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12.セイレーンの女王 後編
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わんわん泣くセイレーンの姫イザベラを宥めるのだが、論点がとっ散らかってきた。
私はニマキ貝が欲しい。イザベラを婚約者と仲直りさせたら、ニマキ貝を獲っていい。婚約者は人間でたぶん死んでる。せめて、喧嘩のキッカケにもなった仲良しの魔族に会いたいとイザベラは泣いている。
むう。イザベラの願いを叶えても、私はニマキ貝を獲れないのではないか? しかし、これだけ悲しんでいる者を放っておく訳にもいくまい。皇女だし。
しかし、魔族の知り合いか……。いるな。
**取り出し**
異次元に匿っているマゾ子を呼んだ。娘のマゾ美を抱いて目をパチクリさせている。
「あら? 皇女様、どうされました?」
「うむ。人探しというか、魔族探しを手伝ってほしくてな」
「はい。私は皇女様と使い魔の契約を結びましたから、なんでもいたしますが……。ここ、どこです?」
「セイレーンの城だ」
「あら懐かしい。皇女様、顔が広いんですね」
「成り行きだ」
「夫にも手伝わせましょうか?」
「いや。微妙に男女の情緒が絡んでいるので、マゾ子だけの方が都合がいい。それに、どうせ男どもは子育てにヘトヘトになってる頃だろう。羽根を伸ばさせてやれ」
「あら、お優しいんですね。承知いたしました」
オリヴィアは泣き止まないイザベラを放って、雑誌をめくっている。ホントに役に立たないな。お前の魔法障壁だけ解除してやろうか。
「イザベラ」と、私が話し掛けても泣き止まない。
「魔族の女に来てもらったぞ。お前のお兄ちゃんを一緒に探してもらおう」
「えっ……?」
イザベラは顔を上げた。
「お姉ちゃん!」
「あら、イザベラじゃない。久しぶりー♪」
と、マゾ子が手を振った。
「お前ら知り合いか?」と、私が尋ねるとイザベラはぶんぶん首を縦に振った。
「お兄ちゃんの奥さんだよぉ! ていうか、お姉ちゃん、子ども生まれてたんだぁ!」
「そうなのよぉ、見る?」
「見る、見るー!」
と、笑顔になったイザベラがマゾ子に駆け寄って、その手に抱かれたマゾ美の顔を覗き込んでいる。
ん? ということは、お兄ちゃんというのはマゾ夫か。
**取り出し**
ヤミィと酒盛り中のマゾ夫を異次元から呼び出した。羽根を伸ばしてるとこ、すまんな。ヤミィまで呼ぶ必要はなかったのだが、もののついでだ。
「お兄ちゃん!」
と、イザベラがマゾ夫に抱き着いた。
「な、なんだ? イザベラじゃないか」
「なんで来てくれなくなったのよぉ!」
「い、いや、すまん。ちょっと昇進したり、子供が出来たり、使い魔になったりして、バタバタしてたんだ」
魔界四天王というのは「ちょっと」昇進したらなれるものなのか。少し認識を改める必要があるな。
「イ、イザベラ!!!」
と、大きな声を出したのはヤミィだ。ワナワナ震えている。
「あなた!?」
と、イザベラが手で口を覆った。
あなた?
