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番外編
コロール・カルデロンの大冒険⑥
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「コロールも食べるか?」
と、ミゲルお兄ちゃんが、蜂蜜たっぷりのパンをさし出してくれました。
私がパトリシア夫人の顔を見ると、
パトリシア夫人はニッコリ笑われて、ミゲルお兄ちゃんからパンを受け取り、先にひと口食べてくださいました。
「う~ん。すごく美味しいわね! はい、コロールもどうぞ」
「……はい」
「どうしたの、コロール? 変な顔して?」
「……パトリシア夫人はいま、毒見をしてくださったんですよね?」
「そうだけど……、コロールの従兄弟を疑ってるみたいでイヤだった?」
「……パトリシア夫人は、そりゃむかしは色々あったかもしれませんけど……、いまはマダレナ陛下と仲良しの妹君で、大切な方なのに……、わたしの毒見なんかさせてしまって……」
「バカね。コロールは、ルシア公爵閣下とマダレナ姉様から私に託された、大切な娘で代理公爵様なの。毒見くらいするわよ。はい。美味しいわよ? パン」
パトリシア夫人から受け取ったパンをひと口かじると、蜂蜜の甘さがすごく濃くて、自分でも現金だと思いましたけど、わたしはたちまち笑顔になってしまいました。
「美味し――っ!! なにこれ? なんで、この蜂蜜こんなに甘いの~っ?」
「はははっ。採れたてをこっそりパンに塗ったんだよ。おじいちゃんには内緒にしといてくれよ? ほんとうは売り物なんだ」
と、ミゲルお兄ちゃんは片目をつむって、ニコッと笑ってくれました。
「いけないんだぁ~、お兄ちゃんたちぃ~」
「はははっ。このくらいの役得がないと、畑仕事はしんどいんだよ」
ミゲルお兄ちゃんは帝都にいた頃と変わらない雰囲気でわたしに話しかけてくれますが、弟のダニエルお兄ちゃんはうつむいたままです。
やっぱり、お母さんが追放してしまったことが気に入らないんでしょうか?
パトリシア夫人が敷物を敷いてくださって、ミゲルお兄ちゃんの隣に腰を降ろしました。
「いいなぁ~、採れたての蜂蜜。ミゲルお兄ちゃんたちは毎日食べてるの?」
「毎日じゃないよ。そんなに食べたら、おじいちゃんにバレてしまう」
「ふふっ、そっかぁ~。……あ~あ。蜂蜜がこんなに美味しいんなら、わたしがこっちに引っ越して来ようかなぁ~」
ついさっきまでの「すごい功績」の話はすっかり忘れて、わたしの頭のなかは美味しい蜂蜜の甘さでいっぱいです。
トロ~ンとした目付きになっているのが、自分でも分かりました。
だけど、ダニエルお兄ちゃんが低い声で――、
「……よせよ」
と、わたしに言いました。
「どうして? ダニエルお兄ちゃんが食べられる蜂蜜が減るから?」
「そんなんじゃねぇよ。……コロールにはコロールで、帝都でやるべきことがあるだろ?」
「……わたしが帝都でやるべきこと? ……なんだろ?」
ふてくされたように顔を背けたダニエルお兄ちゃんの頭を、ミゲルお兄ちゃんがワシッとつかみました。
「ダニエルはダニエルで、ルシア叔母さんとコロールに申し訳ないって思ってるんだよ」
「……申し訳ない?」
「俺たちが、迷惑かけちゃったからね」
と、ミゲルお兄ちゃんは、自分の鼻の頭をポリポリとかきました。
「……ウチの親は、両親とも働いたことがないんだ」
「ふ~ん……」
「ずっと、ルシア叔母さんの白騎士や公爵としての手当てがあったからね」
「……うん」
「……俺たちは南西サビアに来て、おじいちゃんの畑仕事を手伝ってるうちに、だんだん働くってことが分かってきたけど、親父もお袋も全然だからさ……」
「……そうなんだ」
「余計に、帝都にいた頃は悪かったなぁって……、いつもふたりで話してたんだ。な、ダニエル」
「ああ……。すまなかったな、コロール」
「わたしは、まだ子どもだからよく分からないけど……」
「……ルシア叔母さんに、よく謝っておいてくれ。ダニエルとミゲルが、謝ってたって」
「うん、分かった。必ず伝えるよ」
と、わたしがうなずくと、ダニエルお兄ちゃんは照れくさそうにほっぺたを赤くして、またうつむいてしまいました。
ミゲルお兄ちゃんは、そんなダニエルお兄ちゃんの頭をかるく小突いて、笑っています。
