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2.海竜の婚約者
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解呪のお礼に来た雑貨屋の主人が気になることを言った。
「最近、魚が獲れないって漁師がボヤいてましてね」
「ほう。なにか訳があるのか?」
「それがどうも、この辺りを縄張りにしてる海竜の機嫌が悪いらしくて、魚がみんな逃げてしまってるって話で……」
私は肉の方が好きだが、この最果ての地で獲れる淡白な味の魚も捨てがたい。小骨が多いのは難点だが、ソフィアの作るソースによく合うのだ。
それに辺境の流刑地とはいえ西の帝国の住民。どうにかしてやりたい。私、皇女だし。
指を鳴らして、魔力を放った。
**取り寄せ**
ソフィアの住む掘立て小屋の庭に、ドッシーンッ! という轟音が響いて、大きな物体が落ちてきた。
青黒くてヌメヌメした皮膚に、長い首。この辺りに生息する海竜を呼び付けた。
「無茶苦茶だなぁ」
と、呆れるソフィアと庭に出た。
海竜は最初、なにが起きたのか分からずキョロキョロしていたけど、私の顔を見ると怒り狂いはじめた。
〈人間風情が何をするか!〉
「ひどい、ダミ声ね」
〈おのれ!愚弄するのか!我を誰だと思っているのか〉
海竜が大きく振り上げた足で踏み付けようとしてきたので、私は指を鳴らした。
**凍れ**
「どう? 落ち着いた?」
と、私が声を掛けると、ソフィアの小屋より大きな氷の塊からニュッと首だけ伸びてる海竜がヘコヘコしてきた。
〈あ、はい。すみませんでした〉
「なんか、あんた機嫌が悪いって聞いたんだけど?」
〈あ、いえいえ、お嬢様に聞かせるような話では〉
「いいから、話しなさいよ。魚が逃げちゃって、みんなが迷惑してんのよ」
〈じ、実は……〉
と、メスの海竜が話したのは、ここ数ヶ月ほど婚約者が行方を眩ませてるって話だった。なんて、ひどい話だろう。15回も婚約破棄された私でも、毎回面と向かって破棄を告げられたというのに、黙っていなくなるとは。
「探すの手伝ってあげるわ!」
〈ホントですか!?〉
**取り寄せ**
ドッシーンッ!
辺り一帯に轟音が響き渡り、別の海竜が落ちてきた。
〈な、なにをするか!人間風情が!〉
「こいつ?」
〈ち、違います……〉
と、メスの海竜は氷の塊から伸びた首を左右に振った。
「ごめんねぇ」
〈なんのつもり……〉
**戻れ**
**取り寄せ**
ドッシーンッ!
〈違います……〉
**戻れ**
というのを、5回か6回繰り返して、ようやく婚約者だというオスの海竜を引き当てた。
オスの海竜は別のメスと一緒だったので、ついでに取り寄せてやった。
〈人間風情が、なにをするか!〉
**凍れ**
「どう? 落ち着いて話し合いできそう?」
と、氷の塊から首だけ伸びた3頭の海竜がヘコヘコしている。
「あとは3人で話し合って」
と、私が小屋に戻ろうとしたら、ソフィアが慌てたように言った。
「ちょ、これ。仲裁とかしなくていいの?」
「私に面倒な情緒は要らん」
◇
小屋の中でソフィアの焼いたクッキーをいただきながらダヴィデと3人でお茶していると、外から海竜の呼ぶ声が聞こえた。
〈あのぉ……、お嬢様?〉
「なんだ? 話し合いがついたのか?」
〈そうなんです。この人ったら、私のために……〉
と、メスの海竜が頬を赤らめている。
「なんだか良く分からんが、仲直り出来たのなら良かった。もう、漁の邪魔になるようなことはするなよ」
**戻れ**
氷の塊から首をはやした3匹の海竜を、元いたところに戻した。
「乱暴過ぎない?」
と、ソフィアが呆れたように言った。
「痴話喧嘩なんか聞いてられん。こちとら15回も派手に痴話喧嘩して、もうお腹いっぱいだ。仲直り出来たのなら、それでいい」
「いや、そうじゃなくて」
「なんだ」
「身体が凍ったまま海に戻されたら、さすがの海竜でも溺れ死ぬんじゃない?」
**取り寄せ**
青黒い皮膚をどす黒くした海竜たちの氷を融かしてやってから、海に戻した。
しばらくして、ほくほく顔の雑貨屋の主人が大きな魚を届けてくれた。早速、ソフィアがムニエルにしてくれたけど、小骨を取るのが面倒だ。やっぱり、私は肉がいい。
