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9.魔界の四天王
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「美味しいよ! ありがとう、お姉ちゃん!」
と、口の端に生クリームを付けたダヴィデは満面の笑みだ。ソフィアの焼いた誕生日ケーキはやはり絶品だった。
「おめでとう!」と、テーブルを囲む砂漠の皇女ラミアが言うと、口いっぱいにケーキを頬張った絹の皇女レンファもモゴモゴ言っている。
「なぜ、お前たちがいる?」
「だってお祝いでしょう? 私が誘いましたの」
と言ったのは、海の帝国の皇女オリヴィアだ。こいつとは旧知の仲だが、親しくされるような関係ではない。
「ダヴィデすごいね。誕生日に四帝国の四皇女様が駆け付けてくれるなんて」
「えへへっ」
色々、言いたいことはあるが、ダヴィデのせっかくの誕生祝いの席で騒ぐほどのことではない。ケーキは美味しいし。
「でもねぇ、私の流刑は解いてくれないのよ」
と、ソフィアが当てつけがましいことを言って、ダヴィデの口元を拭いてやると、そのダヴィデが姉を諌めた。
「ダメだよお姉ちゃん。罪はちゃんと償わないと」
「はぁい」と、悪びれた様子のないソフィアに比べて、なんと賢い弟なのだ。
むっ。魔素濃度が上がった。
**魔法障壁**
間髪入れず、ソフィアの小屋が吹き飛ばされた。私の張った障壁に守られたテーブルでは、誕生パーティが続いていたが、外には3人の魔族が立っていた。
〈第2皇女だな?〉
露出の高いレオタードにローブを羽織った女魔族が偉そうに言い放った。
「いかにも。私は西の帝国第2皇女アルマ・ヴァロリアである。が、ささやかな誕生パーティを邪魔するお前たちは何者だ?」
〈我らは魔界四天王。貴様の隠したベリアルを返してもらおうか?〉
ベリアル? マゾ夫のことか? あいつ、そんな大層な名前があったのか。
「マゾ夫なら、育休中だ」
〈なんだその変な名前は?〉
「私が付けた。本人は気に入っていたようだぞ」
〈そんな訳があるか!〉
と、1人だけ男の魔族が吠えた。
〈魔王様が気が付く前に連れ戻さないと、我らにまでとばっちりが来るのだ! 早く引き渡してもらおうか!〉
「育休中だと言っただろう」
〈どうしてもと言うなら、力ずくでいかせてもらうぞ!〉
「好きにしろ」
〈魔王様の命なく人間界で暴れると、あとでお叱りを受けるかもしれんが、やむを得ん!〉
――魔界四天王大呪殺。
おおっ。さすがに魔界四天王ともなると、魔素濃度が桁外れだな。
〈後悔しても遅いぞ! 第2皇女!〉
――超極大魔法陣、無限展開。
〈え? ちょ、待っ……〉
「爆ぜろ」
◇
平身低頭、謝って来たので、爆ぜさせるのは勘弁してやって、ハゲさせた魔族の男と、その後ろに女の魔族が正座してヘコヘコしている。
〈偉そうなこと言ってすみませんでした……〉
「分かったんなら、いいから帰れ。誕生パーティをやってるのが見えないのか?」
〈でも、皇女様。このまま帰っても、私たち魔王様に消滅させられてしまいます……〉
と、女魔族の一人が上目遣いに言ってきた。途端にターンッと高い音がして、私の魔法障壁が魔力を弾いた。
「お前。私に『魅力』をかけようとしたな?」
〈違います! 違います! 体質なんです! 何もしなくても出てしまうんです!〉
厄介な女だ。こういうのが一番手に負えん。すぐ男を『真実の愛』に目覚めさせてしまう。
「マゾ夫はマゾ子と子育てに勤しんでいるのだ。諦めて帰れ」
〈でも、それじゃ……〉
「同僚の幸せも祝ってやれないようでは、魔界四天王の名がなくぞ」
