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31.まるで太陽がひとつしかないように
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いったん、自分の王都屋敷にさがり、急遽決まった両殿下をお迎えしての午餐会の準備をはじめる。
あたまが真っ白になってるわたしに代わって、ベアトリスが使用人たちに指示を出しテキパキと準備を進めてくれる。
ひとり、部屋で待つわたしにベアトリスが、
「どうする? ふたりきり?」
と、尋ねてくる意味も、あたまに入ってこない。
「……ふたり?」
「マダレナと……、アルフォンソ殿下」
「ああ……、えっ!?」
「いや、えっ? じゃなくて。……お見えになるんでしょ? マダレナの〈翡翠〉が。いや今日は〈珊瑚〉か」
「う、うん……、来る。お見えになる」
「公式のものじゃなくて、私的にご訪問くださるんでしょ?」
「う、うんうん……、そう仰られてた……」
「準備はふたり分でいいわよね?」
「あ……、いや! ……ロレーナ殿下もお見えになるって仰られてたわ」
「あら、そう」
「ベア! ……あなたの席も用意して」
「ええっ!? ……それは、さすがに身分が……」
「ううん、大丈夫。ベアはロレーナ殿下にもお目通りかなってるし、王太后陛下にも名乗りを許されてるんだから、大丈夫」
「いや、でも侍女よ?」
「言った」
「え?」
「もう言った。笑ってた。ロレーナ殿下。お許しになられた。だから、大丈夫」
「そういう大事なことは、最初に……」
「それからルシアさんの席も……」
「ふふっ。分かったわ。ほかに出席される方はいらっしゃらない?」
「えっと……」
「うん。落ち着いて思い出して」
「……大丈夫。5人。うん。大丈夫、たぶん」
「王太后陛下は?」
「ううん。大丈夫。5人」
「分かったわ。急に増えても大丈夫なように準備させとくから、マダレナは部屋で心を落ち着けといて」
「落ち着く……」
「……無理そうね」
「努力します」
「いいわよ。胸をドキドキさせて待ってなさいよ」
「は、はい……」
「ご到着の先触れが来たら呼びにくるから、ちゃんと入口ホールでお出迎えするのよ?」
「あ、そうか……、そうね」
「ちゃんと座っとくのよ? ウロウロして転んだりしたら、大切なコーラルピンクのドレスが台無しになるわよ?」
「努力します」
「そこは努力じゃダメ。絶対よ」
首をカクカク振っているうちに、ベアトリスは慌ただしく部屋を出ていった。
――恋だの愛だのは、ひとりなのね……。
と、すごく満たされた孤独感。
愛されることは、誰かと分かち合うものではないという当たり前のことに、気が付いたりする。
まるで太陽がひとつしかないように。
そして、アルフォンソ殿下の愛は、予告編がながい。
あのまま、謁見の間で駆け寄りつよく抱き締めてくださり、
――愛してる!!
って、叫んでくださったら、そのままコロッと、
――はい。
と、わたしは口説き落されていたかもしれない。
だけど、殿下は慎重に〈手順〉を踏んでくださっている。
勅使が前任者と私的な歓談の場を持つなど、聞いたことがない。もちろん、わたしには初めてのお役目だったので執るべき儀礼は完璧に調べ尽くした。
その儀礼にない場を、わたしのためだけに設けてくださった。
しかも、殿下の方が足をお運びくださる。
わたしは、それを待つ。
おかげでわたしは、ドキドキさせられっぱなしだ。
贅沢といえば、こんなに贅沢な時間はないのだろう。
もう、わたしを愛してくださっていることを存分に知っている相手から、最後に愛を打ち明けられる瞬間を待つ、
〈身分違いの純愛譚〉
で、いちばんハラハラドキドキする場面を、たっぷりと味あわせてもらっているのだから。
そして――、
ルシアさんが教えてくれた、
《相手にも、本当の本当に好きになってもらわないと結婚しない!!》
という誓いのとおり、わたしの気持ちを大切にしようとしてくださっている。
ご自身の身分を嵩にきて愛を押し付けるようなマネはしたくないと、わざわざ先例にない私的な場を設けてくださったのだ。
わたしは、アルフォンソ殿下がこれから語られるお話を、しっかりと受け止め、そして答えなくてはならないのだ――。
あたまが真っ白になってるわたしに代わって、ベアトリスが使用人たちに指示を出しテキパキと準備を進めてくれる。
ひとり、部屋で待つわたしにベアトリスが、
「どうする? ふたりきり?」
と、尋ねてくる意味も、あたまに入ってこない。
「……ふたり?」
「マダレナと……、アルフォンソ殿下」
「ああ……、えっ!?」
「いや、えっ? じゃなくて。……お見えになるんでしょ? マダレナの〈翡翠〉が。いや今日は〈珊瑚〉か」
「う、うん……、来る。お見えになる」
「公式のものじゃなくて、私的にご訪問くださるんでしょ?」
「う、うんうん……、そう仰られてた……」
「準備はふたり分でいいわよね?」
「あ……、いや! ……ロレーナ殿下もお見えになるって仰られてたわ」
「あら、そう」
「ベア! ……あなたの席も用意して」
「ええっ!? ……それは、さすがに身分が……」
「ううん、大丈夫。ベアはロレーナ殿下にもお目通りかなってるし、王太后陛下にも名乗りを許されてるんだから、大丈夫」
「いや、でも侍女よ?」
「言った」
「え?」
「もう言った。笑ってた。ロレーナ殿下。お許しになられた。だから、大丈夫」
「そういう大事なことは、最初に……」
「それからルシアさんの席も……」
「ふふっ。分かったわ。ほかに出席される方はいらっしゃらない?」
「えっと……」
「うん。落ち着いて思い出して」
「……大丈夫。5人。うん。大丈夫、たぶん」
「王太后陛下は?」
「ううん。大丈夫。5人」
「分かったわ。急に増えても大丈夫なように準備させとくから、マダレナは部屋で心を落ち着けといて」
「落ち着く……」
「……無理そうね」
「努力します」
「いいわよ。胸をドキドキさせて待ってなさいよ」
「は、はい……」
「ご到着の先触れが来たら呼びにくるから、ちゃんと入口ホールでお出迎えするのよ?」
「あ、そうか……、そうね」
「ちゃんと座っとくのよ? ウロウロして転んだりしたら、大切なコーラルピンクのドレスが台無しになるわよ?」
「努力します」
「そこは努力じゃダメ。絶対よ」
首をカクカク振っているうちに、ベアトリスは慌ただしく部屋を出ていった。
――恋だの愛だのは、ひとりなのね……。
と、すごく満たされた孤独感。
愛されることは、誰かと分かち合うものではないという当たり前のことに、気が付いたりする。
まるで太陽がひとつしかないように。
そして、アルフォンソ殿下の愛は、予告編がながい。
あのまま、謁見の間で駆け寄りつよく抱き締めてくださり、
――愛してる!!
って、叫んでくださったら、そのままコロッと、
――はい。
と、わたしは口説き落されていたかもしれない。
だけど、殿下は慎重に〈手順〉を踏んでくださっている。
勅使が前任者と私的な歓談の場を持つなど、聞いたことがない。もちろん、わたしには初めてのお役目だったので執るべき儀礼は完璧に調べ尽くした。
その儀礼にない場を、わたしのためだけに設けてくださった。
しかも、殿下の方が足をお運びくださる。
わたしは、それを待つ。
おかげでわたしは、ドキドキさせられっぱなしだ。
贅沢といえば、こんなに贅沢な時間はないのだろう。
もう、わたしを愛してくださっていることを存分に知っている相手から、最後に愛を打ち明けられる瞬間を待つ、
〈身分違いの純愛譚〉
で、いちばんハラハラドキドキする場面を、たっぷりと味あわせてもらっているのだから。
そして――、
ルシアさんが教えてくれた、
《相手にも、本当の本当に好きになってもらわないと結婚しない!!》
という誓いのとおり、わたしの気持ちを大切にしようとしてくださっている。
ご自身の身分を嵩にきて愛を押し付けるようなマネはしたくないと、わざわざ先例にない私的な場を設けてくださったのだ。
わたしは、アルフォンソ殿下がこれから語られるお話を、しっかりと受け止め、そして答えなくてはならないのだ――。
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