「コロールの噂は、南西サビアにも届いてるんだぜ?」
「ええ~っ!? わたしの噂ってなによぉ~!?」
「ヴィトーリア第1皇女殿下の親友、コロール・カルデロンとハファエラ・エスコバルは、次代を担う側近になるに違いない……、ってな」
「ただの幼馴染ってだけだよぉ~」
「……このまま弟君ができなければ、ヴィトーリア殿下が帝国初の女帝として即位されることになるだろ? そしたら、女性の側近も必要になるんじゃないか?」
「そ、そうかもねぇ~」
「たとえ弟君ができても、英明なヴィトーリア殿下は叔母上のロレーナ殿下のように帝政で重きをなされるだろうし」
「そ、そうだねぇ~」
「英明なるヴィトーリア殿下の両脇には、慈悲のコロールと忠義のハファエラがいつも控えてる。……って噂だぜ?」
「……や、やめてよぉ。そういうのぉ~。わたしたち、まだ10歳だよぉ~?」
「……南西サビアから応援してるよ。コロールの活躍」
「ミゲルお兄ちゃん……、帝都にいる人より詳しいんじゃない?」
「はははっ。田舎にいると、こんな噂話で盛り上がるんだよ。帝都にいるころは、恐れ多くて出来なかった話だけどね」
「そ、そうだよぉ~、恐れ多いよぉ~」
「太陽皇后マダレナ陛下のひとり娘ってだけで、ヴィトーリア殿下はいつも帝国中の注目の的だからな。ご親友の噂も一緒に流れてくるさ」
「う、う~ん……」
「……いまは、みんな太陽皇后マダレナ陛下に憧れて、成り上がってやろうってヤツばかりの世の中だ」
「う、うん……」
「だけど、そのうちみんな気が付く。……マダレナ陛下が特別も特別、大々々々特別だったんだって」
「……うん」
「俺たち兄弟は、ひと足先に気が付いちまった」
と、ミゲルお兄ちゃんはひまわり畑を見渡しました。
帝都にいた頃より、腕が太くなったみたいで身体全体もガッチリして見えます。
「……まだ、ひまわり農家も満足に出来てない。ふたりとも、マダレナ陛下が公爵に叙爵されたあの伝説の園遊会で、太陽皇后予定者になられた歳を追い抜いてるのにだぜ? 絶対に叶うわけがない」
「だけど、おふたりのひまわり畑は、手入れがとても行き届いていますわ」
と、パトリシア夫人が微笑まれました。
ミゲルお兄ちゃんと、顔をあげたダニエルお兄ちゃんのほっぺたがポッと赤くなったので、
パトリシア夫人の可愛らしさに、ハートを撃ち抜かれたんだと思います。
見慣れた風景です。
特に気にする様子もないパトリシア夫人のお話に、お兄ちゃんたちと一緒に耳を傾けます――。
と、ミゲルお兄ちゃんが、蜂蜜たっぷりのパンをさし出してくれました。
私がパトリシア夫人の顔を見ると、
パトリシア夫人はニッコリ笑われて、ミゲルお兄ちゃんからパンを受け取り、先にひと口食べてくださいました。
「う~ん。すごく美味しいわね! はい、コロールもどうぞ」
「……はい」
「どうしたの、コロール? 変な顔して?」
「……パトリシア夫人はいま、毒見をしてくださったんですよね?」
「そうだけど……、コロールの従兄弟を疑ってるみたいでイヤだった?」
「……パトリシア夫人は、そりゃむかしは色々あったかもしれませんけど……、いまはマダレナ陛下と仲良しの妹君で、大切な方なのに……、わたしの毒見なんかさせてしまって……」
「バカね。コロールは、ルシア公爵閣下とマダレナ姉様から私に託された、大切な娘で代理公爵様なの。毒見くらいするわよ。はい。美味しいわよ? パン」
パトリシア夫人から受け取ったパンをひと口かじると、蜂蜜の甘さがすごく濃くて、自分でも現金だと思いましたけど、わたしはたちまち笑顔になってしまいました。
「美味し――っ!! なにこれ? なんで、この蜂蜜こんなに甘いの~っ?」
「はははっ。採れたてをこっそりパンに塗ったんだよ。おじいちゃんには内緒にしといてくれよ? ほんとうは売り物なんだ」
と、ミゲルお兄ちゃんは片目をつむって、ニコッと笑ってくれました。
「いけないんだぁ~、お兄ちゃんたちぃ~」
「はははっ。このくらいの役得がないと、畑仕事はしんどいんだよ」
ミゲルお兄ちゃんは帝都にいた頃と変わらない雰囲気でわたしに話しかけてくれますが、弟のダニエルお兄ちゃんはうつむいたままです。
やっぱり、お母さんが追放してしまったことが気に入らないんでしょうか?