〈そ、そうは仰られましても、魔王様の代理人として魔族を従え、身を粉にして働くのが魔界四天王の務め……〉
「なんだ、お前たち管理職か?」
〈かっ――。……まあ、そうです〉
「同僚の育休も捻出してやれんような無能が上司では、部下が可哀想だ。降格を申し出たらどうだ?」
〈それは、あまりな言い方……〉
と、男魔族が口答えする後ろで、女魔族二人が考え込み始めた。
「無能が四天王などと威張っていても、魔王の名前に傷を付けるだけではないのか?」
〈仰る通りです、皇女様。私たち目が覚めました〉
と、女魔族が言った。
〈な、なにを言い出すんだ〉と、狼狽える男魔族に女魔族が詰め寄る。
〈育児が女の仕事なんて踏ん反り返ってるから、いつまでも魔王様の悲願である人間界征服が成就しないんじゃないですか?〉
〈い、いや、それとこれとは……〉
〈関係あります! 男と女が平等に力を合わせることなしに、魔界の発展などあり得ません!〉
「あとは、帰ってからやれ」
**帰れ**
『真実の愛』ではないが、妙な意識の高さに目覚めさせてしまった。そんな面倒な情緒、魔界に帰ってから好きなだけやればいい。私を巻き込む必要はない。
みんなの方を振り返ると、小屋が吹き飛ばされたまま私の障壁の中で楽しそうにやっている。
戦闘など下々の者に任せて、優雅にお茶を楽しむ。皇女たるもの、そうあるべきというのを体現している連中だ。私も皇女なんだけど……。
**元に戻れ**
ソフィアの小屋を元通りに建てて、私もテーブルに戻った。あっ! ケーキがもう残ってないではないか。
「へへっ。アルマの分は、こっちに取ってあるよ」
と、ダヴィデが奥から小さく切られたケーキを出して来てくれた。自分の誕生日ケーキなのに、優しくて良い子だ。きっとモテるようになるぞ。
パーティは盛り上がったが、つい海の皇女オリヴィアが何しに来たのか聞きそびれてしまった。
何しに来たんだ、あいつ?
と、口の端に生クリームを付けたダヴィデは満面の笑みだ。ソフィアの焼いた誕生日ケーキはやはり絶品だった。
「おめでとう!」と、テーブルを囲む砂漠の皇女ラミアが言うと、口いっぱいにケーキを頬張った絹の皇女レンファもモゴモゴ言っている。
「なぜ、お前たちがいる?」
「だってお祝いでしょう? 私が誘いましたの」
と言ったのは、海の帝国の皇女オリヴィアだ。こいつとは旧知の仲だが、親しくされるような関係ではない。
「ダヴィデすごいね。誕生日に四帝国の四皇女様が駆け付けてくれるなんて」
「えへへっ」
色々、言いたいことはあるが、ダヴィデのせっかくの誕生祝いの席で騒ぐほどのことではない。ケーキは美味しいし。
「でもねぇ、私の流刑は解いてくれないのよ」
と、ソフィアが当てつけがましいことを言って、ダヴィデの口元を拭いてやると、そのダヴィデが姉を諌めた。
「ダメだよお姉ちゃん。罪はちゃんと償わないと」
「はぁい」と、悪びれた様子のないソフィアに比べて、なんと賢い弟なのだ。
むっ。魔素濃度が上がった。
**魔法障壁**
間髪入れず、ソフィアの小屋が吹き飛ばされた。私の張った障壁に守られたテーブルでは、誕生パーティが続いていたが、外には3人の魔族が立っていた。
〈第2皇女だな?〉
露出の高いレオタードにローブを羽織った女魔族が偉そうに言い放った。
「いかにも。私は西の帝国第2皇女アルマ・ヴァロリアである。が、ささやかな誕生パーティを邪魔するお前たちは何者だ?」
〈我らは魔界四天王。貴様の隠したベリアルを返してもらおうか?〉
ベリアル? マゾ夫のことか? あいつ、そんな大層な名前があったのか。
「マゾ夫なら、育休中だ」
〈なんだその変な名前は?〉
