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8.言いにくいんだけどね……

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――あ~、これは死んだわ。


と、冷静に思うわたしが約10%。

のこり90%は、ただただ怯えていた。

ビルかマンションかと見上げた帆船カーニャ号は、上に下に右に左に、とにかくグチャグチャに揺れている。

季節はずれだという嵐に翻弄されて、ベッドの縁にしがみついているのが精一杯。

神や仏はもちろん、亡くなったお母様に祈る余裕もない。

ただ、リアを部屋に帰したことは後悔していた。


――せめて、ひとりでなければ……。口を開けば舌を噛みそうだけど、せめて手を握り合っていられたら……。


窓に打ち付ける激しい雨音、風音にまじって、かすかに女船員さんたちの怒鳴り声が聞こえる。

その声が悲壮な響きを帯びていないことだけが救いだ。

きっと経験に基づいて冷静に対処してくれている。


――大丈夫、大丈夫。


と、自分に言い聞かせながら、右に左に揺らされ、上に下に跳ねさせられる。

だけど――、


――船は沈むだろ?


と言った時の、シエナロッソの食堂のおかみさんの顔も思い出してしまう。

それを、カーニャ号にお墨付きを出してくれた造船ギルドの親方のいかつい顔で上書きする。

いまは親方も認めたプロの船員さんたちを信じて、わたしは怪我などして仕事を増やさないようにと、必死でベッドにギュウッとしがみつく。

と、そのとき――、


バターンッ!!


と、ドアがおおきな音をたてて開き、ビュウッとつよい風が顔に吹き付けた。


――し、閉めなきゃ……。


どうにかわたしが顔をあげると、入口にはビットが立っていた。

強風にあおられて柱をつかみながら、いつもの軽薄な笑顔を浮かべてた。


「カーニャ~、大丈夫~?」

「あ……」

「ごめんごめん。喋らなくていいよ~。舌を噛んじゃうよね~」


と笑いながらビットがドアを閉めると、船室に吹き込む風がやんだ。

激しい揺れのなか、そおーっと近付いてくるビット。


「となりに座っても?」


と微笑むビットに、コクコクうなずいた。

ベッドの上に腰を降ろしたビットは、やさしくわたしの手を握ってくれた。


――そこは許可とらんのかい!?


と思ったけど、ひどく気持ちが落ち着いたのも確かだ。

ただし、これ以上のエスカレートはお断りだぞ……。

わたしの気持ちを知ってか知らずか、ビットは微笑みを絶やさず、ギュッと握った手に力を込めた。


「もう大丈夫。ひと山越えたから、ルチアに任せてきた」


――ええ~っ!? まだ、すごく揺れてますけど!?


わたしの表情に気が付いて、ビットは頭をかいた。


「うん……。まだ揺れてるけど、もう少ししたら収まるよ」

「そう……」


かろうじて声を出してみる。


「そうそう、上手。揺れは激しいけど、規則性がないわけじゃない。そーっと喋れば舌を噛まないよ?」

「う、うん……」

「よ――っし! この嵐を無事に乗り越えたら、ふたりで結婚しよう!!」

「はあ!? ……それはわたしの気持ち以前に、そもそもズルくない?」

「え? なにが?」

「いまビット自身が『ひと山越えた』って言ったところでしょ? ほぼ確定じゃない」

「あ、バレたか」

「なんで、バレないと思うのよ?」


ビットがずっと握り続けてくれてる手が温かくて、すこし手汗が気になるほど。

ただ、いつものようなビットの軽口が、だんだんわたしの呼吸を落ち着かせてくれる。

そして、予想しなかった訳ではないけど――、


「キャッ!」


と、揺れでバランスを崩してビットに抱き止められた。

なんか知ってる。こういう展開。転生した乙女ゲームがどうとかじゃない。こういうとき、こうなる的な……?

