【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
81 / 307
第三章 総候参朝

74.北離宮の宴

しおりを挟む
 『総候参朝』7日目の晩。

 臨席する宴の最後に、リティアは外曽祖父セミールの席を選んだ。

 北離宮で開かれた宴席は、リティアのせがむ、砂漠のオアシス都市ルーファの話で大いに盛り上がったが、母の側妃エメーウは最初に挨拶したのみで寝室に戻った。


 ――あんなにワイン飲んでたのに。


 と、アイカは思ったが、顔には出さない。


「たしかにプシャンオオカミだな」


 と、セミールは、中庭で上等な羊肉を楽しむタロウとジロウに目を細めた。


「しかも、守護聖霊があるのです!」


 ドヤ顔を見せるリティアだが、信仰の異なるルーファの者たちには、いまいちピンとこない。

 ただ、テノリアによる『聖山の民』統一に、審神者さにわの術による人員の適正配置が大いに役立ったことだけは伝わっている。

 実利を重んじる『砂漠の民』にとって、『山々の民』が精霊と会話するという話よりは、まだ理解できる。


 ――うーん。お父さんと、母方のひいお祖父さんが2歳違い……。


 アイカの目に映る83歳のセミールは、王者の貫禄で81歳のファウロスに負けていない。王都竣工の祝いに、生きた虎を贈ったという、同世代を生きる英傑の一人と言ってよい。

 ただ、その複雑に見える生い立ちをしたリティアの心根が、どのように形成されたのか、少し気になり始めていた。


「嗚呼……、一度、ルーファにおうかがいしたいものです」


 と、目を輝かせるリティアに、セミールは微笑みながら返した。


「ルーファは美しい街だが、厳しい砂漠が隔てている」

「だからこそ、惹かれるのです! 大お祖父様。私を一度、ルーファに招いてくださいませんか?」

「はっは。殿下に危険な旅をさせては、ファウロス陛下に怒られてしまおう」

「ヨルダナ叔母さまも、砂漠を渡って来られたではありませんか」


 と、話題を振られたエメーウの妹ヨルダナだが、いつもの無表情フェイスをピクリとも動かさない。

 リティアは、そんなヨルダナにも惹かれる。

 アイカをはじめ、クロエ、ヤニス、イリアスなど、無口だったり無表情だったりする者を好んで側に置くところが、リティアにはある。その奥に潜む、心の内をのぞきたくなるのだ。

 後ろに控えている侍女のクレイアも、元は表情の乏しい少女だった。


「まあ、もう少し大きくなられてからだな」


 と、セミールは、リティアの勢いに苦笑い混じりで応えた。


「絶対ですよ! 招請もなく遊びには行かせて貰えないのです。絶対、お招きくださいね!」
 


 宴は和やかな雰囲気のまま終わり、北離宮を立ち去ろうとするリティアを、ヨルダナが呼び止めた。


「お姉様のことは、ルーファが責任を持って面倒を見ます」

「え……?」


 ヨルダナの言葉は思いもよらないもので、リティアを戸惑わせた。


「リティア殿下。貴女はテノリア王国第3王女の重責を果たすことだけ、お考え下さい」


 どう受け止めたら良いのか分からないリティアは、「お心遣い、ありがとうございます」とだけ返した。


「夫オズグンは隊商ですが、ルーファの大使のようなものです。困りごとがあれば、力になれることもあるでしょう。遠慮なく頼ってください」


 リティアは、宴に同席していた大隊商の姉弟、メルヴェとオズグンの顔を思い浮かべた。

 これまで、王家と隊商の付き合い以上の関係を持ってこなかったが、姻族にあたることは確かであった。

 しかも、交易の中継都市として栄えるルーファで、首長の家から嫁を送り出すだけの存在感を示す大隊商でもある。


 ――美少女がお人形さんと内緒話してる。


 という、アイカの熱い視線を感じたからというだけでなく、話題に際どさが含まれていることに、ようやく気付いたリティアは、ヨルダナに謝辞を述べた。

 北離宮を後にするリティアの背を、ヨルダナは水色の大きな瞳で見送った――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...