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番外編

コロール・カルデロンの大冒険④

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フリアさんは、超絶美少女です。

お子さんもいらっしゃるのに、美少女としか表現できません。

しかも、マダレナ陛下の大功臣でいらっしゃるのに叙爵を固辞されて、故郷のお風呂屋さんに嫁がれたとても謙虚な人です。


「フリアの功には報いてあげたいけど、平民に大金を渡しちゃうとねぇ……。揉め事のもとにもなりかねないし」


と、マダレナ陛下は、フリアさんが嫁いだお風呂屋さんの大改修をしてあげたんだそうです。

すごく立派なお風呂屋さんはサビア名物のひとつになって、マダレナ陛下のご推薦で〈マダレナ母の会〉の会場にもなりました。

エレオノラ会長閣下やエレナ皇太后陛下、イシス太皇太后陛下が足を運ばれることもあって、フリアさんのお風呂屋さんは、いつも大繁盛しています。

ちなみに〈皇太后〉とは皇帝のお母さん、〈太皇太后〉とはお祖母さんに贈られるのが一般的な称号ですが、

アルフォンソ陛下がご即位されるときに、一悶着ありました。


「いつまでも〈ツイン〉では申し訳ない」


と仰られる、エレナ陛下と、


「アルフォンソ陛下の母親は、エレナ陛下ではないか」


と仰られる、イシス陛下とで〈皇太后〉の譲り合いになってしまったのです。


「お養母かあ様にお義母かあ様。仲睦まじきことは喜ばしいのですが、いつまでもそれでは周りが困ります」


と、ピシャリと仰られたマダレナ陛下の裁定で、いまの形に決まりました。

アルフォンソ陛下はずっとニコニコされていて、先帝イグナシオ陛下はずっとオロオロされているなか、

マダレナ陛下の気の強さ……、いえいえ、リーダーシップがひかる一場面でした。


サビアの主城は〈ひまわり城〉と呼ばれる、白と金に統一された、とてもキレイで立派なお城です。

わたしはパトリシア夫人と一緒に、一旦、〈ひまわり城〉に入り、代理公爵としての拝礼を受けます。


「それではコロール代理公爵閣下。せっかくの機会ですからサビアの巡察に出かけましょうか?」


と、サビアと一緒に南西サビアも代官として統治してくださるフリアさんが微笑んでくれて、わたしはようやくおじいちゃんの家に向かうことが出来ます。

血のつながった家族とはいえ、公爵令嬢のわたしが、追放された平民に会いに行くのには、それなりの手順を踏む必要があるのだと、

侍女長のベアトリス夫人から説明されていました。


「私とフリア。どっちが可愛らしい?」


と、パトリシア夫人が聞いてきますが、なんというか〈種類〉が違うと思うので、わたしでは答えようがありません。

パトリシア夫人は可愛らしくて、フリアさんは美少女です。

けど、この違いをわたしでは、まだうまく言葉にすることができません。

ちなみに、太陽帝国の〈可愛らしい界〉では、パトリシア夫人とパウラ夫人が同率1位だと、わたしは思っています。

パトリシア夫人には内緒です。

フリアさんに乗馬を教えてもらいながら、ちいさく花をつけはじめたひまわり畑を通って、南西サビアへと向かいます。


「おおお~~~っ。コロール、おおきくなったなぁ~~~っ!」


と、ひまわり畑の真ん中で手を振ってくれたおじいちゃんは、奇妙な格好をしていて、わたしは思わず逃げ出しそうになりました。

黒っぽい縞模様のぶ厚い革の服を着ていて、なんだか妙な儀式でもやってるみたいです。


「あ~、こっちに来たらダメだよ。儂がそっちに行くから、ちょっと待ってておくれ」


というおじいちゃんの周りには、蜂がいっぱい飛んでいます。

フリアさんが馬を寄せて、わたしに微笑んでくれました。


「ああして、蜂蜜を集めているのよ?」

「へぇ~っ! 蜂蜜!?」

「コロールは、蜂蜜が好きみたいね」

「はいっ! 甘くて大好きです!!」

「ひまわりから採れる蜂蜜は、フルーティで甘みが濃厚なのよ? あとで、おじいさまに分けてもらいましょう」


ふた晩だけですが、おじいちゃんの家に泊まることが許されて、フリアさんは護衛の騎士を残されて〈ひまわり城〉に戻られました。

わたしは久しぶりにおじいちゃんたちと一緒に、晩御飯をいただきます。

おばあちゃんは、


「ルシアに早く帝都に戻せって、コロールからも言ってやってよ」


と、唇をとがらせて、わたしを困らせます。

だけど、わたしの代わりに、パトリシア夫人がおばあちゃんの相手をしてくださいました。


「すぐにでも呼び戻していただけると思いますわ。……みな様に帝国の貴族に相応しいふる舞いが身につけば」

「貴族に相応しいって言ったってねぇ……」

「私も苦労しましたのよ? マダレナ姉様から色々と教わって」


おばあちゃんは不満げに黙ってしまいましたけど、おじいちゃんはニコニコとわたしの相手をしてくれます。

わたしが帝都で住んでいる邸宅とは比べものにならない、土壁のちいさな民家ですけど、おじいちゃんは楽しそうにしています。


「ルシアのおかげで農地を分けていただいて、いつも家族一緒にいられる。おじいちゃんに不満はないよ」


日焼けで真っ黒になった顔をシワだらけにして、満足そうに何度もうなずいています。

おばあちゃんも伯父さんと伯母さん夫婦も不満そうですけど、可愛らしく笑ってるパトリシア夫人の手前でしょうか、文句を口に出すことはありませんでした。

夜はちいさなお部屋で、パトリシア夫人とならんで寝ます。

初めて来たとはいえ、わたしにはおじいちゃんの家です。

だけど、パトリシア夫人には縁もゆかりもない平民のちいさな家、それも農地の土の匂いのする家なのに、

パトリシア夫人は、なんの不平も仰らず、にこやかにわたしの横で寝てくださいます。


「私もむかし、こんな家で寝起きしてたことがあったのよ?」

「へぇ~? パトリシア夫人がですか?」

「マダレナ姉様から逃げて旅してるときね。……あれはあれで、楽しかったわね」

「……パトリシア夫人は、マダレナ陛下と大喧嘩してたんですよね?」

「ええ、そうよ」

「どうやって仲直りしたんですか?」

「ふふっ。……コロールはお母さんとおばあちゃんに、仲直りしてもらいたいのね?」

「……そうなんです」

「そうねぇ~。コロールがもう少し大きくなって、ふたりの間を取り持てるようになれるといいかな?」

「そんなの、ムリですよ……。お母さん、すごく怒ってるし……、なのに、おばあちゃんは全然変わらないし……」

「ニコニコしてることね」

「……ニコニコ?」

「ふたりが喧嘩してるのが馬鹿らしくなるくらいに、コロールがニコニコしてるのがいいわね」

「ニコニコかぁ~」

「そうよ。アルフォンソ陛下みたいにね」


翌朝には、おじいちゃんがちかくの川へと、魚釣りに連れて行ってくれました。

川面から反射するひかりが、おじいちゃんの真っ黒な顔にふわふわと反射するなか、


「……ウチの家族は、ずっとルシアの世話になりっぱなしなんだよ」


と、おじいちゃんは、すこし切なそうに目をほそめました――。
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