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第一章 王都絢爛

9.緋色の花園(2) *アイカ視点

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 リティアさんに紹介してもらった侍女さんたちを、もう一度、確認する。はやく覚えなきゃね。

 紫ボブのアイシェさん……、白銀水色髪のゼルフィアさん……、それからブラウン銀髪のクレイアさんは、おっぱいが大きくて……。いや…………?


「ははははっ」


 と、リティアさんが我慢し切れないというふうに、快活な笑い声を上げた。


「胸の大きさで侍女を選んでいる訳ではないぞ、アイカ」

「あ、え、あ……」

「見過ぎだ」


 リティアさんは、まだ笑いが堪えられないのか顔を背けた。

 やってしまった。でも、3人とも大きいから。見てしまうよ。女同士でも。

 ううっ。顔を上げられない。


「殿下、笑い過ぎです」


 窘めてるのは、ゼルフィアさんの声かな。


「すまん、すまん」


 と、リティアさんが呼吸を整えてる。いきなり恥ずかしい思いをしてしまった。


「アイカは山奥で一人で育ったのだそうだ。つまりまあ、何も知らない訳だ。何を知らないかも知らない訳だ。アイシェ、ゼルフィア、クレイア。ゆっくりでいいから色々教えてやってくれ」


「はっ」と、3人がリティアさんに頭を下げる。たぷん。いや、たぷんじゃねぇ。慣れよう。なるべく早く慣れよう。


「それから、改めて右衛騎士のクロエだ。衛騎士というのは、要するに王族を護衛する腕利きの騎士だ」


 クロエさんが小さく会釈してくれた。

 漆黒のツヤ髪が目にかかってて気付かなかったけど、瞳が燃えるような赤色してる。ぺたんこ……。いや、そういうこと考えるの良くない。


「ア……、アイカです……。よろしくお願いします……」


 よく言えた、私。

 スクールカースト一軍のさらに上位みたいなキラキラな人たちに囲まれて、ちゃんと挨拶できたよ。えらいな、私。

 タロウの鼻がプスリと鳴った。

 タロウとジロウの狼二頭は、ふかふかの絨毯の上で気持ち良さそうに寝そべってる。順応、早いな! お前たちそういう感じだったのか。知らなかったよ。もっと野性味あふれる子たちだとばかり思ってた。

 リティアさんが身を乗り出すようにして、優しい口調で話しを続けてくれた。


「ややこしいことは追い追い覚えてもらったらいいが、ここは宮殿の中でも私と侍女たちのプライベートなエリアだ。寝殿とか奥殿とか呼ぶが、男は入らせない。ここではクロエだけが私の護衛に付いている」


 クロエさんお強いんですね。華奢に見えるけど、よく見ると締まった身体つき。


「ところで王宮は、いわば宮殿の集合住宅になっている」


 どういうこと?


「宮殿の上に宮殿を積み重ねたような『つくり』になっていて、この南宮8階にあたる私の宮殿は私だけの建物だ。つまり、他の王族や陛下でさえ勝手に入ってくることはない。とりあえず、ここにいる私も含めた5人のことだけ覚えておけば大丈夫だ」


 なんだか感動してしまった。

 理由は分からないけど、とことん私の気持ちに気を遣ってくれてる。山奥で独りだった私が、いきなり大人数に接することを怖がってること、見抜いてくれてた。

 アイシェさん、ゼルフィアさん、クレイアさんも微笑んでくれてる。

 黒髪のクロエさんは、きっとあれは笑顔なんだ。不器用なタイプの美人さんもキライじゃないです。むしろ、愛で甲斐があります。


「いきなり大仰な場所に来させてしまった。慣れないことばかりだろうが、なにかあればまず、侍女の3人を頼れ。もちろん、私でもいい」

「は、はい……」


 リティアさんは破壊力抜群の美少女スマイルのまま、視線を落とした。


「しかし、タロウとジロウは随分くつろいでいるな。一番の心配があっという間に消えたぞ」

「それは、私もです……」


 緋色の絨毯に大きな身体の狼が二頭、我が物顔に寝そべってる。いや、むしろ狼の身体が小さく見えるくらいに部屋が広い。

 今日の午前中まで、基本野宿のサバイバル生活だったのが嘘みたいだ。


「タロウとジロウは、身体を洗ってやっているのか?」

「あ、はい。泉の側で生活してたので、よく水浴びはさせてました」

「そうか。では腹も減っているだろうが、夕飯の前に一緒に風呂に入ろう。アイカも旅の疲れを落とすといい」


 え? 風呂?

 一緒に? 誰と誰が?

  私とタロウとジロウが一緒に、ってことですよね?


「西域の技師を呼んで作らせた自慢の大浴場があるんだ。建設に5ヶ月もかかって陛下にも呆れられてしまったがな」


 だ、大浴場ですか……。


「よし、行こう。タロウとジロウも起こしてやってくれ」
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