74 / 307
第三章 総候参朝
67.意味不明な達成感
しおりを挟む
『総侯参朝』は、実質的には本番の前日から始まる。
王族が全員そろって謁見の間に並び、列侯一人ひとりから参朝の挨拶を受ける。
この『一人ひとりから』というのが、ポイントだ。
360人いる列候。単純計算で1人3分ずつでも18時間かかる。
王都ヴィアナを建設し、最初の『総候参朝』で挨拶を受け切ったとき――当時、参朝していた列候は220程度だったが――若き国王ファウロスと王弟カリストスは、達成感で一杯だった。
翌年には達成感より疲労が勝り、3年目には後悔していた。
来年から全員まとめて一度に挨拶を受けようと、くたびれたファウロスが漏らすと、
「王国が列候を軽く見始めたと、受け取られかねない」
と、王弟カリストスが首を振った。
では、せめて日を分けようと、ファウロスが言うと、
「別日にされた列候が、自分を軽んじられたと恨みかねません」
と、ロザリーが反対した。
ガッツと根性で乗り切るしかない式典の改善は、次代の課題――、代替わりの時に改めるほかないというのが、現在のところの結論である。
謁見の間の壇上には、ファウロスを中心に、サフィナ、バシリオス、エカテリニ、ルカス、ファイナ、ペトラ、サヴィアス、リティア、カリストス、アスミル、ロドス、アリダ、アメルと、王宮に住まう成人王族が全て並ぶ。
各王族の後ろには侍女や女官が控え、水分補給や軽食などを用意している。
耐久レースの幕が開くと、食事の時間も取れないのだ。
まさに王国の『作りかけ』を象徴する式典である。
皆を彩る煌びやかな衣装は、長時間立っていられるよう、出来るだけ軽く作られている。
特に女性王族が着るドレスは、身体の線を美しく見せながら締め付けない、王国の縫製技術の結晶である。
意味不明な式典のために、意味不明な技術が発展していた。
アイカもリティアの後ろで控えている。
これから始まる耐久レースのことを、あまりよく分かってなかったが、とにかくドキドキしていた。
次々に現れる列候が30秒ほど挨拶し、謁見の間を後にする。
列候同士がかち合わない動線が設定され、その移動時間を加味すると30秒程度が限界となる。
移動時間が延びないように、随行の人数も制限されている。
入れ代わり立ち代わり、仕掛け時計のように列候が現われては去っていく。
――列候さんは、……そうでもない。
王族ばかりでなく、騎士団の騎士や、市井のアイラやガラの美貌を目にし、期待を膨らませていたアイカのお眼鏡に叶う者は、なかなか現われない。
そこに、西南伯ヴール候ベスミクが姿を見せた。
妻である第2王女ウラニア、孫の公女ロマナが随行している。
――ロマナさんだ! あれが、ステファノスさんの妹のウラニアさん!
と、初めてアイカの目を奪う者が現われた。
ベスニクは、方伯として従える列候60人を率いて、参朝の挨拶をする。
ベスミクを方伯に任じたことで、360人いる列候の内、60人は1度に済ませられ、挨拶は300組に圧縮された。
このためだけに方伯を増やすことを検討したが、それだけの実力を備えた列侯はベスミクの他におらず断念した。
それでも約15時間が見込まれており、朝7時に始まった式典は、夜10時を過ぎた頃に、ようやく終了した。
王族も侍女も女官もヘトヘトである。
若々しくヤンキー気質の王族が催す、気力と体力の限界に挑戦するような、華やか過ぎる式典に、アイカには明日からの本番が、ちょっと不安になった。
ただ、達成感だけは、意味不明に半端なかった――。
王族が全員そろって謁見の間に並び、列侯一人ひとりから参朝の挨拶を受ける。
この『一人ひとりから』というのが、ポイントだ。
360人いる列候。単純計算で1人3分ずつでも18時間かかる。
王都ヴィアナを建設し、最初の『総候参朝』で挨拶を受け切ったとき――当時、参朝していた列候は220程度だったが――若き国王ファウロスと王弟カリストスは、達成感で一杯だった。
翌年には達成感より疲労が勝り、3年目には後悔していた。
来年から全員まとめて一度に挨拶を受けようと、くたびれたファウロスが漏らすと、
「王国が列候を軽く見始めたと、受け取られかねない」
と、王弟カリストスが首を振った。
では、せめて日を分けようと、ファウロスが言うと、
「別日にされた列候が、自分を軽んじられたと恨みかねません」
と、ロザリーが反対した。
ガッツと根性で乗り切るしかない式典の改善は、次代の課題――、代替わりの時に改めるほかないというのが、現在のところの結論である。
謁見の間の壇上には、ファウロスを中心に、サフィナ、バシリオス、エカテリニ、ルカス、ファイナ、ペトラ、サヴィアス、リティア、カリストス、アスミル、ロドス、アリダ、アメルと、王宮に住まう成人王族が全て並ぶ。
各王族の後ろには侍女や女官が控え、水分補給や軽食などを用意している。
耐久レースの幕が開くと、食事の時間も取れないのだ。
まさに王国の『作りかけ』を象徴する式典である。
皆を彩る煌びやかな衣装は、長時間立っていられるよう、出来るだけ軽く作られている。
特に女性王族が着るドレスは、身体の線を美しく見せながら締め付けない、王国の縫製技術の結晶である。
意味不明な式典のために、意味不明な技術が発展していた。
アイカもリティアの後ろで控えている。
これから始まる耐久レースのことを、あまりよく分かってなかったが、とにかくドキドキしていた。
次々に現れる列候が30秒ほど挨拶し、謁見の間を後にする。
列候同士がかち合わない動線が設定され、その移動時間を加味すると30秒程度が限界となる。
移動時間が延びないように、随行の人数も制限されている。
入れ代わり立ち代わり、仕掛け時計のように列候が現われては去っていく。
――列候さんは、……そうでもない。
王族ばかりでなく、騎士団の騎士や、市井のアイラやガラの美貌を目にし、期待を膨らませていたアイカのお眼鏡に叶う者は、なかなか現われない。
そこに、西南伯ヴール候ベスミクが姿を見せた。
妻である第2王女ウラニア、孫の公女ロマナが随行している。
――ロマナさんだ! あれが、ステファノスさんの妹のウラニアさん!
と、初めてアイカの目を奪う者が現われた。
ベスニクは、方伯として従える列候60人を率いて、参朝の挨拶をする。
ベスミクを方伯に任じたことで、360人いる列候の内、60人は1度に済ませられ、挨拶は300組に圧縮された。
このためだけに方伯を増やすことを検討したが、それだけの実力を備えた列侯はベスミクの他におらず断念した。
それでも約15時間が見込まれており、朝7時に始まった式典は、夜10時を過ぎた頃に、ようやく終了した。
王族も侍女も女官もヘトヘトである。
若々しくヤンキー気質の王族が催す、気力と体力の限界に挑戦するような、華やか過ぎる式典に、アイカには明日からの本番が、ちょっと不安になった。
ただ、達成感だけは、意味不明に半端なかった――。
51
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる