【完結】皇女なのに婚約破棄されること15回!最強魔力でほのぼのスローライフしてる場合でもないのですが?

三矢さくら

文字の大きさ
上 下
19 / 26

11.セイレーンの女王 中編

しおりを挟む
「ニマキ貝は物言わぬ食料とはいえ、海竜を嫌い、我らセイレーンを慕ってきたのだ。獲らせるワケにはいかぬ」

セイレーンの女王ミカエラが、よく分からない理屈で断ってきた。

海の皇女オリヴィアが耳打ちしてくる。

「セイレーンは女には意地悪なのよ」

「なぜ、それを早く言わないのだ? それならば男の使者を立てたものを」

「ダメよ。男は誘惑しちゃうから使い物にならないし」

要するに面倒なヤツということか。見ると露出の多い格好で、男好きのしそうな仕草をしている。本来なら関わりたくないヤツだが。

「女王よ。それでもなんとか許して欲しいのだ」

「貴女、西の第2皇女よね?」

「いかにも。アルマ・ヴァロリアである」

「それだけ魔力が強かったら、力ずくで奪っていくことも、こっそり盗んでいくことも出来るでしょう? なんで、そんな低姿勢で頼んで来るのよ。気味が悪いわ」

「むっ。……ある者へのお詫びにニマキ貝を贈りたいのだ。私のせいでその者の婚約者の機嫌を損ねてしまい、大変反省している。そんなお詫びの品を強奪したり盗んだりして手に入れたのでは、ますます後味が悪くなる」

「ふうん。で、その手に抱えてるモノは何?」

と、ミカエラは私が脇に抱える丸めた絨毯を指差した。ややっ、ミカエラはランプの魔人の元嫁だった。これは迂闊なことをしてしまった。

「ま、いいけど。あいつ、元気にやってるの?」

「うむ。元気だ」

オリヴィアが余計なことを言わないか冷や冷やしたが、もう興味を失くしたようで退屈そうにしている。

「たまには娘の顔くらい見に来いって、言っといてよ」

「む。分かった」

あの魔人、娘までつくってたのか。

「そうだ」と、ミカエラが手を打った。

「その娘のイザベラが婚約者と喧嘩して、もうずっと落ち込んでるのよねぇ。2人を仲直りさせてくれたら、ニマキ貝を獲らせてあげてもいいわよ」

むう。話がどんどん面倒な方に流れていく。しかし、身から出た錆だ。やむを得ん。

  ◇

セイレーンの城の中を、娘の部屋に案内されていく。しかし、魔素濃度が高い。ほぼ魔族という話だったが、まるっきり魔族なのではないか?

「我らは魔王の側に付いたのだ」

と、先を歩くミカエラが言った。

「もう100万年も前の話だ。大天使と大魔王の戦争があった。その時に我らセイレーンは魔王の側に付き、海竜は天使に付いた」

そんなことがあったのか。100万年前では、さすがに生まれてない。当たり前だが。

「戦争は引き分けに終わり、地上は緩衝地帯と定められた。残された我らがいがみ合い続けるのも馬鹿げた話だが、やむを得ん」

むう。神聖王国のことを四帝国の狭間にある緩衝国と下に見ていたが、この地上自体が天界と魔界の緩衝地帯であったか。調子に乗ってはいかんな。

「しかし、皇女アルマよ。この魔素濃度にもビクともしないとは、お前はバケモノだな。この城には魔王様から賜った魔秘宝の盾も保管されているというのに、お前は本当に人間か?」

魔族の言うこととはいえ、婚約破棄を16度も喰らって得た魔力で「本当に人間か?」と言われては、さすがに凹む。ましてや、相手は美貌のセイレーン、バツイチ、子持ちだ。その一度の結婚が少し羨ましい……。

「着いたぞ」

と、女王が自ら案内してきた扉の前で立ち止まった。ミカエラは扉に耳を近づけて、中の様子を伺っている。そして、小さくノックをした。

「イ、イザベラちゃぁぁぁん? 中に入ってもいいかなぁぁぁぁ?」

あの尊大なミカエラがこの調子では、中にいる娘はどんな気難し屋なのか。猛烈に帰りたくなったが、グッと堪える。

「ん」

という声が中から聞こえて、ミカエラがそーっと扉を開けた。青い髪をした人魚が寝そべって菓子を食べながら雑誌を読んでいる。

「イザベラちゃぁん。お城の中では脚をはやしとかないとお行儀悪いじゃない?」

「ん」

「お客様がいらしてるのよ? ね? ね?」

「ん」

と、イザベラは魚の下半身をピチピチさせたまま菓子を頬張っている。ミカエラが耳打ちをしてくる。

「ごめんなさいね。父親が出て行ってから甘やかしたら、ワガママ放題に育っちゃって。脚も出さないなんて、お行儀も悪くて……」

「いや、その行儀は分からないから大丈夫だ」

すると、オリヴィアが「ねえ、ねえ。何読んでるのぉ?」と、イザベラの横に寝転がった。

「ん」

と、イザベラがオリヴィアに雑誌を見せる。なにやら2人で盛り上がり始めたようだ。オリヴィアでも役に立つことがあるのか。

「じゃ、あとお願いね。婚約者。婚約者と仲直りさせて嫁に行かせてくれたら、ニマキ貝は獲り放題でいいから」

と言うや、ミカエラはピュッと出て行ってしまった。ワガママ娘を厄介払いしたいのか。あまり褒められた話ではないが、私が首を突っ込むことでもないな。

なにやら、ワイワイ盛り上がる2人の前に腰を降ろした。イザベラの髪が青いのは父親であるランプの魔人に似たのか。

すると突然、イザベラが「うわーんっ!」と大きな声を上げて泣き始めた。オリヴィアの顔を見ると首を左右に振っている。

「こ、婚約者の話を聞いたら泣き出しちゃってぇ……」

オリヴィア。お前にそんなセンシティブな話は無理だ。私も自信があるという訳ではないが。

イザベラの側に寄って、オリヴィアと2人で背中を撫でてやると、次第に落ち着いてきた。

「あの人ったらヒドイの。私はね2人の記念日にプレゼントを贈りたかっただけなのに……。ヒック」

まだしゃくり上げているイザベラが、ポツポツと話し始めた。面倒な情緒そのものだが、この場合やむを得ない。歯を食いしばって続きを聞く。

「だけど、人間の好きなモノなんて知らないじゃない?」

「婚約者は人間なのか?」

「そうよ。だからね、人間の近くで暮らしてる魔族のお兄ちゃんに聞いてた訳、人間の好きなモノを。そしたら、それを覗き見してたあの人が浮気だーっ! って騒ぎ始めて」

「浮気してたのか?」

「する訳ないでしょ! 失礼ね! お兄ちゃんは結婚してるし、奥さんとも私、仲良しなんだから!」

「いや、これはすまなかった」

「それで出て行っちゃって、連絡も取れないの……。お兄ちゃんともなんか気まずくなって、会いに来てくれなくなったし。私、なんにもしてないのに、グスン」

オリヴィアがうんうん頷いた。

「分かるわぁ。兄なんて勝手なものよね」

「私のは、ホントのお兄ちゃんじゃないけど……」

「それでもよ」

オリヴィアのブラコン魂が燻っているのはともかく、婚約者に誤解されたままというのは可哀想だ。イザベラはまた思い出したのか、わんわん泣き始めてしまった。

「もう200年も会えてないー! きっと、私のことなんか忘れちゃってるんだわー!」

に、200年か……。さすがに人間が生きているとは思えんが、冥界まで探しに行くのは面倒だな。

「せめて、お兄ちゃんに会いたいよー!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄してみたらー婚約者は蓋をあけたらクズだった件

青空一夏
恋愛
アリッサ・エバン公爵令嬢はイザヤ・ワイアット子爵の次男と婚約していた。 最近、隣国で婚約破棄ブームが起こっているから、冗談でイザヤに婚約破棄を申し渡した。 すると、意外なことに、あれもこれもと、婚約者の悪事が公になる。 アリッサは思いがけない展開にショックをうける。 婚約破棄からはじまる、アリッサの恋愛物語。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

処理中です...