【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
84 / 307
第三章 総候参朝

77.指名手配

しおりを挟む
 旧都からの報告が終わった舞台上では、王族一人ひとりが選んだ詩の披露が始まる。

 王宮住まいの王族の中では、第3王女リティアの選定詩が最初に披露される。同い年のアメル親王より序列では上だが、1ヶ月ほど後に生まれた。12歳で準成人扱いとなり選定詩を披露する責務を負ったとき、披露順でアメルがゴネた。

 もちろん、リティアはサッサと譲った。この頃から『天衣無縫』と呼ばれるようになっていく。


 ――あれ? リュシアンさんだぁ。


 旧都テノリクア以来となる吟遊詩人リュシアンが、舞台の中央に進み琵琶のような楽器を奏で始めた。

 それはアイカがサバイバル生活を終え、山奥を出て王都に向かう途上で出会った、リュシアンが聞かせてくれた響きだった。王都に来てから、まだひと月ほどだったが、様々な出来事がアイカの身の上に起きた。

 リュシアンの奏でる調べに、感傷めいたものも湧き上がってくる。


 ――ん?


 前奏が終わり、リュシアンは詩を詠い始めた。


 『狼連れたる少女、深き山奥より降り立ちぬ。神より賜る神弓持ちて、凶悪なる熊を討ち取り、民を護る……』


 などと、聴こえてくる。


 ――わ、わ、わ、私のことじゃん。


 会場中の目という目が自分に向けられていることが、今度はハッキリ分かった。

 顔を真っ赤にしてリティアの方を見ると、ニヤニヤとこっちを見ている。


 ――は、は、は、謀ったなー!


 助けを求める思いでクレイアの方を向くと、うっとりと夢見る少女の顔になっている。

 アイシェとゼルフィアも、若干の温度差はあれども大差はない。

 熟れた林檎より赤くなったアイカは、せめて楽しもうとリュシアンに目を向けると、ウインクなどしてくる。


 ――そういうのじゃないです! マジこういうの慣れないですから!


 『王都詩宴』で披露されたということは、この後、王国中で歌われるということだ。アイカはそう聞かされている。

 桃色の髪に黄金の瞳、小柄で華奢など身体的特徴も全部、詩の中に含まれている。

 アイカが知らない人からも知られるようになるのは間違いない。

 目が泳いで行き着いた先に、ザノクリフの聘問使クリストフのニヤついた顔があった。


 ――な、なにが、面白いんスかー!?


 感情のハケ口が見付かって、少し落ち着いたアイカは、改めてリュシアンの方に視線を向けた。

 その口から紡がれる詩が、自分のことを描いていることを除けば、やはり魅了される歌い手であった。

 アドリブなのか何なのか、先日の大捕物も詩の中に入っている。


 ――無頼姫の無二の忠臣とか言われてるし。


 全体的に脚色がひどい。が、詩とはそうしたものなのか、アイカには分からない。

 披露を終えたリュシアンが万雷の拍手を浴びている。

 と、アイカの席に近寄り片膝を付いて、最敬礼をした。


 ――き、き、聞いてないですー!


 万雷の拍手はアイカにも向けられた。

 どうしたらいいか分からずリティアの方を見たら呑気に拍手しているし、クレイアに至っては涙ぐんでこっちを見詰めている。

 仕方ないので、立ち上がってペコペコお辞儀をしているウチに、拍手が鳴り止んだ。


 ――我ながら、たぶん不恰好だった。


 と、ヘコむアイカの耳元にクレイアが近寄り、少し鼻声になった声で囁いた。


「ありがとうね。アイカのお陰で私もリュシアンの詩に登場出来た」


 好きなアーティストを呼び捨てにする響きでリュシアンの名を呼んだクレイアは、確かに詩の中にも詠い込まれていた。

 アイカはグッタリして席に腰掛けた。


 ――指名手配ですよ。もはや、これは。


 王族選定詩の披露はまだまだ続いたが、アイカはしばらくの間、魂を抜かれたように座っていた。

 そんなアイカを、リティアがいつもより悪戯っぽい笑顔で眺めていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...