ヤミィがむき出しの眼球で、私を睨みつける。
「皇女様! なんで、こんな女のところに! 私を手ひどく裏切った婚約者は、この女なのです!!!」
**収納**
さすがに面倒な情緒が渋滞し過ぎだ。全員、異次元に送ったので、本人同士でゆっくり話し合え。
◇
セイレーンの女王ミカエラに事の顛末を報告すると、ニマキ貝をどっさり土産に持たされた。私は中間報告のつもりだったのだが、娘を厄介払いできたと思っているのだろう。
ニマキ貝は海竜のマリーベルに渡しても、まだ沢山残ったので、庭で海鮮バーベキューをすることにした。
確かにニマキ貝は美味い。ダヴィデも焼き立てをほくほくしながら食べている。そんなに好きなら、また、ミカエラに分けてもらいに行こう。
すると、ヤミィが異次元から念話で話し掛けてきた。
[……こ、皇女様。お騒がせいたしました……]
「話はついたのか?」
[……え、ええ。お陰様で……]
「海鮮バーベキュー、食うか?」
[……え? いいんですか? ……]
**取り出し**
異次元から全員呼び出した。イザベラはうっとりした顔でヤミィの腕を抱いている。丸く収まったのなら、それでいい。
ヤミィの骸骨ヅラも心なしか肉付きがいい。
「ヤミィ。ちょっと顔付きが変わったな」
「そ、それなんですが……。イザベラに結婚出来ない呪いを解呪してもらいましてぇ……。あの……、なんて言いますかですね……」
なんだ。私に結婚を申し込んだことを気にしていたのか。骸骨ヅラのクセに律儀なヤツだ。
「構わん構わん。幸せになれ」
「あ! ありがとうございます!」
「いいから、ニマキ貝でも食え。珍味だぞ」
デレデレのイザベラだが、あの呪いを解呪できるとは相当な実力者だ。ヤミィが強い女が好みと言っていたのは本当なのだろう。
ニマキ貝を食べさせ合っているヤミィとイザベラは、当分の間、異次元でマゾ夫とマゾ子を手伝って、マゾ美の世話をして暮らしていくつもりだという。
海竜のマリーベルも機嫌を直した婚約者とクラーケンを手土産に遊びに来た。絹の皇女レンファは元使用人の婚約者とイチャイチャしてるが、砂漠の皇女ラミアはふくれっ面だ。
どうやら、魔人がランプに引っ込んでしまって出て来ないみたいだ。娘のイザベラを見て逃げてしまったか。情けない魔人だ。
オリヴィアもパクパクとニマキ貝を食べているし、なんだか賑やかになってしまった。
面倒な情緒は御免だが、賑やかなのは嫌いではない。ダヴィデも楽しそうだし、それを見るソフィアもニマニマしている。
そろそろ、私も本気で婚活再開させないとなぁ……。なんて思いながら、いくつかの幸せそうなカップルを眺めて、ニマキ貝を口に放り込んだ。
私はニマキ貝が欲しい。イザベラを婚約者と仲直りさせたら、ニマキ貝を獲っていい。婚約者は人間でたぶん死んでる。せめて、喧嘩のキッカケにもなった仲良しの魔族に会いたいとイザベラは泣いている。
むう。イザベラの願いを叶えても、私はニマキ貝を獲れないのではないか? しかし、これだけ悲しんでいる者を放っておく訳にもいくまい。皇女だし。
しかし、魔族の知り合いか……。いるな。
**取り出し**
異次元に匿っているマゾ子を呼んだ。娘のマゾ美を抱いて目をパチクリさせている。
「あら? 皇女様、どうされました?」
「うむ。人探しというか、魔族探しを手伝ってほしくてな」
「はい。私は皇女様と使い魔の契約を結びましたから、なんでもいたしますが……。ここ、どこです?」
「セイレーンの城だ」
「あら懐かしい。皇女様、顔が広いんですね」
「成り行きだ」
「夫にも手伝わせましょうか?」
「いや。微妙に男女の情緒が絡んでいるので、マゾ子だけの方が都合がいい。それに、どうせ男どもは子育てにヘトヘトになってる頃だろう。羽根を伸ばさせてやれ」
「あら、お優しいんですね。承知いたしました」
オリヴィアは泣き止まないイザベラを放って、雑誌をめくっている。ホントに役に立たないな。お前の魔法障壁だけ解除してやろうか。
「イザベラ」と、私が話し掛けても泣き止まない。
