【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第一章 王都絢爛

20.やめらんねぇ! *アイカ視点

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 クレイアさんが床に手を着いた。


「ぬかった……」


 なんか、すみません。

 でも、私の部屋で四つん這い姿勢だなんて、重力が悩ましい……。


 ――いや、これ。やめらんねぇな! キレイですもん! クレイアさん!


 褒めちぎるわ。心の中で褒めちぎっちゃうわ。皆さんの美貌を、褒めてしまいますよ! 褒めて、愛でてしまいますよ!

 だって、キレイな人を愛でて妄想に楽しむことだけが、心の張りで生きてきたしなぁ……。


「ごめんね……。側妃サフィナさまのお姿を褒めたりしたら、取り返しのつかないことになるところだった……」


 そうか。リティアさんの侍女が、面と向かって側妃さまに呪いをかけたことになるのか。それは確かに大事になりそう。

 と、思う反面、内心の自由を守れ――っ! という、心のデモ隊が大行進もしている。


「大丈夫、私もアイシェも『聖山の民』じゃないし」と、ゼルフィアさん。


 ……そうなんですか?


「私たちは、リティア殿下の母君、側妃エメーウ様の故郷、ルーファから遣わされた『砂漠の民』だから。つい、心の中で褒めちゃうときもあるよ」

「は、はい……」

「でも、人を見た目や容姿で判断しない戒めとして、よくできた信仰だとは思うから、最近はほんとに思うこともなくなったよ。アイカもすぐ慣れるよ」


 な、慣れたくねぇ……。

 頭のどこかでは、既にゼルフィアさんの笑顔を褒めちぎってるよ。

「失礼します」と、ノックして入って来たのは、昨日狩りから帰ってすぐ、私専属の女官さんになってもらったケレシアさん。明るい色でヒラヒラのワンピースなんか着て、賢そうな娘さんの手を引いてるのが絵になりそうな、上品でハイソなセレブ風お姉さま。

 今着てるメイド服もお似合い。

 王宮には通いで出勤してる28歳で、実際に11歳の娘さんを育ててるそう。


「お洗濯できてましたよ」


 柔軟剤のコマーシャルかよって笑顔で、私が山奥から着てきた洋服を手渡してくれると、ふわふわの洗い上がり。お洗濯担当の女官さんが大切に扱ってくれたんだなぁ。

 お礼を言いに行きたいけど、そういうものでもないらしい。心の中で感謝。心の中が忙しい。

 若いお母さんなケレシアさん。明るいブラウンのふわっとした巻き髪が、陽の光に金色で輝いて透けて見える。

 アイカに近い年頃の娘さんもいる、……お母さん。


 ――嗚呼。リティアさんには、私のほしいもの、してほしいことを次々に見抜かれていく。


 侍女に専属の女官さんが付くのは異例のことらしい。私が13歳のお子さまだからこその計らいのようだ。

 お母さん――って呼びながら、そのほどよい胸に飛び込みたいよ。

 ほどよいは余計だな。うん、余計だ。

 その胸に飛び込んでいい娘さんは、別にいる。


「今日は側に置いておく? それとも、クローゼットに仕舞っておこうか?」

「あ……。今日は持ってます……」

「うん。分かった」


 心の中では、ケレシアさんのお美しさを褒めちぎってしまいますが……。

 美の女神さま……。まだ貴女の名前も覚えられてない私は、貴女のこと信じてないので、呪いもナシでお願いします。目の前に現れてくださったら、きっと貴女のことを一番に褒めちぎる私です。

 昨日、狩りから戻ってケレシアさんを紹介されて、それから更なる衝撃は、自室に立派な浴室が備えられていたことだった。


 ――自分の部屋に……、風呂だと……?


 一人で使うには広すぎる浴室。タロウとジロウも充分に洗える。侍女の待遇、良すぎませんか?

 と、驚いている私に、ケレシアさんが使い方を教えてくれて、クレイアさんとドーラさんも来てくれて、4人で素っ裸になって一緒にタロウとジロウを洗って、一緒に広い湯船に浸かった。

 たぶん、ドーラさんは狼たちを警戒して、念のため来てくれてたんだと思う。

 けど、アイドルグループでツンデレ担当してそうな幼い顔立ちのドーラさんが、実は31歳で5歳の息子さんがいるお母さんだって話に驚いたり、賑やかで華やかな美人さんたちの女子トークの輪に加わってる自分が不思議でならなかった。

 そして、いつの間にか、お母さんとお姉さんと、家族で一緒にお風呂に入ってるようにも錯覚してきて、なんだかとても満たされた。

 今も、女官のケレシアさん、侍女の先輩お姉さん2人。それに、隣の応接間にはタロウとジロウ――弟たちに、私が囲まれてる。かりそめの幻想だとしても、今が満たされることが、ひどく心地良いい。

 ふと、こみ上げてくるものを感じて、元の濃紺色が蘇った洗い立ての洋服に、思わず顔を埋めた。

 そんな私を包む、美人のお姉さんたちが顔を見合わせて、微笑み合ってるのが分かった。

 きっと今こそ、愛でたい、美しい表情をされてるに違いないのに、私はなかなか顔を上げることができなかった――。
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