パトリシア夫人が敷物を敷いてくださって、ミゲルお兄ちゃんの隣に腰を降ろしました。
「いいなぁ~、採れたての蜂蜜。ミゲルお兄ちゃんたちは毎日食べてるの?」
「毎日じゃないよ。そんなに食べたら、おじいちゃんにバレてしまう」
「ふふっ、そっかぁ~。……あ~あ。蜂蜜がこんなに美味しいんなら、わたしがこっちに引っ越して来ようかなぁ~」
ついさっきまでの「すごい功績」の話はすっかり忘れて、わたしの頭のなかは美味しい蜂蜜の甘さでいっぱいです。
トロ~ンとした目付きになっているのが、自分でも分かりました。
だけど、ダニエルお兄ちゃんが低い声で――、
「……よせよ」
と、わたしに言いました。
「どうして? ダニエルお兄ちゃんが食べられる蜂蜜が減るから?」
「そんなんじゃねぇよ。……コロールにはコロールで、帝都でやるべきことがあるだろ?」
「……わたしが帝都でやるべきこと? ……なんだろ?」
ふてくされたように顔を背けたダニエルお兄ちゃんの頭を、ミゲルお兄ちゃんがワシッとつかみました。
「ダニエルはダニエルで、ルシア叔母さんとコロールに申し訳ないって思ってるんだよ」
「……申し訳ない?」
「俺たちが、迷惑かけちゃったからね」
と、ミゲルお兄ちゃんは、自分の鼻の頭をポリポリとかきました。
「……ウチの親は、両親とも働いたことがないんだ」
「ふ~ん……」
「ずっと、ルシア叔母さんの白騎士や公爵としての手当てがあったからね」
「……うん」
「……俺たちは南西サビアに来て、おじいちゃんの畑仕事を手伝ってるうちに、だんだん働くってことが分かってきたけど、親父もお袋も全然だからさ……」
「……そうなんだ」
「余計に、帝都にいた頃は悪かったなぁって……、いつもふたりで話してたんだ。な、ダニエル」
「ああ……。すまなかったな、コロール」
「わたしは、まだ子どもだからよく分からないけど……」
「……ルシア叔母さんに、よく謝っておいてくれ。ダニエルとミゲルが、謝ってたって」
「うん、分かった。必ず伝えるよ」
と、わたしがうなずくと、ダニエルお兄ちゃんは照れくさそうにほっぺたを赤くして、またうつむいてしまいました。
ミゲルお兄ちゃんは、そんなダニエルお兄ちゃんの頭をかるく小突いて、笑っています。
「コロールの噂は、南西サビアにも届いてるんだぜ?」
「ええ~っ!? わたしの噂ってなによぉ~!?」
「ヴィトーリア第1皇女殿下の親友、コロール・カルデロンとハファエラ・エスコバルは、次代を担う側近になるに違いない……、ってな」
「ただの幼馴染ってだけだよぉ~」
「……このまま弟君ができなければ、ヴィトーリア殿下が帝国初の女帝として即位されることになるだろ? そしたら、女性の側近も必要になるんじゃないか?」
「そ、そうかもねぇ~」
「たとえ弟君ができても、英明なヴィトーリア殿下は叔母上のロレーナ殿下のように帝政で重きをなされるだろうし」
「そ、そうだねぇ~」
「英明なるヴィトーリア殿下の両脇には、慈悲のコロールと忠義のハファエラがいつも控えてる。……って噂だぜ?」
「……や、やめてよぉ。そういうのぉ~。わたしたち、まだ10歳だよぉ~?」
「……南西サビアから応援してるよ。コロールの活躍」
「ミゲルお兄ちゃん……、帝都にいる人より詳しいんじゃない?」
「はははっ。田舎にいると、こんな噂話で盛り上がるんだよ。帝都にいるころは、恐れ多くて出来なかった話だけどね」
「そ、そうだよぉ~、恐れ多いよぉ~」
「太陽皇后マダレナ陛下のひとり娘ってだけで、ヴィトーリア殿下はいつも帝国中の注目の的だからな。ご親友の噂も一緒に流れてくるさ」
「う、う~ん……」
「……いまは、みんな太陽皇后マダレナ陛下に憧れて、成り上がってやろうってヤツばかりの世の中だ」
「う、うん……」
「だけど、そのうちみんな気が付く。……マダレナ陛下が特別も特別、大々々々特別だったんだって」
「……うん」
「俺たち兄弟は、ひと足先に気が付いちまった」
と、ミゲルお兄ちゃんはひまわり畑を見渡しました。
帝都にいた頃より、腕が太くなったみたいで身体全体もガッチリして見えます。
「……まだ、ひまわり農家も満足に出来てない。ふたりとも、マダレナ陛下が公爵に叙爵されたあの伝説の園遊会で、太陽皇后予定者になられた歳を追い抜いてるのにだぜ? 絶対に叶うわけがない」
「だけど、おふたりのひまわり畑は、手入れがとても行き届いていますわ」
と、パトリシア夫人が微笑まれました。
ミゲルお兄ちゃんと、顔をあげたダニエルお兄ちゃんのほっぺたがポッと赤くなったので、
パトリシア夫人の可愛らしさに、ハートを撃ち抜かれたんだと思います。
見慣れた風景です。
特に気にする様子もないパトリシア夫人のお話に、お兄ちゃんたちと一緒に耳を傾けます――。
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