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7.闇の魔導師
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[……アルマ殿下。直接の念話をお許し下さい……]
むっ。帝都にいる宮廷魔導長が念話を送ってきた。こいつも私との婚約を破棄して出世を果たしたヤツだ。特にこいつはヒドかった。
「なんだ? 貴卿は私に気軽に話し掛けてこれるような関係ではないはずだが?」
[……そ、その節は……、ただ、帝都が燃えております……]
「なんだと? どういうことだ?」
[……突然、【闇の魔導師】と名乗る者が現れ、強力な魔導による攻撃を受けおります。宮廷魔導師も総力を挙げて反撃しておりますが、劣勢で……]
宮廷魔導師が総攻撃しても劣勢とは、只事ではない。
**千里眼**
むっ。魔素濃度が高い。闇の魔導師とは魔界に魂を売った者か。私の【千里眼】でも見通せないとは、宮廷魔導師では荷が重いか。
[……何卒、ご加勢を……]
この魔素濃度で念話を通してくる魔導長も、決して弱くはない。過去の経緯も超えて助けを求めてくるとは、帝都はよほどの危機にある。
「分かった。すぐ、行く」
「アルマ、どこに行くの?」
と、ダヴィデが不思議そうに聞くと、ソフィアが頭を撫でた。
「皇女様は、ちょっと帝都でご用事なんだよ」
他人の念話を立ち聞きするな。実力だけはしっかりある元聖女め。正しい行いだけしていれば、流刑になどならなかったものを。
「すぐ戻る」
と、私もダヴィデの頭を撫でると「いってらっしゃい!」と、無邪気な笑顔を見せてくれた。
――魔法陣展開。
光の束が描きだす魔法陣に包まれる。ダヴィデが目を輝かせて見ている。
**魔法障壁**
「ありゃ? 随分、周到だね?」
と、ソフィアが間の抜けた声で言った。
「あんな魔素濃度の高いところ、無防備に突っ込む訳ないだろ」
**転移して浮遊**
炎に包まれる帝都の空に浮かんだ。既に帝都の半分は灰塵と化している。
〈現れたな。第2皇女〉
と、私の背後に灰色のローブを纏った骸骨のような顔をした魔導師が浮かんだ。
「お前が【闇の魔導師】か? 随分、男前だな」
〈ふふふ、笑わば笑え。この容貌こそが、我が魔力の証。我は身体に88の呪いを刻んで、この膨大な魔力を得た〉
「呪いを88も……? お前、痛くないのか?」
〈なんだ、そのシンプルな質問は!? 痛いに決まってるだろ! その痛みと引き換えに得た魔力で、我は魔王様にお仕えするのだ! まずはこの西の帝都を献上させてもらう〉
むう。なんで人間が魔王に仕えたいのかとか、面倒な情緒はどうでもいいのだが、少し手強そうだ。これだけの魔素を放つとは、既に半分魔界の住人か。
〈我が88の呪いと、皇女の15の婚約破棄。どちらが強いか力比べといこうではないか〉
カッチーン。
「私だって強くなるより、幸せな結婚の方が良かったわーーー!!!」
――極大魔法陣展開。
私の展開した巨大な魔法陣を見た【闇の魔導師】はニヤリと笑って、杖を掲げた。
――魔界大呪殺。
強力な魔素の塊に覆われていく。
面倒で醜いヤツだ。魔法陣から魔力を放つ。さっさと塵になれ。
**滅びよ**
闇の魔導師はケタケタ笑って、魔素の塊から黒い光線を放った。
××× 腐れ ×××
魔力と魔力が宙空で激突し合う。それにしても腐敗魔法とは品がない。醜悪な見てくれにはお似合いだが。
〈やるではないか、第2皇女〉
「うるさい。さっさと塵になって滅びろ」
〈アンデッドにして、永遠の性奴隷にしてやろうというのに、つれないではないか〉
骸骨ヅラのクセに乙女をいやらしい視線で舐め回すとは、とんでもないヤツだ。
「その品のない口を閉じろ」
すると、骸骨男は嫌味ったらしく笑い始めた。
〈行き遅れ皇女には身に過ぎた幸せであろう?〉
「わ……」
〈ん? なんだ?〉
「わ……」
〈なんだ、震えているではないか? そうか、身を震わすほどに嬉しいか?〉
「わ……」
〈そうかそうか。永遠に可愛がってやるぞー! ケタケタケタケタ〉
「私は、まだ18だーーーー!!!!」
――極大魔法陣、十二面展開。
〈え、ちょっと……〉
「行き遅れなんぞと言われる歳ではないわーーーー!!!!!」
正十二面体のほぼ球形を為した、12の極大魔法陣に包囲された【闇の魔導師】が、見苦しく狼狽えている。
**滅びよ!!!**
〈うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!〉
「オリジナリティのない叫び声上げてないで、さっさと塵になれ」
〈ちょ、ちょっと待ってくれ!〉
「なんだ? 遺言でもあるなら聞いてやろう」
いかなる醜く邪悪な存在でも、最期の言葉くらいは聞いてやる大度がなくてはならない。皇女だし。
〈ほ、惚れた!〉
「はあ……?」
〈私はお前のような強い女が好みなのだ! け、結婚してくれ! 必ず幸せにするから!〉
「く、苦し紛れに、乙女の心を愚弄するか……」
〈本当だ! 本心だ! 私も婚約者に裏切られることがなければ、魔界に身を堕とすことはなかった!〉
「なんと……」
〈改心する! もう、悪いことはしない! 魔界からも足を洗う! 約束する! だから結婚してくれぇぇ!〉
カラーン、コローン、カラーン、コローン……。天使が鐘を鳴らす音が聞こえた。もはや、愛してくれるのなら相手を選べるような身の上ではない。
魔力の出力を半分くらいに抑えた。
「本当か? 本当に私を幸せにしてくれるのか?」
〈約束する! けれど、婚約を信じられないのは私も同じだ。今、ここで結婚しよう!〉
「なんと……」
〈結婚してしまえば、婚約の破棄などしようがないではないか!〉
私は十二面展開していた極大魔法陣を解き、ぜーはーと、肩で息をする【闇の魔導師】に宙空で近寄った。
「し、信じて良いのだな……?」
〈も、もちろんだ……。裏切られる痛みを知っている者同士。幸せになって見返してやろうではないか〉
「ヤミィ……」
なんと呼んでいいのか分からないので、適当なニックネームを付けた。
〈今の私はこんな顔だ。誓いの接吻をする唇もない。手を握り合って結婚の誓いとしよう〉
と、ヤミィが私に向かって手を差し出してきた。
〈嫁に、来てくれないか……〉
その眼球むき出しの瞳に濁りはなかった。信じていいのね……? 今度こそ、信じていいのね?
「はい……」
と、ヤミィの手をそっと握った。その途端にヤミィが激しく苦しみ始めた。
〈うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!〉
「え? なに? 私は何もしてないわよ!?」
〈結婚出来ない呪いを刻んでいたのだったぁぁぁ! この結婚、なかったことにぃぃぃぃぃぃぃ!!!〉
――極大魔法陣、無限展開。
〈わ、悪かったぁぁぁぁぁ!〉
**収納**
乙女の心を弄んだ罪は重い。塵になんぞしてやらん。何もない暗黒の異次元に永遠に幽閉してやった。
婚約から破棄まで最短記録を叩き出した16回目の婚約破棄で、さらに魔力の上がった私は、壊れた帝都をちょちょいと元通りにし、死んだ者を生き返らせ、ソフィアの小屋に帰った。
お土産を買い忘れてしまったけど、ダヴィデはニコニコ迎えてくれたし、ソフィアは美味しいケーキを焼いて待ってくれていた。
「もうしばらく世話になる」
と、呟いた私にソフィアは何も聞かなかった。出されたケーキは激甘だった。
むっ。帝都にいる宮廷魔導長が念話を送ってきた。こいつも私との婚約を破棄して出世を果たしたヤツだ。特にこいつはヒドかった。
「なんだ? 貴卿は私に気軽に話し掛けてこれるような関係ではないはずだが?」
[……そ、その節は……、ただ、帝都が燃えております……]
「なんだと? どういうことだ?」
[……突然、【闇の魔導師】と名乗る者が現れ、強力な魔導による攻撃を受けおります。宮廷魔導師も総力を挙げて反撃しておりますが、劣勢で……]
宮廷魔導師が総攻撃しても劣勢とは、只事ではない。
**千里眼**
むっ。魔素濃度が高い。闇の魔導師とは魔界に魂を売った者か。私の【千里眼】でも見通せないとは、宮廷魔導師では荷が重いか。
[……何卒、ご加勢を……]
この魔素濃度で念話を通してくる魔導長も、決して弱くはない。過去の経緯も超えて助けを求めてくるとは、帝都はよほどの危機にある。
「分かった。すぐ、行く」
「アルマ、どこに行くの?」
と、ダヴィデが不思議そうに聞くと、ソフィアが頭を撫でた。
「皇女様は、ちょっと帝都でご用事なんだよ」
他人の念話を立ち聞きするな。実力だけはしっかりある元聖女め。正しい行いだけしていれば、流刑になどならなかったものを。
「すぐ戻る」
と、私もダヴィデの頭を撫でると「いってらっしゃい!」と、無邪気な笑顔を見せてくれた。
――魔法陣展開。
光の束が描きだす魔法陣に包まれる。ダヴィデが目を輝かせて見ている。
**魔法障壁**
「ありゃ? 随分、周到だね?」
と、ソフィアが間の抜けた声で言った。
「あんな魔素濃度の高いところ、無防備に突っ込む訳ないだろ」
**転移して浮遊**
炎に包まれる帝都の空に浮かんだ。既に帝都の半分は灰塵と化している。
〈現れたな。第2皇女〉
と、私の背後に灰色のローブを纏った骸骨のような顔をした魔導師が浮かんだ。
「お前が【闇の魔導師】か? 随分、男前だな」
〈ふふふ、笑わば笑え。この容貌こそが、我が魔力の証。我は身体に88の呪いを刻んで、この膨大な魔力を得た〉
「呪いを88も……? お前、痛くないのか?」
〈なんだ、そのシンプルな質問は!? 痛いに決まってるだろ! その痛みと引き換えに得た魔力で、我は魔王様にお仕えするのだ! まずはこの西の帝都を献上させてもらう〉
むう。なんで人間が魔王に仕えたいのかとか、面倒な情緒はどうでもいいのだが、少し手強そうだ。これだけの魔素を放つとは、既に半分魔界の住人か。
〈我が88の呪いと、皇女の15の婚約破棄。どちらが強いか力比べといこうではないか〉
カッチーン。
「私だって強くなるより、幸せな結婚の方が良かったわーーー!!!」
――極大魔法陣展開。
私の展開した巨大な魔法陣を見た【闇の魔導師】はニヤリと笑って、杖を掲げた。
――魔界大呪殺。
強力な魔素の塊に覆われていく。
面倒で醜いヤツだ。魔法陣から魔力を放つ。さっさと塵になれ。
**滅びよ**
闇の魔導師はケタケタ笑って、魔素の塊から黒い光線を放った。
××× 腐れ ×××
魔力と魔力が宙空で激突し合う。それにしても腐敗魔法とは品がない。醜悪な見てくれにはお似合いだが。