「私が付けた。本人は気に入っていたようだぞ」
〈そんな訳があるか!〉
と、1人だけ男の魔族が吠えた。
〈魔王様が気が付く前に連れ戻さないと、我らにまでとばっちりが来るのだ! 早く引き渡してもらおうか!〉
「育休中だと言っただろう」
〈どうしてもと言うなら、力ずくでいかせてもらうぞ!〉
「好きにしろ」
〈魔王様の命なく人間界で暴れると、あとでお叱りを受けるかもしれんが、やむを得ん!〉
――魔界四天王大呪殺。
おおっ。さすがに魔界四天王ともなると、魔素濃度が桁外れだな。
〈後悔しても遅いぞ! 第2皇女!〉
――超極大魔法陣、無限展開。
〈え? ちょ、待っ……〉
「爆ぜろ」
◇
平身低頭、謝って来たので、爆ぜさせるのは勘弁してやって、ハゲさせた魔族の男と、その後ろに女の魔族が正座してヘコヘコしている。
〈偉そうなこと言ってすみませんでした……〉
「分かったんなら、いいから帰れ。誕生パーティをやってるのが見えないのか?」
〈でも、皇女様。このまま帰っても、私たち魔王様に消滅させられてしまいます……〉
と、女魔族の一人が上目遣いに言ってきた。途端にターンッと高い音がして、私の魔法障壁が魔力を弾いた。
「お前。私に『魅力』をかけようとしたな?」
〈違います! 違います! 体質なんです! 何もしなくても出てしまうんです!〉
厄介な女だ。こういうのが一番手に負えん。すぐ男を『真実の愛』に目覚めさせてしまう。
「マゾ夫はマゾ子と子育てに勤しんでいるのだ。諦めて帰れ」
〈でも、それじゃ……〉
「同僚の幸せも祝ってやれないようでは、魔界四天王の名がなくぞ」
〈そ、そうは仰られましても、魔王様の代理人として魔族を従え、身を粉にして働くのが魔界四天王の務め……〉
「なんだ、お前たち管理職か?」
〈かっ――。……まあ、そうです〉
「同僚の育休も捻出してやれんような無能が上司では、部下が可哀想だ。降格を申し出たらどうだ?」
〈それは、あまりな言い方……〉
と、男魔族が口答えする後ろで、女魔族二人が考え込み始めた。
「無能が四天王などと威張っていても、魔王の名前に傷を付けるだけではないのか?」
〈仰る通りです、皇女様。私たち目が覚めました〉
と、女魔族が言った。
〈な、なにを言い出すんだ〉と、狼狽える男魔族に女魔族が詰め寄る。
〈育児が女の仕事なんて踏ん反り返ってるから、いつまでも魔王様の悲願である人間界征服が成就しないんじゃないですか?〉
〈い、いや、それとこれとは……〉
〈関係あります! 男と女が平等に力を合わせることなしに、魔界の発展などあり得ません!〉
「あとは、帰ってからやれ」
**帰れ**
『真実の愛』ではないが、妙な意識の高さに目覚めさせてしまった。そんな面倒な情緒、魔界に帰ってから好きなだけやればいい。私を巻き込む必要はない。
みんなの方を振り返ると、小屋が吹き飛ばされたまま私の障壁の中で楽しそうにやっている。
戦闘など下々の者に任せて、優雅にお茶を楽しむ。皇女たるもの、そうあるべきというのを体現している連中だ。私も皇女なんだけど……。
**元に戻れ**
ソフィアの小屋を元通りに建てて、私もテーブルに戻った。あっ! ケーキがもう残ってないではないか。
「へへっ。アルマの分は、こっちに取ってあるよ」
と、ダヴィデが奥から小さく切られたケーキを出して来てくれた。自分の誕生日ケーキなのに、優しくて良い子だ。きっとモテるようになるぞ。
パーティは盛り上がったが、つい海の皇女オリヴィアが何しに来たのか聞きそびれてしまった。
何しに来たんだ、あいつ?
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