もちろん、まんまとわたしはビットの胸板にドキッとした。

自分の頬が赤らむのも分かる。

けど、ビットはいつもの調子で、かる~く言う。


「まあ、いいんじゃない? こうしてたら?」

「え……? あ、いや……」

「ん~? 何度でも僕の胸に飛び込んで来たい? んもー、しょうがないな~」

「ちがうわよ」

「……だったら、こうしてなよ。これが一番、安定してると思うけど?」

「そ、そうね……」


密着するビットの胸板は気恥ずかしいし、その胸のなかでグワングワン揺られつづけるし、

しばらくわたしは黙りこくってしまった。

とはいえ、外から聞こえる嵐の音は激しいままだし、

ビットの見た目よりガッシリした両腕が、しっかりとわたしを固定してくれている安心感もあって――、

わたしの心のなかは、嵐よりも大嵐に忙しい。

あごも使って頭を固定してくれてるので、顔を見られないことだけが救いだ。

自分でもどんな顔をしてるのか、まったく分からない。

ふっと、ビットが笑った。


「黙ってると、いろいろ考えちゃうよね?」

「えっ? いや、えっと……、そ、そうね」

「なにか、お話しようよ」

「う、うん……。それがいいかも」

「カーニャは、なんのお話がいい?」

「え? ……わたし、すこし気が動転してるから、ビットが考えてくれると嬉しいな」

「ええ~っ!?」

「ビットがしたい話でいいよ」

「そっか……。う~ん、じゃあ昔の恋人の話!」

「……はあ?」

「カーニャに今、恋人がいないのは聞いたよ? だから、昔の恋人の話が聞きたいな」

「えっ!? ……わたしの?」

「うん。カーニャが、どんな人に惹かれるのか知りたい」


ど、どういう……。

逆に落ち着くわ。


「いないのよ」

「え?」

「い・な・い・の。……わたし、男性と交際したことがないの」

「ええ~っ!! フェルスタインの男は、みんな目が節穴なのかい!? それで、ラヴェンナーノまで足を伸ばしたの?」

「ちょっと、ビット……」

「なに?」

「……言いにくいんだけどね」

「う、うん……」


生唾を飲み込むビット。

しかし、申し訳ないけどそんな話ではない。


「頭の上で、そんなに大口あけられたら、あごが刺さって痛いんだけど……」

「あっ……、ごめん……」

「ううん、わたしを庇ってくれてるのに、なんかごめんね」

「あご……、どけようか?」

「う、ううん……。わがまま言っていいなら、それはそれで首が楽なの……」

「そっか、じゃあヒソヒソ話すよ」


と、ビットはわたしの頭にあごを着けたまま、耳元に口をよせた。


「これだと、大丈夫?」

「……は、はい」


耳に直接吹きかかる吐息と、澄んだウィスパーボイス。

正直、頭が真っ白になって、この後なにを話したのか、ほとんど覚えてない――。


   Ψ


船長ルチアさんのハスキーボイスが、船橋から響いた。


「陸地が見えたぞ――っ!!」


おおーっ! という歓声がおきて、みんなが甲板に集まる。

わたしはリアと一緒に船橋に出て、ルチアさんの持つ望遠鏡をのぞかせてもらう。


「……ロッサマーレだ」


ミカン畑は緑一色。

よーっく目を凝らすと、たぶんまだ緑色の実がなってる。

リアにも見せてあげてから、ルチアさんに望遠鏡を返す。

三角帽子をクイッと上げたルチアさんが、わたしの顔を見上げた。


「間違いないですか?」

「ええ、間違いないわ。お母様の……、わたしの山荘も確認できました」


嵐で航路がそれた帆船カーニャ号は、予定より4日遅れの14日でロッサマーレに着こうとしている。


正直、嵐が去った瞬間というのはよく分からない。


揺れが収まって来て、わたしの船室をのぞきにきたリアの心配そうな声がして、バッとビットの胸の中から離れたことだけは、よく覚えてる。

甲板に出たら、まるで嵐なんか来なかったみたいに、雲の晴れた青い空にあかるい日差しが戻っていた。

ただ、足下にはいろんなものが散乱していて、凄まじい嵐の痕跡に身震いする。

だけど、女船員さんたちの表情はみんな明るくて、笑い合いながら掃除をはじめてた。


