【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第三章 総候参朝

76.カラクリ

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 王太后カタリナの使者が舞台に上がり『王都詩宴』の開幕を告げた。


「アイカ、食事を始めよう」


 と、隣の席に座るリティアが微笑んだ。


「あ……、はい……」

「そう、緊張することはないぞ。楽しめば良いのだ。来年も招いてくれるとは限らないからな」


 舞台上では、旧都テノリクアにあって『詩人の束ね』を務める王太后カタリナの使者から、先んじて行われた『聖都大詩選』の模様が報告されている。

 一年中を旅して過ごす吟遊詩人たちは、王国各地に散らばる神話や伝説や民話を収集し『聖都大詩選』で報告し合う。それらは『聖山の神々』を描く聖山神話に体系的に取り込まれ、叙事詩の一編として、再び吟遊詩人たちの奏でる調べに乗せて王国中に広まってゆく。

 もともとは、テノリクア候家からヴィアナ候に嫁いでいた公女オリガが、跡継ぎの絶えた実家に乗り込み、テノリクア候への即位を宣言したことに端を発する。

 女候オリガは、現国王ファウロスの祖母にあたる。

 その息子スタヴロスを、テノリクア候の後継に立てるにあたり、血統がヴィアナ候家に移る正統性を神話に求めた。

 やがて、オリガと吟遊詩人たちの手によって、――誰も知らなかった――古来から伝わる聖山神話が、一大叙事詩として編纂されていく。テノリクアの主祭神『雷神ラトゥパヌ』は『天空神ラトゥパヌ』となり、総ての『聖山の神々』の父神であると詠われた。

 当然、――それまで、あまり有名でなかった――『戦神ヴィアナ』は、『天空神ラトゥパヌ』の孝行娘であるし、テノリクア候にヴィアナ候の血統が取って代わることは、歴史の必然となった。

 テノリクア候の譲位を受け、父のヴィアナ侯位も得たスタヴロスは、さらに王位に就くことを宣言し、厚く遇していた吟遊詩人たちに『聖山の民』の街々を旅させ、編纂された聖山神話を詠わせ広めさせた。

 磨き上げられた物語に、人々は涙し、笑い、哀しみ、神々の恵みに感謝し、神々の怒りを恐れ、魅了されていく。

 自分たちが父祖の代から長く祀ってきた神様が、――自分たちが知らなかっただけで――ずっと昔から『天空神ラトゥパヌ』の子神であることを知った人々は、テノリクアを『聖山の神々』の故地として聖都と呼ぶようになった。

 そして、自分たち『聖山の民』が、遥か昔から聖山神話を尊んできたことを誰も疑わなくなった頃、後に『聖山王』と諡されるスタヴロスが『聖山戦争』の開始を宣言した。

 統一がなった現在においても、吟遊詩人たちは神話を奏で王国各地を旅して回る。

 年に一度の『聖都大詩選』では互いに収集した情報を交換し合い、また、王太后を通じてが、下賜されることもある。

 つまり、吟遊詩人たちは王国の諜報員であり、神秘的で荘厳な調べを奏でて詠う神々の物語に乗せ、民の常識を上書きできる優れたプロバガンダ要員でもある。

 『王都詩宴』は、を列候に披露する場でもある。

 自領に縁ある神が登場すれば熱狂し、率先して故郷に持ち帰る。

 そこには、王国への参朝を歴史の必然と受け入れる物語が潜んでいる。

 アイカもまた、舞台上で披露されている、王太后選定詩の荘厳な調べに圧倒されていた。


 ――吟遊詩人さんってスゴイんスね! 感動してます!


 まんまと、王国の『カラクリ』に乗せられているが、本人はもちろん気付かない。

 むしろ、この場にいる者の総てが、女王位を追贈され、既にこの世にないオリガの掌の上にある――。
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