全体的に脚色がひどい。が、詩とはそうしたものなのか、アイカには分からない。
披露を終えたリュシアンが万雷の拍手を浴びている。
と、アイカの席に近寄り片膝を付いて、最敬礼をした。
――き、き、聞いてないですー!
万雷の拍手はアイカにも向けられた。
どうしたらいいか分からずリティアの方を見たら呑気に拍手しているし、クレイアに至っては涙ぐんでこっちを見詰めている。
仕方ないので、立ち上がってペコペコお辞儀をしているウチに、拍手が鳴り止んだ。
――我ながら、たぶん不恰好だった。
と、ヘコむアイカの耳元にクレイアが近寄り、少し鼻声になった声で囁いた。
「ありがとうね。アイカのお陰で私もリュシアンの詩に登場出来た」
好きなアーティストを呼び捨てにする響きでリュシアンの名を呼んだクレイアは、確かに詩の中にも詠い込まれていた。
アイカはグッタリして席に腰掛けた。
――指名手配ですよ。もはや、これは。
王族選定詩の披露はまだまだ続いたが、アイカはしばらくの間、魂を抜かれたように座っていた。
そんなアイカを、リティアがいつもより悪戯っぽい笑顔で眺めていた――。
王宮住まいの王族の中では、第3王女リティアの選定詩が最初に披露される。同い年のアメル親王より序列では上だが、1ヶ月ほど後に生まれた。12歳で準成人扱いとなり選定詩を披露する責務を負ったとき、披露順でアメルがゴネた。
もちろん、リティアはサッサと譲った。この頃から『天衣無縫』と呼ばれるようになっていく。
――あれ? リュシアンさんだぁ。
旧都テノリクア以来となる吟遊詩人リュシアンが、舞台の中央に進み琵琶のような楽器を奏で始めた。
それはアイカがサバイバル生活を終え、山奥を出て王都に向かう途上で出会った、リュシアンが聞かせてくれた響きだった。王都に来てから、まだひと月ほどだったが、様々な出来事がアイカの身の上に起きた。
リュシアンの奏でる調べに、感傷めいたものも湧き上がってくる。
――ん?
前奏が終わり、リュシアンは詩を詠い始めた。
『狼連れたる少女、深き山奥より降り立ちぬ。神より賜る神弓持ちて、凶悪なる熊を討ち取り、民を護る……』
などと、聴こえてくる。
――わ、わ、わ、私のことじゃん。
会場中の目という目が自分に向けられていることが、今度はハッキリ分かった。
顔を真っ赤にしてリティアの方を見ると、ニヤニヤとこっちを見ている。
――は、は、は、謀ったなー!
助けを求める思いでクレイアの方を向くと、うっとりと夢見る少女の顔になっている。
アイシェとゼルフィアも、若干の温度差はあれども大差はない。
熟れた林檎より赤くなったアイカは、せめて楽しもうとリュシアンに目を向けると、ウインクなどしてくる。
――そういうのじゃないです! マジこういうの慣れないですから!
『王都詩宴』で披露されたということは、この後、王国中で歌われるということだ。アイカはそう聞かされている。
桃色の髪に黄金の瞳、小柄で華奢など身体的特徴も全部、詩の中に含まれている。
アイカが知らない人からも知られるようになるのは間違いない。
目が泳いで行き着いた先に、ザノクリフの聘問使クリストフのニヤついた顔があった。
――な、なにが、面白いんスかー!?
感情のハケ口が見付かって、少し落ち着いたアイカは、改めてリュシアンの方に視線を向けた。
その口から紡がれる詩が、自分のことを描いていることを除けば、やはり魅了される歌い手であった。
アドリブなのか何なのか、先日の大捕物も詩の中に入っている。
――無頼姫の無二の忠臣とか言われてるし。
全体的に脚色がひどい。が、詩とはそうしたものなのか、アイカには分からない。
披露を終えたリュシアンが万雷の拍手を浴びている。
と、アイカの席に近寄り片膝を付いて、最敬礼をした。
――き、き、聞いてないですー!
万雷の拍手はアイカにも向けられた。
どうしたらいいか分からずリティアの方を見たら呑気に拍手しているし、クレイアに至っては涙ぐんでこっちを見詰めている。
仕方ないので、立ち上がってペコペコお辞儀をしているウチに、拍手が鳴り止んだ。
――我ながら、たぶん不恰好だった。
と、ヘコむアイカの耳元にクレイアが近寄り、少し鼻声になった声で囁いた。
「ありがとうね。アイカのお陰で私もリュシアンの詩に登場出来た」
好きなアーティストを呼び捨てにする響きでリュシアンの名を呼んだクレイアは、確かに詩の中にも詠い込まれていた。
アイカはグッタリして席に腰掛けた。
――指名手配ですよ。もはや、これは。
王族選定詩の披露はまだまだ続いたが、アイカはしばらくの間、魂を抜かれたように座っていた。
そんなアイカを、リティアがいつもより悪戯っぽい笑顔で眺めていた――。
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