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番外編

コロール・カルデロンの大冒険③

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ヴィトーリア第1皇女殿下は、お母様であるマダレナ陛下に相談してくださり、

わたしを代理公爵として帝国東方に、ひとりでお遣いに行かせてくださることになりました。


――おじいちゃんに会いたいなぁ~。


という、わたしの願いを叶えるために、東に行く用事をつくってくださったのです。

一応、お母さんも誘ったのですが、知らん顔です。よほど、おじいちゃんたちに腹が立っているんだと思います。


「私はマダレナ閣下……、ううん、マダレナ陛下ほど人間が出来ていないのよ」


と言ったきり、ぷいっと顔をそむけます。

ふだんはおっとりしていて優しいお母さんなのに、おじいちゃんたちの話はすこしも聞いてくれません。

でも、私が会いに行くことを止めはしなかったので、おじいちゃんたちのことが気にはなってるんだと思います。


まずは、マダレナ陛下の代理人として、学院の卒業式に立ち会います。

わたしよりお兄さんお姉さんな卒業生の皆さんが発表される卒業論文を、真面目に聞かせてもらいます。

むかし、マダレナ陛下も優秀な成績で卒業されたので、卒業発表をアルフォンソ陛下に聞いてもらえたのだそうです。

いまではマダレナ陛下にあやかろうと、帝国中から優秀な学生があつまるようになったので、上位10名が男女を問わずに卒業発表されます。

わたしにはすこし難しいのですが、となりに座るパトリシア夫人がやさしく解説を加えてくださいます。


「マダレナ姉様ほど賢くはないけど、私もそこそこそ成績は良かったのよ?」


と、茶目っ気たっぷりに笑うパトリシア夫人の解説は分かりやすくて、わたしの勉強にもなりました。

卒業式のあとに開かれた記念の園遊会では、エレオノラ会長閣下とお話しすることが出来ました。


「おおっ、コロール。立派な代理公爵ぶりだったぞ?」

「……ほんとうですか?」

「うむ。卒業生たちもみな喜んでおった。さすがはルシア・カルデロンの娘。幼いながらに堂々たる代理公爵ぶりであったとな」


聞いてるわたしの方がスカッとさせられるような、エレオノラ会長閣下の気持ちのいい笑い声を聞けて、お役目を無事に果たせたかな? とホッとしました。

エレオノラ会長閣下は70歳を超えているのに、背筋はピンと伸びていて、とてもカッコいいお婆ちゃんです。

先ごろ、ながく務めておられたネヴィス大公位を、病気がちのご長男ではなく、ご次男のリカルド閣下に譲られて引退されました。

ひっそりとホルヘ・サントス伯爵閣下と再婚されて、いまは悠々自適の生活を送られています。

非公式ながら〈マダレナ母の会〉の会長をお務めなので、みんなから会長閣下と呼ばれています。


園遊会のあとは、カルドーゾ公爵家領の代官であるマダレナ陛下のお父君に、主城を案内していただきました。

みなさんと一緒に、まっぷたつに斬られた、城門の見学などをします。

むかし、お母さんが斬ったんだそうです。


「ルシア閣下がひと振りで、斬り裂いてくださったんだよ?」

「あら、リカルド大公閣下? 他人事のように仰いますわね?」


と、なんの話だか、楽しげに語られるパトリシア夫人とリカルド大公閣下は、むかし夫婦だったんだそうです。

にこやかに昔話をするおふたりに、エレオノラ会長閣下は苦笑いされています。

おふたりは離縁したわけではなくて、パトリシア夫人が除籍されたことで、結婚していた事実そのものが抹消されたんだそうです。

罰としての除籍なんて、貴族にとってこの上ない不名誉で、ネヴィス王家時代のパトリシア夫人は公には〈いなかった〉ことにされています。

だから、わたしは詳しい経緯は知りません。

けど、きっと色々あったのだろうに、仲良くされているパトリシア夫人とリカルド閣下に、大人の男女とはすごいものだなと、わたしは感心してしまいます。


「コロール……。パトリシアを見習うなよ?」


と、エレオノラ会長閣下が悪戯っ子のような笑みでささやかれましたけど、

とても、わたしにパトリシア夫人の真似はできそうにありません。


それから、わたしはサビアのひまわり畑を見に行くため、西へと向かいます。

満開のひまわり畑見物は、マダレナ陛下とベアトリス夫人とお母さん、3人の毎年の恒例行事です。

今年はわたしだけ先に到着するので、お母さんたちが来るまでの間に、おじいちゃんに会いに行くことになっています。

途中、なにもない荒野の宿場町に泊まりました。

ほんとうになにもないのですが、そこはむかし、お母さんが5000人くらいを吹き飛ばして地形も変わった場所で、いまでは観光名所です。

もちろん、お母さんというよりは、太陽皇后マダレナ陛下ゆかりの地として人気なのですけど。

お母さんと同じ色をした髪の毛から、わたしがルシア・カルデロンの娘だと気が付いた観光客から握手を求められたり、サインをねだられたりと、わたしが生まれるまえの話なのに、なんだか変な気分でした。


「平民から人気があるのは、帝国の貴族にとっていいことだわ」


と、パトリシア夫人とエレオノラ会長閣下から勧められたので、すこし恥ずかしい気がしながら〈ルシア饅頭〉の箱にサインしてあげました。

箱の蓋に描かれているお母さんは、いまの鮮やかなコーラルピンクとは違って真っ白な髪の毛です。


――お母さん……、もっと、おっぱい大きいんだけどな……?


と、不思議に思いながらサインしました。

エレオノラ会長閣下は、マダレナ陛下がサビアに入られるまえに開かれる〈マダレナ母の会〉のために同行してくださっています。

サビアには、マダレナ陛下の忠臣として有名なフリアさんがやってるお風呂屋さんがあって、〈マダレナ母の会〉は毎年そこで開かれています。


「あ~っ! コロール、また大きくなったわねぇ~っ!」


と出迎えてくださったフリアさんは、お風呂屋さんのおかみさんをしながら、

マダレナ陛下たっての願いで、サビアの代官も務めていらっしゃいます――。
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