「最近、魚が獲れないって漁師がボヤいてましてね」
「ほう。なにか訳があるのか?」
「それがどうも、この辺りを縄張りにしてる海竜の機嫌が悪いらしくて、魚がみんな逃げてしまってるって話で……」
私は肉の方が好きだが、この最果ての地で獲れる淡白な味の魚も捨てがたい。小骨が多いのは難点だが、ソフィアの作るソースによく合うのだ。
それに辺境の流刑地とはいえ西の帝国の住民。どうにかしてやりたい。私、皇女だし。
指を鳴らして、魔力を放った。
**取り寄せ**
ソフィアの住む掘立て小屋の庭に、ドッシーンッ! という轟音が響いて、大きな物体が落ちてきた。
青黒くてヌメヌメした皮膚に、長い首。この辺りに生息する海竜を呼び付けた。
「無茶苦茶だなぁ」
と、呆れるソフィアと庭に出た。
海竜は最初、なにが起きたのか分からずキョロキョロしていたけど、私の顔を見ると怒り狂いはじめた。
〈人間風情が何をするか!〉
「ひどい、ダミ声ね」
〈おのれ!愚弄するのか!我を誰だと思っているのか〉
海竜が大きく振り上げた足で踏み付けようとしてきたので、私は指を鳴らした。
**凍れ**
「どう? 落ち着いた?」
と、私が声を掛けると、ソフィアの小屋より大きな氷の塊からニュッと首だけ伸びてる海竜がヘコヘコしてきた。
〈あ、はい。すみませんでした〉
「なんか、あんた機嫌が悪いって聞いたんだけど?」
〈あ、いえいえ、お嬢様に聞かせるような話では〉
「いいから、話しなさいよ。魚が逃げちゃって、みんなが迷惑してんのよ」
〈じ、実は……〉
と、メスの海竜が話したのは、ここ数ヶ月ほど婚約者が行方を眩ませてるって話だった。なんて、ひどい話だろう。15回も婚約破棄された私でも、毎回面と向かって破棄を告げられたというのに、黙っていなくなるとは。
「探すの手伝ってあげるわ!」
〈ホントですか!?〉
**取り寄せ**
ドッシーンッ!
辺り一帯に轟音が響き渡り、別の海竜が落ちてきた。
〈な、なにをするか!人間風情が!〉
「こいつ?」
〈ち、違います……〉
と、メスの海竜は氷の塊から伸びた首を左右に振った。
「ごめんねぇ」
〈なんのつもり……〉
**戻れ**
**取り寄せ**
ドッシーンッ!
〈違います……〉
**戻れ**
というのを、5回か6回繰り返して、ようやく婚約者だというオスの海竜を引き当てた。
オスの海竜は別のメスと一緒だったので、ついでに取り寄せてやった。
〈人間風情が、なにをするか!〉
**凍れ**
「どう? 落ち着いて話し合いできそう?」
と、氷の塊から首だけ伸びた3頭の海竜がヘコヘコしている。
「あとは3人で話し合って」
と、私が小屋に戻ろうとしたら、ソフィアが慌てたように言った。
「ちょ、これ。仲裁とかしなくていいの?」
「私に面倒な情緒は要らん」
◇
小屋の中でソフィアの焼いたクッキーをいただきながらダヴィデと3人でお茶していると、外から海竜の呼ぶ声が聞こえた。
〈あのぉ……、お嬢様?〉
「なんだ? 話し合いがついたのか?」
〈そうなんです。この人ったら、私のために……〉
と、メスの海竜が頬を赤らめている。
「なんだか良く分からんが、仲直り出来たのなら良かった。もう、漁の邪魔になるようなことはするなよ」
**戻れ**
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「乱暴過ぎない?」
と、ソフィアが呆れたように言った。
「痴話喧嘩なんか聞いてられん。こちとら15回も派手に痴話喧嘩して、もうお腹いっぱいだ。仲直り出来たのなら、それでいい」
「いや、そうじゃなくて」
「なんだ」
「身体が凍ったまま海に戻されたら、さすがの海竜でも溺れ死ぬんじゃない?」
**取り寄せ**
青黒い皮膚をどす黒くした海竜たちの氷を融かしてやってから、海に戻した。
しばらくして、ほくほく顔の雑貨屋の主人が大きな魚を届けてくれた。早速、ソフィアがムニエルにしてくれたけど、小骨を取るのが面倒だ。やっぱり、私は肉がいい。
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