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第三章 総候参朝

69.するめ *アイカ視点

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「貴方の若い頃にそっくりだと思ってましたけど?」


 と、悪戯っぽい笑みを浮かべたウラニアさんに、ベスニクさんが苦笑いで返した。


「私は、素直で爽やかな好青年だったではないか」

「いいえ。無口で冷ややかな皮肉屋さんでしたわ」

「じゃあ、お婆様と結婚して変わったんですね!」


 と、ロマナさんが嬉しそうに笑った。


 ――お婆様……。違和感しかないわぁ。


 ええそうよと、孫に微笑み返すウラニアさんに、ベスニクさんが「そうだったかな?」と笑うと、リティアさんが、


「ウラニア姉様は間違いませんわ」


 と、すまし顔で言った。


 ――そうか! そこは歳の離れた姉妹だったわ。


「これは、かなわないな」と、困ったように笑うベスニクさんを、皆さんの笑顔が囲んでる。


 ――ふぉぉぉぉぉぉ! いいです! とっても、画になります! カメラないのが、とても残念です!


 ウラニアさんにビックリし過ぎてたけど、ロマナさんのお姫様スマイル外面バージョンも素敵です!

 ロマナさんの金髪を部屋の中で拝見すると、少し緑がかって見えるところもエレガントです。

 もう少し『引き』の画にすると、後ろに控えてる眼帯美少女のチーナさんも、ウチのクレイアさんも伏し目がちに笑顔になってる。


 ――最高です! 宴、最高です!


 あのクリストフとかいう口の悪いニイチャンも、皆さんのこの笑顔を引き出したんだから役に立ったことにしよう。

 テラスに出てきたクリストフさんを最初に見たときは、ちょっとドキっとしたのに。

 いきなり、口が悪すぎです。

 初対面からああいうの、私は苦手です。

 私と同じ金色の瞳の人に初めて会って、なんかいいかもって思ってたのに……。

 と、ロマナさんを見詰める、ベスニクさんの視線が愛情の色に変わった。


「今年はロマナが供物の狩りを行いましてな」


 あらと、リティアさんが何食わぬ顔で小さく驚いて見せる。


「それが小動物を含まぬ、大物ばかり。お蔭でパイパル様に良い供物を捧げることが出来ました」


 ロマナさんが謙譲の笑みで頭を軽く下げた。


 ――私が半分狩りましたけどね。


 とは、言わないのだけど、ロマナさんもこっちをチラとも見ないな。

 口止めの視線を送ったりしなくても大丈夫って、リティアさんへの信頼の篤さが伝わってくる振る舞いだよ。

 リティアさんも品良く称賛の言葉を贈ってる。

 内緒の関係ってことは、ここまでやり切って初めて内緒ってことなんだな。

 ロマナさんも焚火を囲んで、肉に喰らい付いてた人と同一人物とは思えない、たおやかさ。

 なんて考えてると、「アイカさん」って、ウラニアさんに優しい調子の声を掛けられた。


 ――うっひょい。


「今日は招きに応じてくださって、ありがとう。今年最初のヴールの宴に華を添えていただきました」


 華だなんて、そんなとんでもない。と、首をブンブン振ってしまった。

 テーブルマナー以前に、気の利いた会話が出来ないのはどうなんだ……?

 すると、リティアさんがクレイアさんに目線を送り、皿の下げられていたテーブルの上に、瀟洒な装飾の施された木箱が置かれた。

 クレイアさんが蓋を開けると、中には緋の宝布に包まれた「するめ」が出てきた。


 ――するめ?


「おおっ、これはなんと見事な」


 と、ベスニクさんが驚嘆の声を上げた。


 ――するめですよ?


 リティアさんが恭しく頭を下げ、静かに口を開いた。


「東方より伝来した、木彫りの品です」


 え? 木彫り? 本物にしか見えませんよ?


「この度は、西南伯殿の貴重な開幕の宴にお招きいただき光栄の至り。また、先だってはロマナ公女より、我が侍女に過分の品をお贈りいただき、深謝申し上げる。返礼としてはささやかなれど、お納めいただければ幸いに存じます」


 ――おおっ! リティアさんが王女らしい仕事してるっ。


 ベスニクさんも、ウラニアさんも、ロマナさんも恐縮して謝辞を述べてる。


 ――でも、するめですよ? たしかにすごい出来だけど。


 クレイアさんが耳元で「帰りますよ」と、囁いて椅子を引いてくれた。

 はわわ。ありがとうございます。先輩にこんなことさせて、恐縮です。

 ヴールの神殿を後にしたけど、異世界こっちの価値観に、微妙な謎を残した宴席だった……。


 ――なんで、するめ?
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