「魔族の女に来てもらったぞ。お前のお兄ちゃんを一緒に探してもらおう」
「えっ……?」
イザベラは顔を上げた。
「お姉ちゃん!」
「あら、イザベラじゃない。久しぶりー♪」
と、マゾ子が手を振った。
「お前ら知り合いか?」と、私が尋ねるとイザベラはぶんぶん首を縦に振った。
「お兄ちゃんの奥さんだよぉ! ていうか、お姉ちゃん、子ども生まれてたんだぁ!」
「そうなのよぉ、見る?」
「見る、見るー!」
と、笑顔になったイザベラがマゾ子に駆け寄って、その手に抱かれたマゾ美の顔を覗き込んでいる。
ん? ということは、お兄ちゃんというのはマゾ夫か。
**取り出し**
ヤミィと酒盛り中のマゾ夫を異次元から呼び出した。羽根を伸ばしてるとこ、すまんな。ヤミィまで呼ぶ必要はなかったのだが、もののついでだ。
「お兄ちゃん!」
と、イザベラがマゾ夫に抱き着いた。
「な、なんだ? イザベラじゃないか」
「なんで来てくれなくなったのよぉ!」
「い、いや、すまん。ちょっと昇進したり、子供が出来たり、使い魔になったりして、バタバタしてたんだ」
魔界四天王というのは「ちょっと」昇進したらなれるものなのか。少し認識を改める必要があるな。
「イ、イザベラ!!!」
と、大きな声を出したのはヤミィだ。ワナワナ震えている。
「あなた!?」
と、イザベラが手で口を覆った。
あなた?
ヤミィがむき出しの眼球で、私を睨みつける。
「皇女様! なんで、こんな女のところに! 私を手ひどく裏切った婚約者は、この女なのです!!!」
**収納**
さすがに面倒な情緒が渋滞し過ぎだ。全員、異次元に送ったので、本人同士でゆっくり話し合え。
◇
セイレーンの女王ミカエラに事の顛末を報告すると、ニマキ貝をどっさり土産に持たされた。私は中間報告のつもりだったのだが、娘を厄介払いできたと思っているのだろう。
ニマキ貝は海竜のマリーベルに渡しても、まだ沢山残ったので、庭で海鮮バーベキューをすることにした。
確かにニマキ貝は美味い。ダヴィデも焼き立てをほくほくしながら食べている。そんなに好きなら、また、ミカエラに分けてもらいに行こう。
すると、ヤミィが異次元から念話で話し掛けてきた。
[……こ、皇女様。お騒がせいたしました……]
「話はついたのか?」
[……え、ええ。お陰様で……]
「海鮮バーベキュー、食うか?」
[……え? いいんですか? ……]
**取り出し**
異次元から全員呼び出した。イザベラはうっとりした顔でヤミィの腕を抱いている。丸く収まったのなら、それでいい。
ヤミィの骸骨ヅラも心なしか肉付きがいい。
「ヤミィ。ちょっと顔付きが変わったな」
「そ、それなんですが……。イザベラに結婚出来ない呪いを解呪してもらいましてぇ……。あの……、なんて言いますかですね……」
なんだ。私に結婚を申し込んだことを気にしていたのか。骸骨ヅラのクセに律儀なヤツだ。
「構わん構わん。幸せになれ」
「あ! ありがとうございます!」
「いいから、ニマキ貝でも食え。珍味だぞ」
デレデレのイザベラだが、あの呪いを解呪できるとは相当な実力者だ。ヤミィが強い女が好みと言っていたのは本当なのだろう。
ニマキ貝を食べさせ合っているヤミィとイザベラは、当分の間、異次元でマゾ夫とマゾ子を手伝って、マゾ美の世話をして暮らしていくつもりだという。
海竜のマリーベルも機嫌を直した婚約者とクラーケンを手土産に遊びに来た。絹の皇女レンファは元使用人の婚約者とイチャイチャしてるが、砂漠の皇女ラミアはふくれっ面だ。
どうやら、魔人がランプに引っ込んでしまって出て来ないみたいだ。娘のイザベラを見て逃げてしまったか。情けない魔人だ。
オリヴィアもパクパクとニマキ貝を食べているし、なんだか賑やかになってしまった。
面倒な情緒は御免だが、賑やかなのは嫌いではない。ダヴィデも楽しそうだし、それを見るソフィアもニマニマしている。
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