【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第二章 旧都郷愁

56.西南伯の紋章(1) *アイカ視点

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 ――鷲。マジ、怖かった。


 朝から取り掛かって、夕暮れ時にようやく供物の狩りを終えた。

 みんな、ぐったりです。

 大きな角をした鹿さんが残念ながら3頭しか狩れず、無駄になりかかったので、私が捌いて夕食にすることにした。

 ロマナさんお付きの眼帯美少女チーナさんと、侍女さんを含めて、ここにいるのは6人とも女性。

 うら若き乙女たち――王女1、公女1を含む――が、焚火を囲んで、木の枝に刺した肉を焼いて、むしゃぶりつく。


 ――なかなかシュールで、レアです。


 チラチラと美少女さんたちを覗き見て、目に焼き付ける。

 タロウとジロウには、鹿肉を一頭ずつあげた。今日は走り回ったし、このくらい食べても大丈夫でしょ。

 ていうか、明日から帰りの旅に出発するって正気ですか? へとへとなんですけど。

 もう一日、休んでから行きません?


「リティア、助かったわ……」


 と、ロマナさんが焼けたての鹿肉を頬張りながら、素直にお礼を言った。


「いや。私も舐めてた」


 リティアさんも苦笑い気味に頬張り、ふと尋ねた。


「サルヴァ殿のお身体はどう?」

「兄様の病弱は体質だから……、相変わらずね。仕方ないわ。その分、私が頑丈に生まれたのよ、きっと」


 ロマナさんが、困ったような照れ笑いを向けた。


 ――ふおぉぉぉぉ。


 真っ赤な夕陽と焚火の炎に照らされて、その表情が抜群にお綺麗です。

 映えてます。青春っぽいです! 

 最高です!


「言いたいことは分かるわよ。本来なら兄様のお役目なんだから」


 そっか。偉いお家も大変だ……。


「そうそう、リティア。ザノクリフの件、耳に入ってる?」


 という、ロマナさんの問いに、リティアさんが首を傾げた。


「ザノクリフ? ……いや? なにかあったか?」


 ザノクリフ王国は『山々の民』のつくる北方の国。なんか揉めてるって言ってたけど……?


「今年の『総侯参朝』に聘問使を送るって、通達があったらしいわよ」


 と、ロナマさんが指に付いた肉汁を舐めながら言った。侍女さんがマナーを嗜めたけど、お構いなしだ。


「いつ?」


 と、リティアさんの眉に力が入った。


「昨日。ほら、王太后陛下はザノクリフの出身じゃない? 旧都にも使いが来たみたい」

「昨日、王太后 おばあさまの宮にお伺いしてる間か……」

「内戦も6年? 7年? やってるけど、ちょっとは落ち着いたってことかな?」


 と、ロマナさんが、聖山の東に伸びる山岳地帯にマリンブルーの瞳を向けた。その視線の先で『山々の民』が暮らしてるらしい。

 リティアさんは少し考え込む様子で、口を開いた。


「泥沼の混戦から、東と西に勢力が収斂しつつあると聞いていたが……」

「あら、そうなんだ?」

「聘問使を送ってくるのは、どっちだろう?」

「知らないわよ。ヴールウチは王国の中で、ザノクリフから一番遠いところにあるんだから」


 リティアさんが頬に手をあて、顔の横に『トホホ』という文字が見えるような表情をした。


「やっぱり、急いで帰るしかないかぁ」


 嗚呼。リティアさんも、明日お休みにしたかったんですね。

 くたびれましたよね。

 ロマナさんは手を後ろに着いて、胸を反らすように空を見上げた。


「今年はリティアが議定の主宰やってるんでしょ? しっかり働いてよね」


 おおっ。これは、『総侯参朝』でやって来る側と迎え入れる側の会話だ。

 360人の列侯が300人ずつ引き連れて王都に来ても、それだけで10万人以上人口が増えるんだもんね。

 リティアさんの責任も重大だ。

 ふと、リティアさんがニンマリとした笑みを浮かべた。


 ――うわっ。こんな意地の悪そうな笑顔もお持ちでございましたか。


 リティアさん。悪女にジョブチェンジしても、主役級になりそうでございますではないですかっ。


「それはそうと、ロマナ」

「なによ?」

「サヴィアス兄上とはどうなんだ? 頻繁に文のやり取りをしてると聞いたぞ?」


 あの偉そうな第4王子さんだ。

 へぇー、そうなんだ!

 と、思ってロマナさんを見ると、露骨に嫌そうな顔してる。


「やめてよ。『やり取り』はしてないわよ。向こうが一方的に送ってくるだけ」

「ほーんっ」


 というリティアさんを、ロマナさんが眉を寄せ、目を細めて睨み付ける。


「貴女、私の表情見て、その反応?」

「まんざらでもないのかと思って」


 沈む寸前の夕陽に染まる、美少女が美少女を冷やかす画も、様になりますなぁ。


「あんな俺様殿下、まったくタイプじゃないわよっ!」


 ロマナさんは、ふくれて横を向いてしまった。

 やり過ぎですよ、リティア殿下。

 横を向いたままロマナさんが続けた。


「だいたい、母親である側妃サフィナ様の郷のアルナヴィスは『聖山戦争』でヴールウチに裏切られたって言い掛かりつけてて、超攻撃的なのよ。そんなので言い寄る神経が分かんないわ」

「ヴールとアルナヴィスの架け橋になれる、かもしれないじゃない?」


 まだつつきますか、リティアさん。


「お断りです。ていうか、そんな話どこから聞きつけるのよ?」

「そりゃ、王宮の女官たちよ。女官のネットワークはスゴイよぉ」


 ロマナさんは鼻を膨らませて、口をへの字に曲げた。


「うわぁ。サヴィアス殿下様の噂とか、すぐに広まりそう」


 あ。リティアさんが、ちょっとドヤ顔になった。


「その点、私は女官とも良好な関係を築けるよう日々、努力してるからね」

「そんなこと言ってたら、知らないうちに足元すくわれるんじゃない?」


 と、表情を緩めたロマナさんが茶々を入れると、リティアさんは「大丈夫」と力強く胸を張った。

 思わずクロエさんが無表情なまま吹き出して、その様子に一堂が笑いに包まれた。

「そうだ……」


 と、ロマナさんが突然、弓と矢筒を持って立ち上がった。


「アイカよ」


 ――へっ? 私?
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