〈やるではないか、第2皇女〉
「うるさい。さっさと塵になって滅びろ」
〈アンデッドにして、永遠の性奴隷にしてやろうというのに、つれないではないか〉
骸骨ヅラのクセに乙女をいやらしい視線で舐め回すとは、とんでもないヤツだ。
「その品のない口を閉じろ」
すると、骸骨男は嫌味ったらしく笑い始めた。
〈行き遅れ皇女には身に過ぎた幸せであろう?〉
「わ……」
〈ん? なんだ?〉
「わ……」
〈なんだ、震えているではないか? そうか、身を震わすほどに嬉しいか?〉
「わ……」
〈そうかそうか。永遠に可愛がってやるぞー! ケタケタケタケタ〉
「私は、まだ18だーーーー!!!!」
――極大魔法陣、十二面展開。
〈え、ちょっと……〉
「行き遅れなんぞと言われる歳ではないわーーーー!!!!!」
正十二面体のほぼ球形を為した、12の極大魔法陣に包囲された【闇の魔導師】が、見苦しく狼狽えている。
**滅びよ!!!**
〈うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!〉
「オリジナリティのない叫び声上げてないで、さっさと塵になれ」
〈ちょ、ちょっと待ってくれ!〉
「なんだ? 遺言でもあるなら聞いてやろう」
いかなる醜く邪悪な存在でも、最期の言葉くらいは聞いてやる大度がなくてはならない。皇女だし。
〈ほ、惚れた!〉
「はあ……?」
〈私はお前のような強い女が好みなのだ! け、結婚してくれ! 必ず幸せにするから!〉
「く、苦し紛れに、乙女の心を愚弄するか……」
〈本当だ! 本心だ! 私も婚約者に裏切られることがなければ、魔界に身を堕とすことはなかった!〉
「なんと……」
〈改心する! もう、悪いことはしない! 魔界からも足を洗う! 約束する! だから結婚してくれぇぇ!〉
カラーン、コローン、カラーン、コローン……。天使が鐘を鳴らす音が聞こえた。もはや、愛してくれるのなら相手を選べるような身の上ではない。
魔力の出力を半分くらいに抑えた。
「本当か? 本当に私を幸せにしてくれるのか?」
〈約束する! けれど、婚約を信じられないのは私も同じだ。今、ここで結婚しよう!〉
「なんと……」
〈結婚してしまえば、婚約の破棄などしようがないではないか!〉
私は十二面展開していた極大魔法陣を解き、ぜーはーと、肩で息をする【闇の魔導師】に宙空で近寄った。
「し、信じて良いのだな……?」
〈も、もちろんだ……。裏切られる痛みを知っている者同士。幸せになって見返してやろうではないか〉
「ヤミィ……」
なんと呼んでいいのか分からないので、適当なニックネームを付けた。
〈今の私はこんな顔だ。誓いの接吻をする唇もない。手を握り合って結婚の誓いとしよう〉
と、ヤミィが私に向かって手を差し出してきた。
〈嫁に、来てくれないか……〉
その眼球むき出しの瞳に濁りはなかった。信じていいのね……? 今度こそ、信じていいのね?
「はい……」
と、ヤミィの手をそっと握った。その途端にヤミィが激しく苦しみ始めた。
〈うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!〉
「え? なに? 私は何もしてないわよ!?」
〈結婚出来ない呪いを刻んでいたのだったぁぁぁ! この結婚、なかったことにぃぃぃぃぃぃぃ!!!〉
――極大魔法陣、無限展開。
〈わ、悪かったぁぁぁぁぁ!〉
**収納**
乙女の心を弄んだ罪は重い。塵になんぞしてやらん。何もない暗黒の異次元に永遠に幽閉してやった。
婚約から破棄まで最短記録を叩き出した16回目の婚約破棄で、さらに魔力の上がった私は、壊れた帝都をちょちょいと元通りにし、死んだ者を生き返らせ、ソフィアの小屋に帰った。
お土産を買い忘れてしまったけど、ダヴィデはニコニコ迎えてくれたし、ソフィアは美味しいケーキを焼いて待ってくれていた。
「もうしばらく世話になる」
と、呟いた私にソフィアは何も聞かなかった。出されたケーキは激甘だった。
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