75 / 307
第三章 総候参朝
68.実在限界 *アイカ視点
しおりを挟む――今も愛らしいのです!
と、第2王子のステファノスさんが力説してた、妹のウラニアさん。
西南伯ヴール候のお昼間の宴にご招待されて、間近でご尊顔を拝したら、マジ美魔女。
ロリババア寄りの美魔女。
いや、ロリババアの実在限界っ!
隣に並ぶ孫のロマナさんと姉妹って言われても信じてしまうわーっ。
仕草のひとつひとつが可愛らしい。
しかも、淑女の要素もある。
王太子妃のエカテリニさんもロリババア寄りだったけど、こっちは真正。真正ロリババア。
――くぁ――。もう、妖怪でもいいな。
リティアさんが最初に臨席する宴は、主祭神の『狩猟神パイパル』を祀るヴールの神殿にお呼ばれ。
王家の大神殿とは比較にならないけど、神殿群の中では一番規模が大きい。
神殿街に立ち並ぶ列候領の神殿は、累代の神像を祀ると同時に、列侯の王都屋敷の役割もある。
それにしても、豪勢なお料理をいただくのに、お箸を珍しがって受け入れてくれて、内心胸をなで下ろした。
ロザリーさん、サラナさん、カリュさんに、いい報告できそうで良かった。
皆さん高貴な笑顔でお料理をいただいてるし、たぶん、誰の顔も潰さなかったよね?
と、ウラニアさんの夫で、西南伯ヴール候のベスミクさんが口を開いた。
「今年は、まがりなりにも3聘問使が揃って良かったですな」
黒々とした長髪に白髪の横髪が鋭く光ってる59歳。好物だというオリーブのピクルスを美味しそうに頬張ってる。
「聘問使が揃うのは、いつ以来になりますかな?」
テノリア王国と国境を接する3つの国と都市からは『総候参朝』に聘問使が送られる習わし。
北のザノクリフ王国、西のリーヤボルク王国からは、共に内戦のせいで中断していたらしい。
リティアさんが口元を拭いたナプキンを置いて応えた。
「とはいえ、リーヤボルクの聘問使は隊商のマエルが代行。西域が落ち着くのには、まだ時間が必要そうですね」
マエルというのは、昨日、祝祭の開幕に大神殿で開かれた祭典で、ルーファの大首長セミールさんと一緒に壇上に並んでた長い髭で恰幅のいいお爺さん。
――ぶさいくさんを使って、ラウラさんを連れ去ろうとしてた人だよね?
踊り巫女のラウラさんを、ビア樽みたいなぶさいくが、強引に連れて行こうとしてた。
「ヴールは、ザノクリフと縁が薄い」
と、ベスニクさんが微笑を浮かべたままで言った。
「ザノクリフから送られてきた、クリストフという若僧は何者ですかな?」
――くぅ! あの、ニイチャン!
昨日、儀式の合間にテラスで休憩してた私に、ツカツカツカと無遠慮に寄って来た人。
グイッと人の顔を覗き込んだと思ったら、いきなり、
――チビだな。
って言い放った、飄々とした雰囲気の黒髪のニイチャン。
似たような『飄々』でも吟遊詩人のリュシアンさんとは違う、口の悪いのが様になるタイプで、それが余計に腹立った。
「私もまだよくは聞いていないのですが、ザノクリフで東候を称するエドゥアルド殿の縁者だとか」
と、リティアさんがベスミクさんに応えた。
「ふむ。西候セルジュ殿と示し合わせてのことであろうか?」
思案顔をするベスミクさんに、リティアさんは少し冷たさを加えた微笑で応えた。
「恐らく、あの口上から察するに東候の独断でしょう。大きくは2つに分裂しているザノクリフに、テノリアは手出しするなよ。あまよくばこっちに付けと言うのですから、虫のいい話です」
リティアさんの分析に、大きめの鼻が目立つ面長で渋い男前のベスミクさんが、興味深げな笑みを返す。
「リティア殿下はそう読み取られましたか。しかし、人を喰った物言いの若僧でしたな」
「あら」と、ウラニアさんが小さく笑った。
か、かわええ……。
奇跡を超えて天変地異レベルの58歳。
兄嫁で同い年のユーデリケさんも『たいがい』だったけど、これは夫婦で推すね。
妹、推すね。
よく分かりましたわ。
リティアさんとベスニクさんの難しい話より、ウラニアさんを愛でてしまいます――。
42
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる