【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第一章 王都絢爛

17.シュークリーム

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 いくつかの書類に目を通しサインすると、リティアは窓辺で紅茶を口にした。

 執務室からは王都に集まる神殿群が見える。聖山三六〇列侯が一堂に会し自らの神殿に参る祝祭、『総侯参朝』まで1ヶ月を切っている。

 期間中は王都の人口が20万人増える祝祭を控えて、自領の神殿の手入れに派遣される者たち、大道芸人、踊り巫女、それに各方面の大隊商たちが集まり始めており、活況を呈している。まもなく旧都から吟遊詩人たちも訪れ始めるだろう。


「それで、どう見た?」


 リティアが、執務室の一角に控えたクレイアに楽しげに問いかける。


「はっ。確かに王国のことや周辺国のことなどは、何も知らないようです。ですが、一般常識的なことは概ね身に付いていますし、教養を感じるところもあります」


 昨日から今朝にかけて観察していた、アイカの振る舞いを淡々と報告していく。


「幼い頃まで一緒だったという母親から教育されたものと推測されますが、あの純粋さが演技だとは思えません」

「そうか。クレイアにもそう映ったか」

「はい。申し添えますと、アイシェ殿もゼルフィア殿も同じ意見です。入浴の際に、着ていた服や持ち物を改めましたが、柄になんらかの紋様が刻まれた小刀のほかに怪しいものは見当たらず、それも母親が遺したというアイカ本人の説明に不審な点はありません」


 リティアは楽し気に、窓の縁に指を滑らせた。


「従いまして、現時点では他国や列侯から送り込まれた間諜という疑いはないかと」

「見た目のまま、ただ愛いヤツということだな?」

「そのように思います」


 クレイアは昨晩の大浴場でのアイカを思い出して、少しプルプルと震えたが主の御前であることから、すぐに動きを止めた。


「エカテリニ殿も、えらく気に入った様子だったな?」


 リティアは、今朝、王太子に随行してきた王太子妃エカテリニが、アイカに向けていた眼差しを思い返して頬を緩めた。


「女性に好かれるタチの娘でしょう」

「そうか。クレイアもそう思ったか?」


「はい」と、即座に力強く断言するクレイアに、お前もかとリティアが微笑みを重ねる。


「あの様子なら、女官たちの嫉妬に火が付くこともあるまい」

「恐らくは」

「煩わしいことよのう」


 と、言うリティアのまだ幼さの残る笑顔に、クレイアはむしろ頼もしさを感じる。

 およそ一年前、王都の無頼たちを管理し従える『無頼の束ね』の役目の新設を父王にねだったときは、ハラハラしたものであったが、見事に務めを果たしている。

 小さな身体のどこに、荒々しい無頼たちと渡り合う胆力を秘めているのかと不思議になる。が、天衣無縫と評される生まれ持った明るさで、無頼たちとウマが合ったのだろうと思う。

 王都で『無頼』はヤクザ者やチンピラだけを指す言葉ではない。数多くの隊商たちの荷下ろし、荷運びを担う働き手でもある。ただし、いつ到着するか分からない隊商たちからの仕事は不安定な日払いの力仕事でもあり、必然的にその日暮らしの荒くれ者ばかりになる。

 役目を賜ってすぐ、リティアは割拠していた無頼たちの元締を定めた。

 東街区の元締にチリッサ、北街区の元締にシモン、西街区にノクシアス。王都の南には人口に比して僅かな農地が広がるだけで、無頼たちは立ち寄らない。

 いずれもクセのある無頼の親分3人だが、うまく各街区の無頼たちを取りまとめさせた。

 ただ、少なくない無頼が反発したのは、散在していた賭場と妓館を、元締たちに整理させたことだ。

 そして、王都の者たちを驚愕させる事件が起きた。

 役目を賜ると同時に設立された第六騎士団1,000名の兵力をリティア自らが指揮して、従わない無頼たちを果断に討伐したのだ。

 戦後21年が経ったとはいえ、『聖山戦争』で王国や列侯の傭兵だった者もいる無頼たちは、決して弱くはない。所詮はお姫様のママゴトよと、冷めた目で見ていた者たちが一斉に、さすがは武力で統一を果たした陛下の娘よと、誉めそやした。

 結果、『無頼の束ね』は、いわば労働大臣であり、王都の治安維持を図る警視総監でもある役目として確立した。

 そして、経済産業大臣といえる『隊商の束ね』を務める王太子と連携し、王都を潤す莫大な経済活動を安定させることに成功した。昨晩、リティアがアイカに「王国は作りかけ」と言ったのは誇張でも謙遜でもなかった。街を潤す富が覆い隠しているが、まだまだ制度は未整備で社会は矛盾に満ちている。

 また、賭場と妓館からの『あがり』は、王室の新たな重要財源になった。

 それも、リティアは自らの懐には一切入れず、国庫に収めたことで名声を高めた。

 リティア自らが言い出し、一年に満たない期間で成し遂げたことは、15歳の第3王女の働きとしては過分すぎるほどであった。そんなリティアのことを、街の者たちが『天衣無縫の無頼姫』と呼ぶとき、愛慕の念と、少しの畏怖が込められている。

 いつもと変わらぬ楽し気な表情で窓の外を眺めるリティアの横顔に、クレイアは自らの誇りと忠誠心を見つけて止まない。

「よし」と、リティアは空になったティカップを置いた。


「私の狼少女に昼飯を届けてやろう」


 執務室を出ようとしたリティアが、クレイアに向き直った。


「そうだ。昼飯にはシュークリームを入れておくように言ってある」

「それは、楽しみですね」

「昨夜、ケーキをあれだけ美味しそうに食べられてはな」

「無心でしたね」


 二人は弾むように笑い合い、宮殿の執務室からアイカのいる郊外の森に向けて出発した。
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