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第三章 総候参朝

62.いろんな優しさ *アイカ視点

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 タロウとジロウが、北郊の草原で駆けてる。

 ロザリーさんには、リティアさんとアイシェさんで会いに行って、私は日課になってるタロウとジロウの運動に行かされた。

 クロエさんとカリトンさんが護衛に付いてくてれる。

 カリトンさん、お久しぶりですけど、変わりなくお美形でございますわね。

 けど……、


 ――いやー。浮かない。気分が浮かない。


 いつまででも愛でていたい美形男女2人と一緒なのに、こんな気分になるのは初めて。

 タロウとジロウは悩みなんてなさそうでいいなぁ。

 だいたい、昨日までメチャクチャ走ってたのに元気だな、お前たち。


「アイカ殿は、随分お疲れのようだ」


 と、カリトンさんが気遣うように話しかけてくれた。


「あ……、いや……」


 列侯さんの宴に招待されたとか、誰に何をどこまで話していいものかも分からないし……。

 思わずため息をついてしまった私を見て、カリトンさんが涼やかな笑顔で続けた。


「それが、西南伯様の弓ですか?」


 ――そうだ! ロマナさんにもらった弓!


 カリトンさんが勧めてくれたので、試し射ちをすることに。

 クロエさんもジッと見てる中、大きな木の幹を目掛けて矢を、放つ。


 ――すっ、すっごく、使いやすい。


 狙い通りのドンピシャに矢が刺さってる。

 近寄ると、さすが鉄のやじり、深く刺さってる。

 今までより距離とっても大丈夫そう。


「おおっ! アイカ殿の腕前に良い弓矢。これは、無敵ですね」

「いや……そんな……、へへっ」


 美形のカリトンさんは手放しに褒めてくれるし、その言葉にクロエさんは深く頷いてるし、嬉しいやら恥ずかしいやら……。


「弓の手入れには、蜜蝋を使われるのが良いでしょう」

「蜜蝋……、ですか……?」


 カリトンさんは、こちらから聞く前になんでも丁寧に教えてくれる。

 ありのままの私を尊重しようとしてくれてるリティア宮殿の皆様は、裏返すと放任主義とも言えて、カリトンさんのさりげない世話焼きに助けられることも多い。

 こんな心の中ではグチグチ大忙しのくせに、なかなか言葉にして出せない、陰キャでぼっち体質の私には、少しありがたい。

 カリトンさんは、きっといい上司さんなんだと思う。


「しかし、リティア殿下のご炯眼には感服するほかありません」


 と、カリトンさんが首を左右に振った。

 クロエさんが、ちょっとだけドヤ顔になってる。この黒髪の美人さんも、きっと私と同じタイプ。心の中には言葉が渦巻いてる。

 そして、リティアさんのことが大好き……。


「あの土間でお会いした時、私にはアイカ殿のことが見抜けなかった。守護聖霊のことを差し引いても、リティア殿下の偉大さをアイカ殿が証明されている」

「そ、そんな……」

「我が主君、バシリオス殿下も偉大な方ですが、リティア殿下の人を見抜く力は群を抜いておられる」


 ――推しが、推しを褒めてる。


 なんて、心に気持ちいい時間なんだろう。


「リティア殿下は、きっとアイカ殿を活かしてくださいますよ」

「え……?」

「自分では見えない自分を、きっと見てくださってます。そして、最後は必ずアイカ殿のことを守ってくださるはずです」


 と、微笑むカリトンさんも、私が何か悩んでることを、きっと見抜いてる。


 ――そうか。


 リティアさんを信じて大丈夫だよって、カリトンさんは教えてくれてる。


 ――ほんと、楽園にいるみたいだ。


 いろんな人が、いろんな優しさで私を包んでくれてる。

 うん。

 頑張れそう。

 そもそも、人が聞いたら贅沢な悩みってヤツだ。どこの馬の骨かも分からない私が、ちょっとお姫様扱いで立派なお席に座らせてもらえるんだ。


 ――楽しんどかないと、二度とない経験かもしれないし!


 と、そこに、アイシェさんとクレイアさんが、ロザリーさんからOKが出たと報せに来てくれた。


 ――よし。


 ロマナさんとも会えるかもしれないし、いっちょ頑張りますかっ!

 ありがとう、カリトンさん!

 優しい美形、最高です!
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