――プロはすごいなぁ……。


と、感動しながら、みなさんの労をねぎらって回った。

料理長がみんなのご褒美にと出してくれたのが甘いお菓子で、そのあたりカーニャ号は女子の花園なんだなと、妙に感心してしまった。


「船主様も一緒に食べようよ! 侍女様もご一緒に!」


と、声があがり、船室で震えてただけのわたしとリアも混ぜてもらう。


「いや~、久しぶりに空を舞いました~!」

「だけど、握ったロープを離さなかったのはエライ!」


などと、甲板で起きてた話を聞かせてくれて、わたしもリアも「へぇ~!」としか返せない。

ほんとうに、頼れる素晴らしい船員さんたちばかりだ。

おなじ女性として敬服するしかない。

ちなみに、数少ない男性船員や帝国騎士さんたち、それに桟橋づくりの職人さんたちは食堂の隅っこで酒盛りだ。

それはそれで楽しそうだし、そちらに混じる女船員さんもいる。

ただ、ビットのいる方は真っ直ぐ見ることが出来ない。


――ず、ずっと抱き締めてもらってたしなぁ……。


顔が火照るのを、みんなに悟られないようにするだけで必死。

とにかく、なごやかな時間がながれて、あの嵐を乗り越えたことを、みんなで喜び合った。


日が落ちると、船長のルチアさんが象限儀しょうげんぎを使って、星々の高度から正確な位置を割り出す。

作業を見せてもらい「へぇ~!」と、うなった。


「へへへ。そんなに褒められると照れちゃいますね」


と、小麦色のほほを赤くするルチアさんは、ちょっと可愛い。

だいぶ流されてたみたいだけど、ルチアさんの見事な指揮で、ついにロッサマーレに到着した――。


   Ψ


小舟をおろし、まずリアと桟橋づくりの職人さんたちが入り江に向かう。

リアが説明に走らないと「侵略される!」と、住民がパニックになりかねない。

わたしが行くと言ったのだけど、


「カロリーナ様。さすがに、それでは私の立場がありません」

「……そんな、大げさな」

「いえ。カロリーナ様は、帆船カーニャ号から堂々と上陸されるべきです。露払いは私にお任せください」


と、リアに押し切られてしまった。


――いちばん最初に伝えたかったんだけどなぁ~。


というのは、公爵令嬢というわたしの立場を考えれば、逆に『わがまま』というものなのだろう。

颯爽と小舟の舳先に立つリアの、真っ直ぐ伸びた腰細な背中と、潮風に揺れる黒髪のポニーテールを見送った。


「ドキドキしちゃうね~」


と、わたしの横にビットが立った。

ビットの調子は嵐の日を過ぎてもちっとも変わらず軽薄で、わたしだけ意識するのがだんだん馬鹿らしくなってた。

でも、ここまでたどり着けたのは全部、このナンパで軽薄な男爵のお陰だ。


「……ほんとに、ありがとう。ビット」

「ん~? じゃあ僕とデートしてくれる?」

「もう。……ずっと船上デートしてたみたいなものでしょ?」

「あ、そっか」


わたしも調子を戻して、意地悪な笑顔を返してしまう。


「だけど、みんながいたでしょ? ふたりでお出かけしたいなぁ~」

「じゃあ、ミカン畑に案内するわ」

「ほんとう?」

「花は散っちゃったけど、あのミカン畑のために、わたし航海してきたの」

「そ、それは、亡くなられたお母様に僕を紹介してくれる……、的な?」

「全然ちがう」


スンとした顔をつくって見せたけど、


――そうね。お母様に紹介したいわ。ミカン畑を守ってくれた恩人としてね。


と、すこし胸が高鳴るのを感じてた。

やがてリアが小舟で戻ってきて、


「住民たちには周知いたしました」


と、キラキラした瞳で報告してもらう。

クールなリアのこんな高揚した表情は初めて見たかもしれない。

わたしの気持ちもグンッと高まる。

入り江の奥へとカーニャ号を進め、桟橋づくりの資材を降ろす。

そして――、

わたしは約3か月半ぶりに、ロッサマーレの土を踏んだ。

季節は盛夏。

最高の夏を迎える予感に、ほほを伝う汗が気持ちよかった――。
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